Born In the 50's 第十一話 アジト
アジト
平河町のオフィスビルの一室で「荷物」を受け取ったMは、東京メトロ永田町駅から大手町へとやって来た。
少し大きめの手提げ袋を重そうに持っている。重さ約十キロ。
手提げ袋を持ったまま地下鉄の改札を出ると、地上へ出て、そのまま大手門の方へ歩く。濠のところを左に折れて、去年建て替えられたばかりのホテルへと入っていった。
エントランスホールを抜けてエレベーターに乗り、そのまま十八階へと向かう。
廊下に人がいないことを確かめると、そのまま歩いていった。やがて部屋の前で立ち止まるとドアベルを鳴らす。ほどなくドアが開いた。
Mは無言のまま部屋の中に入った。
ドアのすぐ横にはテツオが立っていた。部屋の奥は一面ガラス張りになっていてオフィスビル群が一望できる。窓の近くあるソファにはケイが座っていた。
「それで?」
ケイは飲んでいた紅茶のカップをリビングテーブルに置くと、尋ねた。
「仕事だ」
Mはそう答えるとケイと向かい合うようにソファに腰を下ろした。
テツオは冷蔵庫からクラブソーダのボトルを取り出すと、そのままバーカウンターの椅子に腰を下ろした。
「いつ?」
テツオはボトルに口を付けて訊いた。
「今週末だ」
「あまり時間がないなぁ」
Mの返答に、テツオはぶっきらぼうにいった。
「相手はひとりだけだからな」
Mは肩をすくめるといった。
「じゃ、簡単なの?」
ケイは足を組むと聞いた。
「そうともいえないな。周りに取り巻きがいっぱいだ」
「どういうことだ?」
テツオは身を乗り出すようにして尋ねた。
「SPがいっぱいだ」
Mは嬉しそうに答えた。
「大物なの?」
ケイが訊いた。
「まぁ、この国のトップといえばいいかな」
Mは頷きながらいった。
「なるほど」
テツオはそういうと腕組みをした。
「クライアントは?」
ケイがさらに尋ねた。
「一応とある政治団体事務所ということになっている。これが前金だ」
Mはそう答えると、持ってきた手提げ袋をリビングテーブルの上に乗せた。しかし、すぐに手提げ袋は倒れて中から札束が零れてきた。
「十キロ」
Mは笑いながらいった。
「一億か。前金としてはまあまあだな」
テツオも笑みを零した。
「でも、なぜ国家安全保障局が絡んでるの?」
ケイがまた尋ねた。
「権力争い。組織の問題。まぁ、いろいろとあるんだろうが、トップを倒してその座につきたいだれかがあれこれ手を尽くしているということだ」
「いいじゃないか、俺たちはただ仕事をするだけだ」
テツオはそういいながらリビングセットの方に近づいてきた。テーブルの上に散らばった札束をじっと眺めている。
「で、具体的にはどうするつもりなんだ」
テツオはMの顔を見ると尋ねた。
「日曜日に国際会議がある。東アジアのお歴々がやってきて開くやつだ。それぞれの国の首脳がやって来て雁首を揃えて会議をするわけだ。で、この国のトップをそこで始末する。簡単だろ?」
Mは自信満々に答えた。
「警備は厳重じゃないの?」
ケイは身を乗り出すようにしてMに訊いた。
「むしろ逆さ。ガードすべき人物がひしめき合うわけだ。だからどうしても細かなところで齟齬を来すはずだ。警視庁もSPも警護すべき人物が多くて右往左往することになるだろう」
Mはソファに凭れるようにして座り直した。
「虎ノ門にあるホテルがその会場だ。明日から一般人の出入りができなくなる」
「下調べは今日中に、ということね」
ケイは頷いた。
「そういうことだ」
Mは微笑んで答えた。
「じゃ、さっそく行動開始だな」
テツオがいった。
「ああ」
Mが頷く。
「そうだ、今回はまた別の呼び名を使うよ」
Mは立ち上がりながらいった。
「俺は?」
テツオが尋ねた。
「セバスチャンじゃ長いから、モランでいいだろう」
Mは頷きながら答えた。
「モラン? モラン大佐だな。それじゃ、彼女は?」
「アイリーンだ」
Mがいうと、ケイ──アイリーンは微笑んだ。
「なるほど、ザ・ウーマンか。ということは、ジェームスなのか?」
「いや、ジムでいいよ。そっちの方が呼びやすいだろ。先方にはMという名を伝えておいた」
M──ジムは立ち上がりながらいった。
「了解、プロフェッサー」
テツオ──モランはそういいながら軽く会釈した。
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