丁合のすゝめ:ボードゲームづくりで考える作業効率化
「Bana-na」のバナナ争奪戦が始まる前のサル村でのおはなし……
子分ザルのサルオくんがひとりで黙々と作業していることに、リーダーサルであるサルスケが気づきました。
( ・∀・)サルスケ: リーダーサル。2匹の子分ザルをまとめる。ゲームのルール上列に割りこみができる。
( ´∀`)サルオ: 子分ザル。もう1匹の子分ザルと一緒に木を揺らすことができる。
( ・∀・)「何をしているんだい? サルオくん」
( ´∀`)「間近に迫ったゲームマーケット2019秋で発売する『Bana-na』の準備をしているんです」
( ・∀・)「なんだって!? 11/23(土)に2500円で頒布予定の『Bana-na』のことかい!?」
そう! 「Bana-na」はブース番号V09-10のサークルDebug Monkeysで頒布予定なんだ!
注: 現在はBana-naはboothにて発売中なんだ!
( ´∀`)「それで、丁合(ちょうあい)作業を進めているんですけど、ミスが多くてなかなか終わらないんですよ」
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【丁合作業とは?】
出版物を大量生産する場合、1つの印刷機に1つの版を組み付けて同じ折丁を複数枚印刷していきます。
例えばA・B・C・D・Eの5つの折丁で1冊の本ができる場合、Aの折丁の束、Bの折丁の束、Cの折丁の束、Dの折丁の束、Eの折丁の束がそれぞれにできあがるわけです。
ですからこれらを1冊の本にするには、A~Eまでをそれぞれ1つずつ順に重ねていかなければなりません。
この、折丁をページ順に揃える作業のことを、「丁合」と言います。特にカレンダーや事務用製本のような1枚ものの印刷物を「ペラ」と呼び、これを丁合することを「ペラ丁合」と言います。
引用: 大同印刷株式会社(http://daidoprinting.co.jp/glossary/glossary-chouai)
(おそらく厳密には本などの出版において扱われる言葉なので、コンポーネントのほとんどがチップである「Bana-na」では微妙に当てはまらないですが、作業的には同等のことを行っているため、ここでは丁合と呼びます)
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( ・∀・)「どんなふうにやっているんだい?」
( ´∀`)「型紙からチップを取り外したあと、必要な枚数のチップを取り出して袋に詰めています」
( ・∀・)「そうか……でも『Bana-na』には10種類を超えるチップが、種類によっては10枚以上入ってるよね? その方法だと途中で何枚袋に入れたかわからなくなったりしない?」
( ´∀`)「そうなんですよ……1本の黄色バナナは16枚必要なんですけど、15枚だったり、チップを見間違いやすくて、下手すると2本の黄色バナナを一緒に混ぜて数えてたりするんです」
注: たとえば上の画像は左上が「1本の青バナナ」右上が「2本の青バナナ」左下が「3本」右下が「4本」です。
( ・∀・)「それは良くないね……そうだ、『治具』を作ってみたらどうかな?」
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治具とは
同一製品を数多く生産する場合は加工、組立、検査など、同じ作業を繰り返し行います。
この場合、安全で精度よくバラツキが少なく、早く作業が出来る様にすることが重要です。この目的のために部品を位置決めし、固定して作業を行える構造を持つ作業工具をジグ(治具)といいます。
引用: 日本治具株式会社(http://www.sugino.com/site/profile-nihonjig/jig.html)
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( ´∀`)「工業とかで使われるやつですよね? でもこの村には工作機械もプリンターもないですよ?」
( ・∀・)「そんなに複雑なものは要らないよ。紙とペンだけで作れるもので工夫するだけでも、作業は改善できるものなんだ。まずは自分の思うとおりにやってみてよ」
( ´∀`)「わかりました。やってみます」
~翌日~
( ´∀`)「サルスケさん! 治具ができたので見てもらってもいいですか?」
(時計や型紙が写っていてみっともないけど、よいこのみんなは気にしないようにしよう!)
