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共同代表クロストーク【前編】死と未来の選択肢

高齢化社会の次に訪れるとされる多死社会において、「死」をタブー視することなく、年代や状況によらず多くの人が死と向き合い自分ごと化して捉え、そこから「今」をどうよりよく生きるかを考える「生と死のウェルビーイング」をテーマにした「DEATHフェス」を2024年4月に開催予定の私たち。
今回は本プロジェクトの共同代表である市川望美と小野梨奈のクロストークをお送りします。前編は二人の経歴や立ち上げに至った経緯、現代社会における「死」に対する思いについてクローズアップします。(聞き手・執筆:DEATHフェスメンバー・川西真理子)


二人の出会いからDEATHフェス発案に至るまで


—— まずはお二人のご経歴を教えてください!

市川望美(のぞみ):今回のプロジェクトは合同会社メーヴェという1月に作ったばかりの1人会社でやっているんですが、一番多くの時間を使っているのは非営利型株式会社Polarisという組織です。私が創業者で、今はもう代表も交代してるんですが、役員5人で共同経営していて、新しい働き方の選択肢を作るってことで立ち上げた会社です。他にも、「幸せなコミュニティとつながり」を研究するための組織に理事として参画したり(一般社団法人幸せなコミュニティとつながり実践研究所)、立教大学の大学院に行っていたときの同級生たちとライフストーリーを研究するグループをやったりとか。あとは「ライフキャリア」という観点からカラーセラピーや占い、偶発を楽しむクルージングの企画などもやっています。

小野梨奈(りな):私は今、合同会社カレイドスタイルという1人会社を経営しています。IT系の会社で勤めた後、女性Webメディアの会社に転職し、2006年に独立してフリーランスになりました。現在は企業のWebメディアの企画・制作・運営や、大学や研究機関のサイエンスアウトリーチ支援、複数の収入軸を持ちながら自分らしい事業や経営を探求する女性経営者・フリーランスのオンラインコミュニティ「ホクレア」を立ち上げて運営しています。そして今回このDEATHフェスが加わって、今は4つの軸を持って活動しています。

—— すごい…!お二人ともアクティブにいろんなことをされていますね。そんなお二人が出会うきっかけはなんだったのでしょう?

のぞみ:あれは何年前だろう? りなちゃんの第一子出産のとき?

りな:そうですね。2006年10月に長男を出産して、年明けくらいに子育てひろばに行ったんです。当時のぞみさんがそこで子育て支援コーディネーターをされていたのが、出会いのきっかけです。
私は助産院で出産したんですが、のぞみさんも同じ助産院で出産されていて。そんな偶然ってあまりないので、すごいご縁だなと思った記憶があります。

—— お仕事関連での出会いではないんですね!なんだか意外です。

のぞみ:そうなんです。私はPolarisという会社を2011年から始めたんだけど、その前は8年ぐらい子育て支援のNPOにいて。元々出産を機に会社員を辞めて子育てしている中で、自分が通っていた子育てNPOで「何か手伝いますよ、パソコン使えるんで」とか言っているうちに、その活動が面白くなってきたんですよね。自分も利用者でいながら、今日は利用者且つサロンの受付とか、今日は子連れでマタニティヨガの受付をしながら自分も参加するみたいな、そういう役得なスタッフをずっとしていました。

0〜2歳ぐらいの子を育てている頃って、いろんな職業の人が混ざってるんで、「ママ友」って一括りにしちゃうともったいなくて。私がいたNPOは1人ひとりの背景を大切にしよう、単純に「ママ」とか言っちゃわないで下の名前で呼ぼう、とかね。そういう精神がある団体だったので、人と人の繋がりみたいなものを大事にする文化に触れる中で、りなちゃんとも出会った。

なので、結構長い付き合いなんですよ。りなちゃんが「Rhythmoon」というメディアを立ち上げて、約100人のフリーランス女性の生き方をインタビューしているときに、私も子育て支援コーディネーターとして紹介してもらったりとか。
子育てひろばのスタッフと利用者みたいな感じで出会ってはいるけど、りなちゃんのフリーランスとしての話を聞いたり、私もPolarisを立ち上げる頃に「こういう人と一緒にやれたらいいな」と思って。2011年くらいにはNPOを一緒に立ち上げようなんて話もしてたんだよね。

りな:そうだ、その2011年にあった東日本大震災の瞬間にのぞみさんと私は一緒いたんですよね。

のぞみ:そう、あの瞬間にね。たまたま六本木でやっていたムハマド・ユヌス博士のソーシャルビジネスのワークショップ講座に参加しているとき、ブワーッと揺れて。りなちゃんはその時第二子妊娠中で、「この子をなんとか無事に帰さねば!」みたいな感じだった。

