午前3時の亡霊メイド


あっとほぉーむカフェにはご帰宅(来店)ごとにたまるポイントがある。

このポイントが一定数を超えるとご主人さま・お嬢さまランクが上がり、お家賃(チャージ料)が安くなったりチェキお絵描きの制限がなくなったりとさまざまなサービスを受けることができる。

そんなご帰宅ポイントの累計や現在お給仕しているメイドの一覧が見られたり、チェキを誰と何枚撮ったかを管理できたりする便利なアプリが公式から配信されている。
ご帰宅ライフには欠かせないものだ。

しかし、そのアプリには奇妙な噂が存在する。

『現在お給仕中のメイド一覧』
このページを、ある決まった時間に開くとお給仕しているはずのないメイドが表示されるのだという。

午前3時33分。

3が並ぶこのタイミングから『午前3時の亡霊メイド』と呼ばれている。



この都市伝説に果敢にも挑んだメイドがいた。

仲良し4人組はAというメイドの自宅に集まる予定だった。
怖いものでもみんなで見れば大丈夫…というのは建前で、ワイワイお泊りするのが目的だった。

しかし、当日はAを除く3人に用事ができてしまったらしくお泊まり会は延期。結局Aはひとりで見ることになってしまった。

「そんなのあるわけないじゃん」

Aは心霊や都市伝説が好きなものの、その存在には否定的だった。
みんなで見ようって言ったのに。ひそかに楽しみにしていたお泊まり会だったので、悲しい気持ちが徐々に怒りへと変わりつつあった。

ふと時計を見ると時間まであと30秒だった。
忘れるところだった、と慌ててアプリを開く。

3、2、1…ピピピピピ
セットしたタイマーが鳴り響く。


「嘘でしょ…」

現在お給仕中のメイド一覧に、アイコンがひとつだけ表示されている。

メイドの写真が入る部分にはノイズが走り、輪郭はわかるものの顔のパーツがわからないくらいぐちゃぐちゃに加工されている。
名前の部分には「豁サ逾」とあるが文字化けしていて解読不能だった。

おそるおそるアイコンをタップした。

——-

鮟?ウのくニかかかららやってマままいりましたたタ。
豁サ逾ともううしマすすすスス。、。。。、。
ワタシははははとってても寂しがががガガがりやなナノので、


永遠にご主人さま・お嬢さまのおそばにいさせてくださいね。

——-

「なにこれ…」

メイドの自己紹介ページに飛んだ自分を恨んだ。気味の悪さに背筋が凍る。

スマホを持つ手にじわりと汗が滲む。
じわじわとやってくる理解のできない恐怖に押し潰されそうになる。
部屋の空気が冷たい気がする。
布団をかぶって丸まり防衛体勢をとる。
こんなにこの部屋狭かったっけ?


何かが、そこに、いるような、気がする。


急いで4人のグループLINEにメッセージを送る。

「ねえ」
「やばいんだけど」
「アプリ見て」

しかし既読がつかない。みんな夜行性なはず。
こんな時間だが誰か起きていても良いはずだ。

youtubeでも見て気を紛らわそう。
そう思いアプリを立ち上げようとしたその時、既読がついた。

ホッとした。
既読というリアルを感じた瞬間、恐怖はどこかへ消える。
嫌味のひとつでも送ってやろう。
そう思い画面に指を近づけると「ポンポンポン」という音と共に連続してメッセージが送られてきた。


「これからは」


「永遠に」


「一緒だね」

——-

Aは消えてしまった。

卒業したとかそういうことではなく『消えてしまった』のだ。
同僚のメイドも妖精も、仲良しグループのみんなですらもAを覚えておらず、その存在が初めから無かったかのようにすっかり消えてしまったのだ。


ところで最近になって、

『午前3時の亡霊メイド』のアイコンがふたつになっている

という噂を聞いたのだが、これは果たして。

……

いかがだっただろうか。

この話はすべて私の妄想である。
誰から聞いたという話ではないしこんな噂もない、と思う。
ただ、思っていたよりもしっかり目に怖い話になってしまい、セルフ恐怖で続きをお屋敷でしか書けなくなってしまったのはミスだった。