( ´∀`)「本当に紙とペンだけで、5分くらいで作ったので恥ずかしいんですけど……」
( ・∀・)「いやいや、それでいいんだよ。どうやって作業を工夫したのか説明してごらん?」
( ´∀`)「はい。まず、自分が途中で何個数えてるかわからなくなるのを防ぐために、紙の上にチップを置けば数えなくても必要な枚数が揃っていることがわかるようにしました」
( ´∀`)「この治具にはチップを置くべき場所が書いてあって、写真のようにチップを置けば1個分のチップが揃ったことがわかるようになりました」
( ・∀・)「そうだね、作業しながら物を数えたり、算数をしたりするってのは、思っている以上に難しいことだ。僕も努力値を貯めるために自分が今何体目のコダックを倒したかが、やってるうちにわからなくなったことが何度もあるよ。なるべく避けた方がいいね」
( ´∀`)「この治具にはわかりやすくするための工夫が何点かあって、たとえば上の写真みたいに、同じ種類、似た種類のチップはまとめて並べるようにしています。他にも……」
( ´∀`)「その場所に、置くべき本数のバナナのチップを指示しています。1と書かれた場所に、1本の黄色バナナチップを置けばいいわけですね。また、うっかり2本の黄色バナナの列を1列延ばしてしまわないように、バナナの種類ごとに境界線を太くして、間違いにくいようにしています」
( ・∀・)「いい発想だね。紙に置くべきチップの種類を書くだけでなく、チップを置いたあとも一目で境界線がわかるようにしているんだね。こういうふうに2重、3重にチェックポイントを用意することは大事なんだ」
( ´∀`)「あと、これは治具の話とは違うんですが……作業の方法も変えました。具体的には、袋に詰めるときの手順が毎回同じになるように手順を決めました。まずチップを並べたあと……」
( ´∀`)「特殊チップとサルチップ、緑バナナチップを拾って小さい袋に詰めます。小さい袋は大きい外袋に入れておきます」
( ´∀`)「1本と2本の黄色バナナを積み上げておきます。残りの3本と4本のバナナチップを、3本のバナナが8枚、3本と4本のバナナが4枚ずつで8枚、4本のバナナが4枚、となるように分けていきます」
( ´∀`)「黄色バナナチップを袋に詰めたあと……あっ、ちなみにこの詰め方も写真のやり方で統一しています。この袋に詰まったチップを、外袋に入れ、同じ折り方で折りたたんだ説明書とゲームボードを同じ重ね方で重ね、外袋に入れています」
( ´∀`)「袋に詰める手順を同じにすることで、チップを拾いながら、置き間違えたチップがないかを確認することができます。つまり、ミスがないかどうかを作業しながら確かめることができるわけですね」
( ・∀・)「いい着眼点だと思うよ。同じ手順でやることで、慣れとともに作業スピードも速くなってくるし、何より同じ作業のやり方である限り、間違いの動きをする可能性が減るよね」
( ´∀`)「昨日これを考えたあとしばらく丁合を進めていたんですが……作業しながらミスがないと自信を持てますし、実際確認したら、劇的にミスが減っていたんですよ!」
( ・∀・)「それはよかった! たった5分で2時間、3時間ものミス修正の時間を減らせるなら、治具を作った方がいいのは明白だよね。それじゃあ、僕から少しだけアドバイスしよう」
( ・∀・)「上の写真はいくつか間違いがあるんだけど、どこに間違いがあるかわかるかな?」
( ´∀`)「ぱっと見は違和感ないですけど……あっ、境界線を越えて2本の黄色バナナと1本の黄色バナナが入れ替わってますし、3本の黄色バナナが1列足りてないですね」
( ・∀・)「そうだね。非常にコンパクトな治具ではあるけど、直感的には上の写真のような配置であってほしいよね。改善策としては、段数を揃えたり、1本のバナナと2本のバナナが混じった列を作らないようにしたり、見た目がまったく違うバナナが並ぶ治具にしたりするといいだろう。たとえば、3本のバナナ、1本のバナナ、4本のバナナ、2本のバナナの順に並ぶように治具を作れば、3本のバナナがあるべき場所に1本のバナナが混ざってても、間違いにすぐ気づけるよね」
