SmartHRでアクセシブルな社会を推進したい

こんにちは。アクセシビリティエンジニアの辻勝利(つじ かつとし)です。
僕は先天性の全盲の視覚障害者で、9月からSmartHRで働き始めて一ヶ月がたとうとしています。

3月頃からこのノートで記事を書き始めたのですが、あまり自己紹介らしい投稿もしないままになっておりましたので、今回は僕が何者なのかという紹介と、今後SmartHRでどんな仕事をしていきたいのかについて書いてみたいと思います。


これまでのアクセシビリティ向上の取り組み


僕がWebアクセシビリティの仕事を始めたのは約20年前、企業や自治体の担当者向けにWebサイトをアクセシブルにすることで自身を含めた視覚障害者が情報を入手しやすくなることを伝える啓発活動が主な仕事でした。
画像に代替テキストを付けることで、Webコンテンツで使用されている画像の内容が僕たちにもわかりやすくなること、リンク先として「こちら」や「ここをクリック」とだけ書かれたテキストがわかりづらいことなどを現地でスクリーン・リーダーを使ってデモしながら紹介していました。
また、お客様独自のアクセシビリティのガイドラインを整備したり、既存のコンテンツがそのガイドラインに沿って作成されているかをスクリーン・リーダーを使ってチェックするというのも大事な仕事でした。


さて、皆さんはスクリーン・リーダーをご存じでしょうか?
コンピューターやスマートフォンなどの画面情報を音声や点字に変換して伝えてくれるもので、画面を見ることのできない僕の仕事には欠かせないツールです。
今日ではWindows、Mac OS、iOS、Android OSなどの多くのOSに標準で入っていますので、気になる方は是非試してみてくださいね。

そんなスクリーン・リーダーについては、国内でも利用者が増えつつあるWindows用のNVDAのローカライズに関わったことも僕の仕事の中で大きなインパクトのある出来事でした。
2007年頃、僕はWebアクセシビリティ向上を推進する会社で働いていたのですが、当時国内で多くの人たちが利用していたスクリーン・リーダーでは、アクセシビリティを意識して制作されたコンテンツをアクセシブルな状態で閲覧できないという問題があって、自分たちが作成したアクセシブルなコンテンツをアクセシブルな状態で閲覧できるスクリーン・リーダーを国内に普及させたいという思いでUIのローカライズやマニュアルの翻訳などを行いました。


Webアクセシビリティを多くの人たちにもっと身近に感じてもらうために発信を続けた「アクセシビリティPodcast」や「辻ちゃんウエちゃんのAccessiブルGoGo!」も、Webアクセシビリティを普及・啓発する取り組みでした。

20年間感じていた課題への取り組み


先にまとめたとおり、僕は20年くらいWebアクセシビリティに関する仕事をしてきたのですが、仕事の現場ではデジタルの情報を使っているにもかかわらず、どうしても避けて通れない紙の情報のやりとりと言う問題がありました。

企業に入社して働き始めるには紙の書類を読んでその内容を理解し、問題がなければ印鑑を押したりサインをしたりして入社手続きをする必要があります。
また、毎月受け取る給与明細は長い間紙でしたし、経費申請や会議で使う資料など、紙は働く環境のあらゆるところにあって、僕が独力で何とかできない大きな問題でした。


前職でSmartHRを使って給与明細を確認したり年末調整の手続きを行ったりしたことがきっかけで、このサービスをもっとアクセシブルにすれば、僕たち視覚障害者が長年悩まされてきた紙での様々な手続きが自分自身でスクリーン・リーダーを使って行えるようになるのではないかと思い、転職を決めました。

SmartHRに入社するに当たって、これまで働いた会社と大きく違っていたのは、入社手続きをPCを使ってオンライン上で自分だけで完結できたこと。
入社の段階から「紙」による手続きがなく、SmartHRの機能を使って自分自身で必要な情報を入力して手続きできたことに感動しました。

もちろん、現在の入社手続きに全く問題がないわけではありませんが、これから開発チームの皆さんといっしょに改善を進めて、より多くの働く環境をアクセシブルにしていきたいと考えています。

最初の取り組みとして、9月16日には「俺の入社手続き」という社内Webinarを開催し、SmartHRの入社手続きがスクリーン・リーダーユーザーにとってどのように読み上げられているのか、どこを改善すればより使いやすくなりそうかを紹介しました。
当日は、社内の様々な職種の方が80名以上参加してくれて、Slackのスレッドでも多くの質問やコメントをいただきました。


今後やっていきたいこと


SmartHRには入社手続きだけでなく、給与明細や年末調整を始めとした様々な機能があります。
これらのアクセシビリティを改善し続けることで、企業で働く視覚障害者を初めとした多くの人たちが「紙」以外の手段で手続きができるようになります。

これまで、僕たちが人事担当者を初めとした同僚にサポートしてもらわなければできなかった手続きを独力で完了できるようになること、そしてそれが業務の効率化や障害者を初めとした多くの人たちの職域拡大にも繋がるものと僕は信じています。
自分がこれまで経験してきたことや学んできた技術を生かして、アクセシブルな業務システムのモデルケースを作ること、そしてその活動を継続して世界中をアクセシブルにすることが僕のミッションだと考えています。


最後に、昨年参加して心を動かされた「AFB Virtual Leadership Conference 2020」で紹介されていた、視覚障害者が業務システムベンダーに確認すべき7つの質問を紹介します。
これらの質問に自社の取り組みや方針をちゃんと答えられる業務システム開発ベンダーが増えることで、オフィスやリモート環境で働く全ての人たちが安心してそのシステムを使うことができるような世の中を作っていきたいなと思っています。


1. 貴社のアクセシビリティポリシーについて教えてください。
2. 貴社はデジタルアクセシビリティの確保に向けてどれくらいの期間取り組んできましたか?
3. どんな種類のアクセシビリティのテストを実施しましたか?
4. どの(アクセシビリティの)標準にフォーカスしていますか?
5. サードパーティと協力して製品のアクセシビリティを監査または検証しましたか?
6. その結果としてVPATを取得しましたか?
7. 貴社にはアクセシビリティを専門とする部署がありますか?

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