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緊急要望書を出すまでのこと(自己紹介も兼ねて)


「首都封鎖になったら、ネットカフェで暮らしている人は、どうなっちゃうんでしょうか?」

「首都封鎖が終わるまでなら、空いている部屋で住んでも良いっていう人とか、少ないかもしれにですけど、いそうじゃないですか?」

先月別の打ち合わせでお会いした元江別市議の堀直人さんからの発言でした。ちょうどそのあたりで小池都知事から「ロックダウン」という聞き慣れない言葉が飛び出した頃であり、「封鎖されたら東京に帰れなくなるのかな?」と自分の心配をしていた自分が恥ずかしくなりました。

調べてみると既に住まいの貧困に取り組む稲葉さんが「自宅を失わないための支援」と「自宅を失った人への支援」の必要性を指摘しており、また法律家のグループであるホームレス総合相談ネットワークの方たちが厚生労働省への申し入れを行っていました。

[39]緊急提言:コロナ対策は「自宅格差」を踏まえよ

京)困窮者対策を 弁護士や司法書士が国に要望


これまで、リーマンショックの際に数万という規模の人々が新規にホームレス状態に至ったことがありますが、それは景気悪化に伴い徐々に顕在化したものです(と言っても数ヶ月という短期間でのことですが)。

しかし、いわゆるネットカフェ難民(行政用語では住居喪失不安定就労者という)の問題は、首都封鎖という前代未聞の事態に対し、商業施設の営業停止により即座に、それこそ明日にでも彼ら・彼女らが一挙に路上でのホームレス状態に至る可能性を孕むものでした。その他の支援や補償ももちろん重要ですが、この事態に対しては改めて警鐘を鳴らす必要があると思いました。

それから誠に僭越ながら私が呼びかけ人となって先の緊急要望書の提言に至るのですが、北畠とはどこの誰だと思われた方もいらっしゃったかと思います。そこでこの記事では私の自己紹介を兼ねて今回の緊急要望書に至った経緯を記しておきたいと思います。

私自身は生活相談や福祉的なアプローチができる職能は持ち合わせておらず、厳密に言えば「ホームレス支援」ができるわけではありません。元は都市デザインやまちづくりに関する研究者の卵です。しかしここ数年、特に東京のホームレス問題の調査研究やアドボカシーに携わってきたため、前述のようなホームレス支援や住まいの貧困に長年取り組んでおられる支援者や研究者の方たちとご縁がありました。そうした方たちも、今回の首都封鎖の可能性に対して相当な危機感を抱いていらっしゃる一方で、日常的な支援活動で大変多忙な日々を過ごしているためアドボカシー(政策提言)にエネルギーを振り分けるのが非常に大変であるということも承知していました。(ホームレス支援に関わらず、日本のNGOセクターの団体は非常に素晴らしい活動を展開していても組織としては小さいものも多く、研究やアドボカシーに力を割くことが難しい状況にあると言われています。欧米の巨大なNGOでは、研究部門を有している団体も見られますが…)

そうした事情に加え、独立してデモクラティック・デザインの事務所を設立したのはいいもののまだ仕事もなく、またコロナ感染拡大で輪をかけて仕事がなく自由に動ける立場と時間が自分にはありました。そこで差し出がましくも、本当に役不足なのですが要望を出そうと呼びかけさせていただいたというわけです。(更に加えて昨年身体を壊したので、日頃の炊き出しや夜回りをお手伝いできていなかった、という思いもあり…。)

冒頭の会話のあと、まっさきに思い出したのはロンドンの事例でした。ロンドンでは徹底したデータ分析に基づき、路上に出て間もない人に対してはとにかく早く発見して話しかけ、何らかの支援に繋げるという支援手法をとっていました。長期に渡って路上生活をしている方に対しては、複雑な事情を抱えている場合も多いため時間をかけて信頼関係を築きながら支援へと繋げることが重要視されていますが、路上に出てきたばかりの人には迅速な対応が以前のような生活に戻るためには効果的だというデータに基づくアプローチです。

おそらく前述のネットカフェ難民のような方や、あるいは非正規雇用で派遣先の寮に住んでいたが雇い止めと同時に住まいも失ってしまった方などに対しては、日本でも同様のことが言えるのではないかと思いました。

そうして出張帰りの飛行機で要望書の草案を書き、すぐにご縁のある支援団体や個人の方にご意見を求めました。一緒に提言をしませんかとお願いをしたところ、有り難いことに多くの方にご賛同いただき、先日の申し入れに至りました。東京都の担当部局からは「要望については理解したので関係部局と連携し対応を検討する」「厚生労働省の要請に従い適切に生活保護等を運用する」「大部屋収容に関しては防疫上の観点から問題意識を有している」という回答を得ました。同時に、都議会議員の方も何らかの対応を検討してくださっているという状況です。

もちろん一朝一夕に解決する問題ではないため引き続き提言や情報提供を行っていきたいと思っていますが、こうした問題は世論の後押しが必要なものです。繰り返しのお願いになり恐縮ですが、ぜひみなさんからの賛同の声もお寄せいただければ幸いです。(また、こうした思いから多くの人に問題を理解していただこうと、これまた生意気ながら解説記事「【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険がある人への支援を考える(1)」を書かせていただきました。)

※ウェブ署名はこちらから;コロナ不況で住まいを失う危険のある生活困窮者、路上生活者への緊急支援を求めます!!