りな:それも、別に約束してたわけではなく、偶然会場で会ったんですよね。

のぞみ:「あ、来てたんだ〜!」みたいなね(笑)。

—— それはまたすごい偶然ですね…。

のぞみ:結局、一緒に法人を作る話はなくなったんだけど、Webサイトを作るとか、取材を手伝ってもらうとか、仕事でちょこちょこやり取りはしたりしてたんだよね。でもしばらく間は空いて。去年の秋ぐらいまでは、SNSで繋がってるから何となく様子は知ってるけど…みたいな。命に関する揺さぶりとか価値観が変わるようなときに一緒にいて、その間しばらく空いて。今年はその伏線回収みたいな感じになったね。

—— 出会いから現在までコンスタントに連絡を取っていたというわけでもないんですね。

のぞみ:そうなの。たまたま私はTwitterでりなちゃんがホクレアをスタートしたって知って、デザインやネーミング、コンセプトも素敵で、気に留めてたんだよね。しばらくして去年の秋に、大手の企業とイベントをやるってなったときに、いろんな働き方の人とコラボできたらいいっていう企画になって、「そういえばりなちゃん最近何か新しいこと始めてるし、何か協力してもらえたらいいな!」みたいな感じで、久しぶりに声をかけてみたの。丁度そのときに長野でワーケーションの企画があって、りなちゃんを誘ったら「行く行く!」ぐらいの雰囲気で、フットワーク軽〜!みたいな(笑)。じゃあ行こうよ!って、今年の2月に長野県飯綱町のワーケーションに行ったんです。そこで夜にお酒を飲みながら話しているときに、りなちゃんが堆肥葬(*)の話をし始めて。何それ〜!みたいな感じで盛り上がったんだよね。

—— DEATHフェス計画はその時の雑談から始まったんですね。

のぞみ:そう、全然雑談ベースで。なぜその話になったのかも忘れちゃったんだけど、なんかりなちゃんが「実はこういうのがあって…」って堆肥葬の話をしたんだったかな。

りな:のぞみさんの新しい会社の話を聞いていたときに、お母さんの「エンディングドレスをプロデュースしたい」って話から始まった気がします。どうやったらそれができるか調べてたという話を聞いて、「今ってエンディングに多様な選択肢がないのはなんでなんだろう?」って話で盛り上がって。

二人の原体験 — エンディングドレスと堆肥葬


—— エンディングドレスのプロデュース…詳しく教えてください!

のぞみ:母は、ずっと洋裁をしていて、今はその影響を受けた姉と一緒に世田谷でミシンカフェを経営しているのですが、その母が、叔母を送り出したときの話に遡ります。叔母は、気位が高くておしゃれで「自分が死んだら献体に出す!」みたいな潔い人で。でも、急に亡くなったのもあり、すごく簡素な格好でガラガラと運び出されてしまい、献体に出しちゃったもんだから帰ってくるまでも半年とか1年とかかかっちゃって、儀式もできなくて。叔母本人はそれでよかったかもしれないのですが、あの誇り高くておしゃれな叔母を、あんな簡素な状態で…なぜシルクのガウンでもかけてあげられなかったんだろうかとか、最期をそんな風に見送ったことを後悔していたんです。だったら、洋裁のプロだしミシンカフェもやってるから、そういう人たちのために、エンディングドレスのサービスを立ち上げたらいいんじゃない?って話になって。

—— そんな風に想われるおばさんの素敵さや、お母さんの心残りがリアルに胸に響きます。

のぞみ:そう。本人はなんかさっぱりと旅立っちゃったけど、もっと何かできたんじゃないかっていう母の思いを、一緒に形にしたいなって。そこからエンディング周りのことを調べ始めたり、414カードとの出会いを通して死から生を考える機会があったりしてたんだけど、りなちゃんからも堆肥葬とか死にまつわる話がでて、「なんかエンディング関連でいろいろできるかもね!」と、プロジェクトが生まれた感じですね。

—— のぞみさんの背景にはそんな実体験がベースになっているんですね。一方でりなさんのキーワード「堆肥葬」に触れたきっかけは何だったんですか?

りな:greenz.jp(グリーンズ)というメディアの記事を読んだのが始まりです。以前からお墓に入りたくないなとずっと思っていて、宇宙が好きなので宇宙に撒いてもらう宇宙葬もいいかな、とか漠然と考えていたときに、堆肥葬の記事を読んでかなりの衝撃を受けて。「焼かなくてもいいんだ!人間もコンポストできるんだ!」みたいな(笑)。それまで考えたこともなかったけれども、火葬はたくさん燃料を使うし、二酸化炭素もたくさん排出してるということも知って。動物が森で死んでそのまま土に還っていくように、よく考えれば、人間だってそのまま土に還れるなら、私が死んだときには、絶対これがいいなと思って。