( ´∀`)「なるほど……治具をもっと工夫すれば、0ミスも夢じゃないかも?」
( ・∀・)「できれば、発生したミスの原因を考えて、それが無くなるような治具や作業に改良していくのがいいだろう。どうしても3本のバナナと4本のバナナを見間違えてしまうなら、チップを型紙から外しながら作業するのではなく、事前にチップを型紙から外して、種類ごとにより分けておくとかね」
( ・∀・)「最後に、今回治具を作るうえで工夫できていた点、工夫すべき点をまとめてみよう」
1.数を数えたり、算数をしたりすることを避ける
2.一目見てどこに何を置けばいいのかなど、使い方がわかるような治具にする
3.ミスが一目でわかるよう、配置や作業を工夫する
4.作業の中で2重3重にミスをチェックできるようにする
5.無理なく忠実に同じように行える作業にする
( ・∀・)「ボードゲーム作りは個人や小規模単位ではお金がかかりすぎることもあり、少しでも自分で作業するようにして経費削減を目指すことがあるだろう。面倒くさくて手戻りが多い丁合作業から、工夫した治具と作業で簡単でわかりやすい丁合作業に変えて、ローコストなボードゲーム作りを目指そう!」
( ´∀`)「何なら映画見ながら丁合作業もできるよ! ここ2週間で丁合しながら映画10本観て、『怒り』と『百円の恋』が面白かったのでぜひ観てください」
( ・∀・)「えっこれから丁合作業するんじゃなかったっけ?」
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すごいクオリティの製品届いてとても嬉しかったんですけど、バカ正直に丁合やってると精神が死ぬし間に合わないな、と思ったんで、少しでも楽したいなと思ってこういうことをずっと考えて、やっていました。僕はガッチガチに理系出身なんですが、もしかしてボードゲーム作ってる人たちって基本的にデザイナーとか文系出身の人が多いんじゃないか?と勝手に思ってて、こういう記事ももしかしたら需要があるか?と思って書きました。正直これで丁合ミスってたら笑い話にもならないなと思いながら書いています。あとで一応簡単に全部確認します。
先日丁合作業が終わり、触りたくて仕方なかったけど丁合がマジで終わらなさそうで触れてなかったポケットモンスターソード・シールドにやっと触れます。同期が飯のときに僕の知らないポケモンやキャラクター、街などポケモンの話しかしないので涙が止まりませんでした。僕はボードゲームが好きですけどデジタルゲームも好きです。2週間前までメルカリで買ったDEEPストレンジジャーニーばっかりやってたせいで丁合がキツくなったのもあります。
本当は予約が21日いっぱいで終わりだったので、この記事を昨夜(20日)に書く予定だったんですが、間に合いませんでした。ぜひ当日11/23(土)にデバッグモンキーズのブースにお立ち寄りいただき、「Bana-na」をお求めいただければ幸いです。
注: 現在はBana-naはboothにて発売中なんだ!
本記事における作業工程設計の留意点をもう一度おさらいします。
1.数を数えたり、算数をしたりすることを避ける
2.一目見てどこに何を置けばいいのかなど、使い方がわかるような治具にする
3.ミスが一目でわかるよう、配置や作業を工夫する
4.作業の中で2重3重にミスをチェックできるようにする
5.無理なく忠実に同じように行える作業にする
これはあくまで「Bana-na」を作るうえで考えていた点で、実際はもっと考えるべきことがあるし、もっと最適化すべき部分があります。たとえば作業者が作業中に映画を見るなど散漫な状態で作業してしまうことは避けるべきですし、作業中は両手をなるべく使いっぱなしにするとか、熟練によって作業スピードや作業方法がなるべく変わらないようにするとかを考えなければなりません。
(でもマジで一人でずっと何日も夜中まで丁合作業するのしかも初めてのボードゲーム製作で結構ナーバスだしめちゃくちゃ精神に来るので映画でも見ないとやってられなかったんですよ。お許しください!)
