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つらつら(読書感想文)

まめに読了ポストすれば良いのに、とは思うけれど。
その方が読み終わった後の自分の感情とか記憶が鮮明な内に、言葉に出来るんだけれどね。
(なにせ、まめじゃないので。)
(数冊、印象に残ったここ数ヶ月で読んだ本の感想を。)


房思琪の初恋の楽園(著 林 奕含)

※性的暴力の描写があるため、読む時は気をつけて欲しい。
文学のある種の無力さを感じてしまった。
いや、私にとっては。文学は、言葉は、かけがえの無いもので私の救いにもなったけれども。
この小説に出てくる、「房思琪」という賢く、そして美しい少女にとっては結局、無力だった。
文学に価値が無い、なんて言わない。むしろ、文学にしか果たせない役割があると思う。月並みだけれど、文化や記憶の継承に繋がり、場合によってはそれは「記録」にもなる。そして、色々な感情を文学を通して体験出来る。
私は、文学の持つ力を一生信じ続けると思う。
でも、この小説はその文学が、惨くて苦しい現実を前にして頽れる瞬間をあまりにも繊細に、鮮明に描いていると思った。
読み終わったあと、苦しくて、でも涙は出てこなかった。
全体的に、物寂しく静かで、でも深く深く刺さる作品だった。

優しい暴力の時代(著 チョン・イヒョン)

どこかもの悲しく、でも、「ああ、あるよな」、「あるだろうな」と思う、
あくまでも日常を描いた短編集だった。
本を読んでいてあまり「共感」という言葉を使いたくないのだけれど、使おう。「共感」という言葉が似合う作品だ。
ただ、この共感は読み手が作品の中の登場人物、起こる出来事について共感する、というよりは、本が時代や読み手と感情を共有している。
そんな感覚になった。
短編集なので読み易く、私は初めてチョン・イヒョンさんの作品を読んだけれども、この人の作品を読む最初の1冊としてはとても適切なんじゃないか、と勝手に思ったりもした。

百合中毒(著 井上荒野)

何と言うか、井上荒野特有の清潔感の中にある毒が相変わらず発揮されている。
登場人物達は誰もかれも、皆、愛情に振り回されている。
むしろ愛情と言うよりは愛着、かもしれない。とにかく、全員だ。
登場人物全員が、言葉にすれば簡単な「愛情」という感情を全く制御出来ていない。
皆、烈しいというよりは湿度の高い人々なので読む人によってはイラつくのかもしれないけれど、恐らくはこの作品はひとつの真理のようなものさえ描かれている気がして、個人的には読後感は爽快だった。
(人生の伴走者となった者の手は、結局は振り解けないんだな、と感じたりもした。)

理由のない場所(著 イーユン・リー)

びっくりした。この世にこんな作品があって良いんだ、と。良い意味で、本当にびっくりした。
「孤独」と「寂しさ」は似ているようで、全く別のものだと捉えているけれど、この小説はそのあわいを母と既にいない息子との、「きっと」リアルな会話を通して美しく描かれていた。
柔らかかったり、エッジが利いたりしている言葉達は現実と非現実の境をとても絶妙に描写していて、各章それぞれがとても心に響いた。
私が好きな節を引用しておきたい。

「完璧な」よりも完成された形容詞があるだろうか。この言葉は比較を受けつけず、最上級を拒絶する。いつだって私たちはいい人でいることも、向上することも、最善を尽くすこともできるけれど、自分を愛することも他者に愛されることもできないうちに、どうして完璧になれるだろう。ねえ、誰があなたと私の辞書から愛すべきという言葉を奪い、完璧なという言葉にすり替えたの。

「理由のない場所」イーユン・リー著/篠森ゆりこ訳「8 完璧な敵」P117 L14~P118 L4 

十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。(著 遠藤周作)

遠藤周作的、手紙の書き方指南本。指南?
こちら、どちらかと言えば「ユーモア物」だと思う。実際、面白い。
私は、この本を会社で、昼休憩に読み始めて、危うくオフィスで大笑いをするところだった。電車で読むのも、ちょっと危ういかもしれない。
この人の、他者のことを絶対に傷付けないけれども、全力で茶化しにいき、時に罵倒する(矛盾している?いや、でも本当に、根っこから人のことを傷付けるようなことは絶対に書かれていない)ユーモアがふんだんに盛り込まれた、1冊だ。
本当に、これを読むと手紙やハガキ1枚でも書きたくなってしまう。

共感と距離感の練習(著 小沼理)

「もっと迷わせて」
「もっと考えさせて」
「もっと悩ませて」
大概、周りが導き出せている適切な解答を自分では求められずに、その癖「私の解答」も上手く出せずに、どうしてこんなに苦しいんだろうと感じることがある。
多分、理解しないと何も喋れない、分かっていないと動けない、と思ってしまうことが多いし、実際立ち竦んでしまうこと、俯いてしまうことも多いから。
なのに理解する、共感する、誰かに、何かにきちんと触れること、それは本当に、難しい。
この本はその難しさを解消するヒントになることも、答えになることもなかったけれど、小沼さんが抱える分かる、分からない、そのあわい、それ等についての考えや感想諸々がここに、丁寧に書かれていて。
それにとても安心感を抱いた。勇気付けられもした、本当に。知ること、考えること、悩むことも、まだ止めないでいよう、と。

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