実はこの話には元ネタがある。
Twitterに誰かが動かしている架空のメイドアカウントが存在するのだ。

アイコンは輪郭からかろうじてメイドとわかるのだが、顔にノイズを走らせておりぐちゃぐちゃ。
アップするメイドの写真もノイズなどで加工しているものの、ツイート内容は「お給仕終わりにラーメン食べたよ」とか「○月のお給仕予定はこちらです」とか、メイドがしそうなものなので気味悪さがある。
※普通に怖いのでアカウント名は伏せます。直接聞いてください。たしかメイドさんに聞いてこのアカウントを知った気がします。

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先日こんなチェキを撮った。

画像1


あみゅさんは2021年4月メイドだ。
彼女はとても一生懸命で表情がコロコロ変わり、いつもニコニコしているイメージがある。そしてお絵描きの『クセ』が強い。

このチェキはマオマオの似顔絵が下段に描いてあるのだが、

「これは三つ編みを両サイドに突っ張って壁を登る姿」

だそうだ。
惑星をひとつ滅ぼす近未来の兵器である。
そしてこのチェキには続きがある。

画像2

下に描いてあるキャラはムキムキの猫『ムキムキャット』とのこと。


「うで」「うで」ときて「くび」ではなく「食道」だ。そしてムキムキャット。
もうお分かりかとは思うが2枚を合体させると、

画像3


異形の怪物が誕生する。

『3回見たら絶命する絵』みたいなお絵描きだ。
ちなみにマオマオはこれを見て「こんな姿になれるとは嬉しすぎる」と言っていた。3回ご帰宅したら絶命するかもしれない。

そして既視感のあるこの姿…何かに……そう、遊戯王に出てくるエグゾディアである。

エグゾディアは「頭+胴体・左腕・右腕・左足・右足」の5枚のカードにわかれており、1枚ずつでは弱いものの手札に5枚が揃った途端「その試合の勝利が確定する」という特別なキャラクターだ。

ということはこのチェキ、両腕と両足を揃えたら勝利が確定するのだろうか。誰の何に対する勝利なのだろう。
なにやら良からぬことが起きそうな気がするのでここで止めようか悩んでいる。

そして都市伝説といえば思い出すのがしもふりである。
2020年に卒業した彼女は都市伝説が好きで、よくそういった話をしていた気がするし、チェキで都市伝説シリーズなんてものを撮っていた。

画像4

その中でもお気に入りはこの一枚だ。
1枚の中にストーリーがある。
アクションに対するリアクション、そしてお絵描きのクオリティ。
さまざまな要素がまとまっている。

以前「声が聞こえるチェキ」とまで謳われた伝説の1枚があるのだが、それはまたの機会に紹介しようと思う。

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アワードの投票が始まった。
ご帰宅した際に用紙を配られ、各賞にメイドの名前を書いて投票する。

ちなみに「ベストご主人さま・お嬢さま賞」があったら受賞できるようなご帰宅を、というのを常に胸に秘めているのは秘密にしておいてほしい。

賞のひとつに「お絵描きが上手なメイド」という項目がある。

「どうやったらそんなお絵描きができるのか」
というほどレベルの高い技術を持ったメイドもいる。
使用されたインク量により物理的に重く感じる時もあるほど。センスはもちろん、経験や努力なども加わっているのだろう。

しかし、技術だけでなく気持ちも大切である。

その1枚に気持ちを込めてほしい。
見返した時にその日の出来事や会話、空気や香りすら思い出せるような1枚にしてくれたらそれほど嬉しいことはないと思う。

物理的ではない重みを感じられたら最高だ。

ありがたいことに自分の知る限りでは気持ちが込められていると思うし、たまに執念にも似たなにかを感じることもある。
呪いのようなチェキをもらった時もある。

人には得手・不得手がある。
ただ、気持ちを込めることは等しくできると思う。

被写体を同じ状態で撮影しても、カメラマンによって写真の出来が異なるという。これは被写体との関係から発生する感情が写真に乗るからである。

感情はチェキにも乗る。
普段は目に見えない感情も存在を感じることがあるのだ。
そのすべてを感じ取れているか? と聞かれると「ときめきメモリアル」ですらまともにプレイできない私はいささか不安である。

なんてことを書いていると「いつの間にか説教臭いなぁ」と「四十にして惑わずなのに惑っている」自身の年齢を実感してしまうので退散する。


ちなみに、いまあなたは何時にこれを読んでいますか?

午前3時33分。

アプリの『お給仕しているメイド一覧』を見てみてください。


何かが、


そこに、


いませんように。

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