美意識の値段 / 山口桂

この本を読んだ目的

・らしくない本を読むシリーズ第二弾
・自分の知らない世界を知る、意外な考え方と出会いたい

この本を読んで私は「美術館に行きたい!」と思った。何がその駆動力になったのかに着目して、以下に「すごい日本美術」「印象に残ったオススメ作品」「美術鑑賞入門」としてまとめる。
本題に入る前に、著者の紹介から。山口桂氏は世界最大手の美術品オークションハウス、クリスティーズの日本法人代表である。会社での担当が日本古美術。本書の内容もそれが中心であるが、若い頃から現代美術にも親しんだ。紹介されていた中で最も大きな仕事は、「伝運慶作 木造大日如来坐像」の取引で、日本美術品オークション史上最高値となる約1470万ドルの取引を成功させた。そんな山口氏の書いたのが本書というわけで、本題に入っていく。

すごい日本美術

 日本美術の何がすごいのか?まず、日本の美術品は世界中にある。メトロポリタン美術館やボストン美術館、大英博物館など、詳しくない人でも名前くらいは知ってるような施設が結構な量のコレクションを所有している。ドラッカーやジョブズなどの著名人が蒐集したことでも知られている。世界で日本美術は(私が思っていたよりも)人気があるのだ。
 その背景にあるのが、日本美術の特徴である「多様性」と「精緻さ」である。日本美術では、掛け軸などの純粋な鑑賞用の美術品を除き、刀や鎧、壺、皿、屏風、襖、硯、茶碗、仏像など、実用品が多い。したがって、美術品の範疇に入る作品の種類がまず多い。しかも、その素材にも木や鉄、象牙など数多のバリエーションがあり、金を塗るのか、漆を塗るのかなど技法の部分でも違いが出る。すなわち多様性が生まれてくる。しかも、それぞれの分野にそれを極めた職人が精緻な仕事をしている。結果として、日本美術は多様かつ、質の高さが特徴であるといえる。このことにより、あらゆる人の何らかの琴線に触れる可能性が高くなるといえ、日本美術の世界的人気に繋がっていると考えられる。
 また、日本美術に限らないが、美術品というのは優秀な文化外交官である。例え話をしよう。日本の文化に興味がある外国の人がいたとする。その人が日本人に会ったら、どんなことを尋ねたいだろうか?恐らく、モネやルノワール、ピカソのことよりも、禅とか茶の湯とか神道とか、日本の文化に関する生の声を聞きたがるだろうことは想像に難くない。しかし、そうしたことに通じている日本人は、そんなに多くないだろう。理想的には私たちがそうした知識持ち、外国人に日本の文化を伝導する「文化外交官」になれるのが一番いい。ただそれはあくまで理想であり、現実にできてない。その一助となるのが、日本の一流の美術品が世界中で見られるということである。一流の美術品は、人の代わりに文化を語ってくれてるからだ。

 というわけでこの節では、日本美術の評価とそれが持つ機能を知ることを通じ、美術館で実際に見てみたいと感じさせられた。

印象に残ったオススメ作品

 この節では、本書で紹介されていた日本人による美術作品の中でも、特に私の琴線に触れた作品を紹介する。画像はリンク先より引用。

①サンフランシスコ・アジア美術館蔵 ≪四季山水図屏風≫式部輝忠作

禍々しいほど細かな描写、吸い込まれるような精緻さがある。キヤノンによる高精度復元版がウェブ上で見られるので、そちらもぜひ見ていただきたい。

②ポーラ美術館蔵≪野辺≫黒田清輝作

透明感、柔らかな色彩。「昼下がりの気怠さ」が画面を見ているだけで湧いてくる。リンク先から同氏の≪朝霧≫も見られ、それも想像を掻き立てられる絵で、私は好みだった。

③メトロポリタン美術館蔵≪Boden Sea, Uttwil≫杉本博司作

絵のような写真のような、不思議な作品。曖昧な世界、ずっと見ていたくなる。アイルランド出身の世界的ロックバンドU2のCDジャケットとしても有名な作品。

 紹介されていた作品をウェブ上ではあるが目にすることによって、気になる作品が見つかり、実際に美術館へ見に行ってみたいと思うようになった。

美術鑑賞入門

 最後に筆者が勧める美術鑑賞の初めの一歩を紹介する。まず、当然ながら美術館に向かうところから始まる。行くときには、スマホでも構わないのでメモできるものを持っていこう。さて、展示会はいくつかの展示室から構成されていることが多いはずだ。一つの展示室を見終わったときに、その部屋で一番気に入った作品と、なぜそう思ったのか理由をメモしておこう。1,2分程度で書ける簡単なもので構わない。終わったら次の部屋でも同じことをする。そしてすべての展示を見終わったら、その展示会でのベストを決めよう。もちろんこれも理由を添えてメモしておくこと。余裕があれば図録を購入して作品の解説を見てみるのも、プロの視点に触れられて勉強になる。
 いくつかの展示会でこれを繰り返すことで、自分の美意識や、作品の見方がわかってくる。それがわかると一層鑑賞が楽しくなる。そのために、まずは一歩、メモを携えて美術館を訪ねたい、と私は思わされた。

まとめ

 というわけで、私はこの本を手に取ったことで美術館に行きたいという気持ちが強まった。特に黒田清輝氏の作品は琴線に触れ、是非ポーラ美術館に足を運んで≪野辺≫を実際に見てみたいと思う。

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