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再録「あのときアレは高かった」〜ナショナル・トランザムの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

通信キャリア各社の方針は、通話が「かけ放題」で通信には制限をかけるという料金体系が一般的な傾向だ。なるほど、通勤電車のなかで動画やオンラインゲームを楽しむ人が目につくし、できるだけ規制しておかないと回線がパンクしてしまう、ということらしい。

便利に向かっているのか、一回転して不便に向かっているのか。そこんところはもはやよくわからないが、少なくとも昭和のおじさんたちにとって、映像を好きな場所に持ち歩けるなんていうのは、ものすごい「夢のまた夢」の実現なのであった。

ナショナルから1979年に発売された携帯型テレビ『トランザム』。

当時、この「テレビを持って出かける」という行為は、贅を超えた、いわばちょっと偏執的な習性を感じさせる、そんな商品であった。

思い返せば今から30年前。大学生の時、クルマ(トヨタ・ハイラックスサーフ)のダッシュボードに乗っけられたこの「トランザム」セットを見て、「よし、社会人になったら、俺はアレを目指そう!」と考えた。

苦労の末両方手に入れてみたものの、まだ、その当時はたいして映りもよくないし、そもそも助手席の彼女そっちのけで必死で見るほどの番組もないということに後から気付かされたのであった。

トランザムの発売当時の価格は69800円。現在の価格に直すと約98000円である。バブル期にさしかかろうという頃の浪費とはいえ、やや「無駄遣い」感が否めないのも若干の事実である。

片手に夕刊紙、心に花束、ポケットにスマホ。今のスマホは、そんなおじさんたちの憧れや悲しみを吸収し、ここまで発展してきたのである。



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