工程改善の世界ではいろはのいである「トヨタ生産方式」も、考えようによっては生産とも言い難いようなボードゲームの丁合作業に適用することができます。「不良のムダ」は当然そうですし、「運搬のムダ」を減らすために部品置き場と作業スペース、完成品置き場はなるべく近くに置くべきです。今回はチップを入れる小袋が完成するたびにいちいち外袋に入れてましたが、説明書の手折りまで全部完成してから外袋に入れた方が、外袋を持ったり置いたりする回数が減り、サイクルタイムが短くなります。
さらに言えば、作業工程設計の留意点の一部は、そのまま良いボードゲームの作り方に転用できるのではないか?とも考えています。つまり……
1.プレイヤーが数を数えたり、算数をしたりすることを避ける
ゲーム中の複雑で厳密な勝利点計算は、ひとりのプレイヤーの思考時間を長くすることになるし、考えるプレイヤーと考えないプレイヤーの格差を大きくする可能性があります。面白いゲームは、ポイントトラックを用意し、現在の点数からいくつかの点を足すか引くかさせるだけで、常に今誰が勝っていて、勝つためにあと何点必要なのかをわかりやすくしています。または、現状の獲得勝利点数をわからなくし、今目の前の点数の勝ち負けだけにプレイヤーを集中させます。
2.一目見てどこに何を置けばいいのかなど、使い方がわかるようなゲーム・コンポーネントにする
長い説明書を読んで、やっとゲームボードやチップの使い方を理解するようなゲームは、プレイヤーに遊ぶ気持ちを無くさせます。まして、プレイのたびにいちいち説明書を読んでコンポーネントの機能を思い出していたのでは煩わしすぎます。コンポーネントを見た瞬間に、そのチップやカードがどのように使われたがっているか、ゲームボードがどこに何を置いてもらいたがっているか、がわかるのがベストだと考えます。
3.無理なく忠実に同じように行える操作にする
プレイヤーが自分のターンに何ができるかを大枠で素早くとらえられることは、ゲームの雰囲気に速やかに没入できるようになるために必要なことだと考えます。まして、自分や他プレイヤーの手順間違いに、いちいち指摘が飛び交うようではゲームに冷めてしまいます。「カタン」であれば、まず資材が手に入り、それから資材を使うチャンスが得られる、というように、プレイヤーが直感的にイメージできるような手順であるのが良いと思います。
以上は持論に過ぎませんし、良いゲームと面白いゲームはまた違うので、ゲームが面白くあるためにはもっと別のものが必要ですが、しかし魅力的なゲームを作るために目指すべきひとつの到達点ではないか、とは考えています。何より僕はこういう話が好きなので、ゲームデザインをもっと最適化して、良いゲームが簡単に作れるようにならないかな、と思っています。いやでも競合が増えると僕のゲームが売れなくなるな。
これは丁合しながら考えたことなので、残念ながら「Bana-na」を作る前にこれを思いつくことはできませんでした。でもまあ結構当てはまるんじゃないかと思ってるし、テストプレイしてて面白かったので、良いゲームになってるんじゃないかと考えています。
予約は残念ながら終わってしまいましたが、11/23(土)にブース番号【V09-10】にて発売予定ですのでぜひよろしくお願いします。
注: 現在はBana-naはboothにて発売中なんだ!
結構ブースがわかりやすいんじゃないかなと思います。あとロゴ入りのウインドブレーカーを着ている手はずになっています。
最後になりましたが、これは実家のねこです。