そこから、記事で紹介されていた堆肥葬スタートアップのホームページを読みこんだんですよ。死んでから遺体を飛行機で運ぶことってできるのかなとか。すると、日本ではエンバーミングをしないと飛行機で運べないし、ものすごいお金がかかることも分かって。でもエンバーミングをしてしまったら堆肥葬は受け入れてもらえないし、ダメじゃん!って(笑)。代理店になれないのかな?とも考えたけどそれも難しそうで。日本で堆肥葬ができるようにならないと、自分は堆肥になれないんだな〜、だったらやるしかない!やってみたい!と思ったんですよね。堆肥葬はまだあまり知られていないけど、周りに話すとみんな「それいいね!」って興味を持ってくれる人も多くて、これからは火葬に代わる選択肢の一つになってもいいんじゃないかなということをずっと思ってきました。

お墓に入るのは当たり前?


—— もしほぼ火葬一択の日本で堆肥葬が実現したら、革命ですよね。でもなぜお墓に入りたくないんですか?

りな:あの狭いスペースに閉じ込められたくないっていうのと、死んだあとも自由でありたかったのが一番ですね。お墓=家長制度の象徴のようなものだと思うので、それに縛られたくないというのもありました。

のぞみ:私の周りにも、お墓に入りたくないって人結構います。知り合いはバツイチ同士の再婚だけど、事実婚で、パートナー男性の元の奥さんのところにはお子さんがいて…とか、それぞれの家庭があるから、実際そうなった時にお墓ってどうすんの?みたいな話がまさに切実だって言ってて。

私も離婚しているのですが、あえて、子どもたち二人は父親の戸籍に残したままなので、私は単独の新しい戸籍です。また、離婚はするけど、今の姓で生きてきた時間を巻き戻したくないと考えて、旧姓にもどさず結婚したときの姓を使い続けています。ウェルカムだと思うので実家のお墓に入ることもできるけど、わざわざ旧姓に戻さないことにしたのにちょっと違う気がするし、そもそも姉妹二人なので、母含めて墓じまいの話もしている状態だったし。かといって、今さら自分のためにお墓を買うのも全然ピンとこないし。子どもたちは父親の戸籍だからそちらのお墓があるし…とか。実際の所は、海に還りたい派なので散骨かなと思っていますが、戸籍とお墓っていろいろ考えさせられますね。

—— 確かに、多様性が叫ばれる昨今、死んだ途端にステレオタイプな家制度に縛られる感じがしますね。

のぞみ:ね。あと60歳過ぎて結婚したりすると、義理の両親が亡くなっていることもあります。そうすると、親戚一同、誰にも会ったことないのに、そのお墓に入るってどうなの?って。

—— 「何か違うな」とか思っても入れられたが最後、自力で動けないですもんね(笑)。

のぞみ:そうそう(笑)。だからそう思うと、りなちゃんの堆肥葬っていうのを聞いてワクワクしたし、エンディングドレスとかもそうだし、そもそもお墓っていうもの自体もいまいちフィットしてないよねとか、紐解くと本当にいろんなテーマや社会課題と関係してくるねって思って。だから堆肥葬だけじゃなくて、フェスみたいな形にして死の手前の話もいっぱいできるといいね、みたいになっていって。

—— 今まで深く考えたことがなかったのでこれまで当たり前に思っていたことにも、「なんでずっと同じなんだろう」って不思議に思えてきました。

のぞみ:疑問を持たなければ別にそのままでいられるんだけど、自分の中に違和感が出てくると納得できないこともいろいろ出てくるよね。

りな:多くの人が、お墓に入ることに疑問を持っていないと思います。死は誰もが経験することなのに、実は知らないことってたくさんありますよね。よくわからないまま大切な人たちをバタバタと送り出すことになって、いつか自分の番になって、「本当は自分はこうしたかったのに」みたいなことも叶わないまま死んじゃうのはいやだなって。身近な人が亡くなることがそういうのを考えるきっかけになるのかもしれないけど、普段から死っていうものをもっと気軽に話したりできる社会になるといいのになって思っています。死を考えることで、「では今をどう生きる?」に絶対繋がっていくと思うので。

【後半へ続く】


(*)人間の遺体を自然な形で生分解して堆肥に変え、養分として新しい命へ循環させる葬送方法。本プロジェクトの共同代表・小野は日本での堆肥葬の実現に向けて動いている。

聞き手・執筆:川西真理子
プロフィール/1985年生まれ。小学生の頃からパソコンに触れ続け、趣味で様々な個人サイトを制作。新卒から10年間のITエンジニア経験を経て、大手プログラミングスクールの運営に携わる。2022年フリーランスとして独立し、パソコン講師やWeb制作代行を行う。出産を機にママ向けIT教育事業に力を入れ始め、2023年スタンスドット合同会社を設立。

ママ向けオンラインITスクール MOMIT(マミット):https://momit.jp/


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