「web3ゲーム機」は案外重要なのかもしれない
スクウェア・エニックス、コナミ、セガなどの大手ゲーム会社は近年、ブロックチェーンゲームの領域に進出しています。
直近の記事ではPlayStationシリーズを抱えるソニーグループの開発するレイヤー2であるSoneiumや、MMORPGの代表格であるメイプルストーリーのweb3戦略について取り上げました。
現在、ほとんどのブロックチェーンゲームプロジェクトは、アプリケーションの側か、そのアプリケーションを載せるOS部分にフォーカスしており、実際にプレイヤーが触るハードウェアについてはほとんどがノータッチになっている状況です。
しかし、海外では一部、ブロックチェーンゲームの体験に最適化されたゲーム機の開発が進められています。
筆者の経験ではweb3業界の人たちに「web3ゲーム機についてどう思うか」と質問してみたことが何度かあるのですが、「意味がわからない」、「スマホや既存のゲーム機でいいのでは?」といった返答がほとんどです。
正直なところ筆者も最初は同じような印象を抱いていたのですが、最近、よくゲームをするようになり考え方が変わってきたので、本稿では「web3ゲーム機の可能性」について別の視点から考えてみたいと思います。
近年のゲーム機のトレンド:クロスプラットフォーム化
最初からweb3ゲーム機についての考察を進めていきたいところですが、一歩とどまって、近年のゲーム機(ゲームハード)のトレンドについて解説します。
おそらくゲームをあまりしない人からすると、なんとなく「ゲーム機といえば任天堂とソニー(PlayStation)」というイメージがあるのではないかと思います。どちらも日本企業ですので日本人だとなおさらそういう人は多いと思います。
歴史的にはAtari、セガ、バンダイ、トミー、タカラ、NEC、シャープなど玩具メーカーから家電会社、ゲーム会社を含め数多くのメーカーがゲーム機開発に参入してきましたが、2000年代以降の「家庭用据置ゲーム機」は概ね任天堂とソニー、それにマイクロソフト(XBOX)がほとんどのシェアを占めています。
しかし、最近では家庭用ゲーム機の価格高騰、PCの性能向上、スマホの台頭、ゲームのオンライン化などを背景に、「家庭用据置ゲーム機」のプレゼンスは低下しつつあります。意外に思われるかもしれませんが、現在最もプレイされているゲーム機は「パソコン」です。ソフトのリリースが最も活発なのも「パソコン」です。
ただ正確にはPCゲームが流行っているというよりは、ゲームソフトやゲームエンジンがクロスプラットフォーム化しているという方が実情に近いと思います。Unityのようなクロスプラットフォーム開発に対応したゲームエンジンが登場し、個人所有のPCの性能が上がったことにより、PlayStation5で発売されたソフトがPC向けにも発売される、ということが近年では当たり前になってきています。
モバイルゲーム機の新たな形
ではモバイルゲーム機はどうなったのでしょうか?
1990年代はゲームボーイを筆頭に様々な携帯ゲーム機が、2000年代にはPSPやDSのようなモバイルゲーム機が飛ぶように売れていました。2010年代に入ってからはスマホゲームが破竹の快進撃を見せ、「モバイルゲーム=スマホ」という状況でした。
2020年代の現在も「モバイルゲーム=スマホ」という状況は大きく変わってはいませんが、しかし、レトロゲームブームにより任天堂を中心に携帯レトロゲーム機が復刻されるなどいくつか変化の兆しが見られます。
注目したいのは2022年以降に登場した「ポータブルゲーミングPC」という新たなゲーム機のジャンルです。
ポータブルゲーミングPCとは、ゲーミングPC(=高負荷な3Dゲームをプレイできるスペックを備えたPC)を小型化して、PSPのようなモバイルゲーム機のように遊べるようにディスプレイやコントローラーを一体化したPCです。
このジャンルの火付け役は、SteamというPCゲームの世界では最大手の販売プラットフォームを運営するValveというゲーム会社で、2022年にポータブルゲーミングPC「Steam Deck」をリリースし、世界中に衝撃を与えました。
Steam DeckはSteamで配信されているゲームのほとんど(一部は動作対象外)を動かすことができます。SteamはAndroidにとってのGoogle Play Store、iOSにとってのApp Storeみたいなもので、PCゲームをプレイしているユーザーの大半が利用するようなプラットフォームであり、PCゲームの多くはSteamから発売されていますから、ポータブルゲーミングPCが登場したことにより、PCゲームのほとんどが半ば自動的に「モバイル対応」したと言えます。
Steam Deckに続き、ASUS、Lenovo、MSIといったノートPCや小型PCの開発に強みをもつPCメーカーがこの市場に参入しています。Steam DeckはLinuxベースの独自OSで開発されているために基本的にはSteamで発売されているゲームしか動かないのですが、他社はWindowsを採用しているため、Steam以外のプラットフォーム(EpicGames、Origin、Battle.net、Ubisoftなど)でリリースされているゲームもプレイすることができます。
無論、Windowsで動いているからといってそもそもPC向けに開発されている以上、キー配置に無理があったりスペック的にどうしても動かないなど、なんでもモバイルで動かせるというわけではないのですが、ポータブルゲーミングPCの興隆に伴い徐々に最適化が行われていくものと予想されます。
続々登場するweb3ゲーム機
さて、冒頭で「web3ゲーム機」なるものが登場しつつあることをお伝えしました。
改めて紹介すると、1つはBitcoinネットワークと接続してマイニングしながらゲームをプレイできる、という触れ込みのBitBoyシリーズで、同じようなコンセプトの製品として最近はPlaySolanaというゲーム機も登場しています。
