Like a 『春色』バトルフィールド ♯3



 教訓。


 どのように振舞っていたとしても、その人がどんなコンプレックスを抱えているか、もしくは抱えていないのか、決めつけてはいけない、ということ。堂々とした振る舞いをしていたので気を抜いてしまったが、白井さんは元気という女性らしくない名前で呼ばれることが心底嫌いだったのだ。

「僕の名前は時城潤、新入生くんの名前は?」

「さっき聞いたでしょ潤」

「おお、そうか、いやぁ、なぜかちょっと前の記憶がないんだよなぁ、トラックにはねられたような衝撃があってさ、嘘、ごめん」

 白井さんが腕を振り上げると潤さんはすぐに謝った。頬がまだ赤い。

「柿本比呂です。よろしくお願いします」

「比呂君ね。さっどうぞ」

 ソファーに座っている潤さんはニコニコしながら、隣に座るよう手で促した。僕が少し離れて座ると、すぐとなりにボスンッと座り直し、すぐ近くで僕の顔を観察し始めた。まつげが長い。多いし反り返っている。黒目が大きく表情は無邪気で、しかも服からは甘い匂いがしてきて、見られていると落ち着かない気持ちになった。

「で?」

「で?っていうのは……」

「聞かせてよ君のこと」

 自己紹介をしろということなのだろうか。予想通り、自分のことについて語ることは避けられないみたいだ。当然だ。これからサークルの仲間になろうというのだから。焦らず、堂々と話せば大丈夫。そう言い聞かせて、一拍間を起き、意を決して口を開こうした。しかしそれより先に白井さんが助け舟を出した。

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