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再録「あのときアレは神だった」〜風大左衛門

テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。

(2016年より、夕刊フジにて掲載)

ものの本によると、元ブルーハーツの甲本ヒロト(1963年生まれ)は、風大左衛門(かぜ・だいざえもん)が好きらしい。

風大左衛門とは、言わずと知れた昭和の名作、あの『いなかっぺ大将』(川崎のぼる原作、70年から72年まで、フジテレビ系列でテレビアニメ放映)の大ちゃんである。

今のような「うるさい」時代には、おいそれと言えないが、その当時の「いなかっぺ」という言葉には、ゆるキャラの100倍ぐらいのキャラクター性があった。

大ちゃんはその「いなかっぺの神」だ。

「いなかっぺ」とは、洗練されていない、マナーをわきまえていない、なまりがある、などのことをいう。田舎から都会へ出てきて間もないそんなさまをからかいながらも、「けっきょくはみんな同じ田舎出身さ」と、どこか愛らしく使われていた。(そもそも本当の都会人なんてめったに会わなかった)

「いなかっぺ」の威力はけっしてマイナスイメージだけではなかった。物おじしない。陽気で明るい。考え方がシンプルで一本気。たとえていえばこんなところだろう。

あと、この大ちゃんの場合は音楽が聞こえるとわれを忘れ踊り出してしまう、すぐにふんどし一丁になってしまうという「習性」もあった。

『いなかっぺ大将』が放映された1970(昭和45)年は、第三次佐藤栄作内閣、北の富士が横綱に昇格し、大阪で万国博覧会が開かれた。国鉄の「ディスカバージャパン」がスタート、国内外から多くの人が狭い日本にひしめき合った。

日本はまだまだ頑張ってるけど、世界の中ではみそっかす。日本自体が世界の「いなかっぺ」で、むしろその言葉に自戒と愛着を滲ませながら、高度経済成長期を「どこまでも」走っていった。 (中丸謙一朗)


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