「褒めると調子に乗るから褒めない」〔クリシェ【凡百の陳腐句】8-1〕
パワハラ気味な親、教師、先輩、上司ほど「お前は褒めると調子に乗る。だからオレはお前を褒めないんだ」と口にしがちである(僕自身も過去3回ほど言われたことがある)。
しかし、これが人を教育・指導すべき立場の人間のスタンスだとしたら、それこそ「褒められたものではない」。
その理由は三点。
まず、①このスタンスの本意は「教育・指導」ではなく、「相手に対する優越的地位の確保」にあるであろうこと。
つまり、「褒めない」ということは、相手がなにをやっても「無反応」か「ダメ出し」かのどちらかであることを意味する。
これは、常に自分を「優位」、相手を「劣位」に据え置いて、叱咤や侮蔑をし続けて悦に入られる関係性の維持を第一としていることの裏返しであり、「調子に乗るから褒めない」はその正当化にすぎない。
また、②このようなスタンスは科学的に見て誤りといえること。
すなわち、一切褒められずに「ダメなやつだ」と言われ続けた人は、実際に能力があったとしてもそれを発揮できず、モチベーションも低下して結果が出せなくなることが多いが、これは「ゴーレム効果」といって、心理学的に確立されている。
逆に、人間は、期待されたり褒められたりすることでモチベーションが向上し、期待通りの働きができることが多いとされる。これを「ピグマリオン効果」という。
〔『ゼロからはじめる!心理学見るだけノート』P.140 141 (齊藤勇監修/宝島社)より一部引用〕
要するに、「褒めずにダメ出し」は教育上逆効果である可能性が高く、これを体現する「褒めると調子に乗るから褒めない」というスタンスはお世辞にも有用とはいえない。
そしてなにより、③立場や地位がなくなった後の、例えば「お前に褒められたくらいで、いちいち調子にのらんわ」といった反逆を想定できていないこと。
「褒めると調子にのるから褒めない」なんてことを言えるのは、「相手に対する優越的な立場や地位があってこそ」だ。それがなくなれば「骨抜き」となり、言葉としての力を失うのは必然だ。
以上の理由から、「褒めると調子に乗るから褒めない」というスタンスは、教育者・指導者のとるべき姿勢として「完全な過ち」といえる。
ゆえに、断固忌避の対象であると考える。
※『ゼロからはじめる!心理学見るだけノート』のピグマリオン効果・ゴーレム効果の箇所を読んだとき、「そういや、何回か『お前は褒めると調子に乗るから褒めない』と言われた記憶あるが…あれは"間違い"だったんだな」と思ったことを今でも覚えている。
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