こうした問題に対して、社会(の人々)がどのように考えているか、というのは非常に重要なことだと感じています。私の中で印象に残っているエピソードをひとつご紹介します。前述のロンドンへ調査に行った際、少し驚いたことがあります。それは、きれいなショッピングモールの中でも、路上ホームレスの人がシャッターの閉まった商店の前で寝ていることです。

某りんご社ストアの前にもホームレスの方がいたそうです(その時はいなかったが)。現地のアウトリーチワーカーになぜ彼らは追い出されないのかと尋ねたところ、このように言いました。

「もしその企業がホームレスの人を追い出しているところを市民に見られたら、企業のイメージが下がるからだよ」

私は衝撃を受けました。日本の多くの企業が、はっきりとは言わないまでもまったく逆のことを思っているのではないでしょうか。つまり、店の前にホームレスの人がいたら、企業のイメージが下がる、と。

日本ではホームレス=好きでそうしている、自己責任、という認識が根強いように思います。しかし別記事でも書きましたが、路上生活は健康リスクも高く、好んで選んでいる人が多いとは到底思えません。いろいろな事情があり、複雑な問題が重なり、住居を失った状態になったということであり、「ホームレス」という別種の人間が存在しているわけではないのです。

私自身は、ホームレスの人に対し、「かわいそう」とか「仲良くしよう」とか、勝手に思う必要はないと思っています。ただただ、同じ人間であるということです。同じ人間であり、社会の成員であり、ただ何らかの事情で非常に過酷な状況にあり現在は弱い立場にある。そうした弱い立場の人々や多様な人々を受け入れいかに包摂することができるかということが、その社会あるいは都市のレジリエンシー(しなやかな強さ)だと思います。

すなわち今回の新型ウイルスのパンデミックなどの事態が起きたときに、いかに都市は人々を守ることができるかということです。日頃から、家を失った人への包摂のシステムが都市に備わっていれば、柔軟に対応ができるはずなのです。新自由主義の進展に伴い、生産過程において無駄と思われるものを徹底的に排除した結果、経済成長は進んだかもしれないですが(日本はそれも怪しいですが)、むしろ外的なインパクトに弱い社会になってしまっているように思います。そうした社会のあり方を再考する時期が来ているのかもしれません。

そうしたなかで、希望を持つことができることももちろんあります。先述のように、市民の力や職能を生かしてホームレスの人々へ大変真摯に向き合ってこられた方々が大勢いらっしゃいます。加えて、市民の力はとても大きいものです。過去の社会変革のはじまりは、いつだって市民による真摯な実態調査や異議申し立て、問題提起だったのです。

私は以前、ARCHという市民団体の共同代表をしていました。Advocacy and Research Centre for Homelessnessの頭文字を取っており、ホームレス問題の研究とアドボカシーを行うチームです。東京工業大学の学生や卒業生、先生とともに2015年に立ち上げました。

ARCHがはじめに取り組んだのは市民によるホームレスの実態調査です。東京では、行政による路上生活者人口の調査が日中行われていたため、昼間働いて夜間に野宿しているような方の人数が行政施策に反映されていないという状況がありました。しっかりとした実態把握なしに有効な仕組みをつくることはできません。そこで、東京ストリートカウントと題して市民参加による調査を開始したのです。

ストリートカウントとは、諸外国では定着しているホームレス調査手法で、夜間に市民が集まり街をくまなく歩き、路上で寝ている人をカウントするというごくごくシンプルなものです。ボランティア休暇などが浸透している国では、ちょっと変わったボランティアとして人気があり、数千人単位で実施している自治体もあります。

はじめに私達が東京で実施しようとしたときには、ボランティア文化の弱い日本ではできないのではないかという声もありましたが、100名以上の方が賛同し参加してくださいました。以降は年2回の恒例調査となり、のべ1000人以上の市民が参加してくださるまでに拡大しました。そして、行政による既存調査では「見えなかった」約1000人の人がホームレス状態にあったことがわかったのです。こうして非常に多くの市民の方がホームレス問題を気にかけ、一晩を潰して参加してくださるということ自体が、社会を変革するエネルギーなのだと感じました。

私自身は現在ARCHやストリートカウントの運営からは離れていますが、今後も私なりのアプローチでみなさんとホームレス問題や「見えない人々」について考えながら動いていきたいと思っています。

特に、成熟した都市として五輪・パラ五輪開催を目指す東京では、見えないコロナ感染者を把握することはもちろんですが、こうしたインビジブル・ピープル〜見えない困難(ホームレス、障がい、国籍、性差、DVなど…)を抱えた人々を真摯に見ようとし、受容し共に暮らす都市としての度量を見せてほしいと思いますし、そうなるように動き続けたいと考えています。

北畠拓也

(冒頭の絵は、以前とある河川敷に住む方の似顔絵を描かせていただいたものです)


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