どちらも実機レビューがほとんど見当たらなかったのでいまいち詳細が見えないのですが、BitBoyシリーズの方は、レトロゲームのエミュレーター(特定のゲーム機やOS向けに開発されたゲームを別のOSで動かす機能のこと)を搭載してレトロゲーム互換機としても使えるように設計されているようです。
もう一つは、Solana Killerとも呼ばれるSuiというブロックチェーンの開発元が直々にリリース予定の「SuiPlay0x1」です。こちらは先ほど紹介したポータブルゲーミングPCとして開発されています。
ポータブルゲーミングPCに必要なweb3機能はウォレットだけ
SuiPlay0x1はどのような意味でweb3ゲーム機なのでしょう。
残念ながらまだ詳細はゲーム機としてのスペックと、様々なプラットフォーム上のゲームをプレイできるように設計されている、ということくらいしか明らかにされておらず、どのようなweb3機能が提供されるかは不明です。
そのためあくまで予想ベースになりますが、web3機能としてウォレットを搭載する可能性があります。とくに根拠があるわけではないのですが、思いつく限り、ゲーム機に搭載するweb3機能としては先のBitBoyなどが搭載するマイニング機能を除けばそれくらいしかないように思います。
「それだけ?」と思われるかもしれません。しかし筆者としては「たかがウォレット、されどウォレット」と感じます。
初期的にはSuiPlay0x1でプレイされるゲームの多くは既存のPCゲームでしょう。理由は単純で既存のPCゲームの方が総数が遥かに多いからです。既存のヒットタイトルもありますし、将来でてくるであろうヒットタイトルもこの圧倒的母数の差から生じてきます。そのため、この時点ではウォレット機能はポータブルゲーミングPCのおまけ機能でしかありません。
しかし、SuiPlay0x1でオンラインゲームをプレイするためには何かしらの形でオンボーディングが必要になるはずです。実際、すでに予約注文の時点でウォレットの作成が求められているため、おそらくSuiPlay0x1のセットアップ時に、ほとんど全てのユーザーがウォレットを作成/接続することになると思います。
ちなみに、GoogleやTwitchログインを行うことでそれらのアカウントに紐づいたウォレットが生成される仕組みを採用しているため、web3に慣れていないユーザーにとってもさほど難しくない操作でウォレットを作成できます。
話を戻しますが、したがって、SuiPlay0x1はあくまでも既存のゲームエコシステムに存在するゲームをプレイするために使われながらも、その間に、これまでオンボーディングされてこなかったユーザー層をweb3へとオンボーディングする仕掛けとして機能することになります。
想像してみてください。PS5やSwitchでゲームを楽しんでいた人が、ふとした好奇心からSuiPlay0x1を手に取る。そして、お気に入りのゲームをプレイしながら、自然とウォレット機能に触れる。web3の複雑な概念を意識することなく、ゲームの中で単にゲームアイテムとしてNFTやトークンを使ったり、取引したりする。そんな未来がありえるのかもしれません。
ゲーム業界からの反発
しかし、明るい未来だけがあるわけではありません。ブロックチェーンゲームという存在に対しては、業界の内外から、またユーザーから無視できない反発の声が上がっています。
例えば、Steamは2021年10月以降、規約上で「ブロックチェーンを利用したNFTや暗号資産の交換が可能なアプリケーション」の配信を禁止しています。
Steamの決定の背景には、NFTやクリプトカレンシーに関する法的な不確実性や、詐欺的な行為への懸念があると推測されています。しかし、この動きは単にプラットフォーム側の慎重な姿勢を示すだけでなく、ゲーマーコミュニティの声を反映したものでもあります。
実際にどれくらいのゲーマーがNFTやブロックチェーンに対して否定的な意見をもっているかを示すデータはあまりないのですが、ゲーマーコミュニティの「NFT嫌い」の兆候を示す事例はいくつも見つかります。
ただここに挙げた事例のほとんどは、NFT市場が好調だった2021~2022年頃の時期と被ります。この時期に詐欺的なNFTプロジェクトが多くあったことは事実ですし、今もそのようなプロジェクトがないわけではないので、コミュニティの反発には理解すべき点も少なくありません。とはいえ批判が一方的過ぎる印象もあるので、慎重に対話していくべきではないでしょうか。
また別の課題として、ポータブルゲーミングPCが本当に普及するのか、という問題もあります。否定的な意見が優勢な状況ではありませんが、一部では「既にゲーミングPCをもっているなら要らない」とか、「バッテリーが足りない」、「ポータブルというには大きすぎる/重すぎる」、「遊べないゲームが多い」など色々な否定意見もあります。
また、調べていて見かけはしませんでしが、「クラウドゲームをスマホでプレイしたほうが気軽」という意見もあり得るのではないか、とも思います。とはいえどのプレイ手段も一長一短なので、気長にユーザーの評価が固まるのを待つしかないようには思います。
おわりに
今回はあくまでゲーム体験の質には触れずに、クロスプラットフォーム化のトレンドやポータブルゲーミングPCの登場といった市場トレンドにフォーカスしてブロックチェーンゲームの未来について考察してきました。
別に問うべき問題として、ブロックチェーンゲームならではの体験とはなにか、あるいは、ポータブルゲーミングPCが可能にするブロックチェーンゲームの新たな形とはなにか、はたまた、既存のゲームプレイヤーに受け入れられるようなブロックチェーンゲームの形とはどういうものか、などもあります。今後、別の稿でこれらの問題についても考察していければと思います。
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