クリエーティブディレクターからみるプロトタイピングの可能性
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クリエーティブディレクターからみるプロトタイピングの可能性

Dentsu Digital Tech Blog

電通デジタルアドベントカレンダー2021 23日目の記事です。

はじめに

電通デジタル クリエーティブ部 クリエーティブディレクター・クリエーティブテクノロジストの川村です。「アイデアとテクノロジーによって新たな体験を作ること」をテーマに活動しています。

テクノロジー領域はまさに日進月歩。継続的なキャッチアップが欠かせません。自分で手を動かすことも大切ですが、それだけだとどうしてもカバー範囲が限られてしまいます。そこで、定期的にワークショップを行い、技術知見の共有を進め、コミュニティとして高め合うことを心がけて日々、業務に取り組んでいます。

本日は、MUTEK.JP × Derivative共催によるTouchDesignerワークショップで実施した取り組みをもとに、「クリエーティブディレクターからみるプロトタイピングの可能性」についてお話したいと思います。

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「翻訳APIを活用し、オンラインMTGで使える自動翻訳ツールを作成する」というテーマでワークショップを実施した。

”言語の壁”へのチャレンジ

このワークショップが行われたMUTEKはカナダ・モントリオール発祥の電子音楽とデジタルアートの祭典です。現在は、メキシコシティー、バルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイ、サンフランシスコ、東京と、グローバルに展開しています。音楽やアートは”言語の壁”を超えますが、日常生活やビジネスシーンでは今でもなお、コミュニケーション面で”言語の壁”があります。

「MUTEKというグローバルに開かれた場だからこそ”言語の壁”を超えるチャレンジが必要だ」と思い、「翻訳APIを活用し、オンラインMTGで使える自動翻訳ツールを作成する」というテーマでワークショップを行いました。

このプロトタイプでは、言葉をそのまま可視化し、その上で自動翻訳を行っています。さらに動きに反応するエフェクトも加えました。

どうでしょうか?思ったよりも、スピード、精度共に高いと思いませんか?

これはあくまでも自分が話す言葉を自動翻訳するプロトタイプですが、当然、話している相手の言葉も翻訳可能です。このプロトタイプ自体は一晩で作った簡易的なものですが、既存技術の組み合わせでも、意外と世の中を便利にする体験が作れるということがイメージできるかと思います。

世の中にある課題を見つけ、その課題を解消するテクノロジーは無いか、常に目を光らせておく。課題とテクノロジーの接点を見つけたら、とりあえず作ってみる。こうした発想で日々プロトタイピングを行っています。

システム構成について

今回のシステムは以下のような構成で実現しました。

TouchDesignerがフロント周りを処理し、Pythonはコンソールで動いています。PythonはCloud Translation APIとCloud Speech-to-Text APIの制御を行い、そこで得た結果をOpenSound Control(OSC)を使ってTouchDesignerに送っています。

仕事でもTouchDesignerを数多く使っていますが、TouchDesignerはビジュアル面に強い方が扱うケースが多く、優秀なTouchDesigner使いが必ずしもAIを扱えるかというとそうではありません。稀に両方に精通した方もいますが、そういうスペシャルな人は極一部でしょう。

私もAIの専門家ではないので、仕事の場合は、AIエンジニアさんとタッグを組んで進めるケースが多いです。多くの場合、AIエンジニアさんがUbuntuで開発し、TouchDesignerはGPU重視のWindowsマシンを使って開発を進めていきます。UbuntuとWindowsの連携ではOSCを使うケースが非常に多いです。

今回のデモは同じマシン内でTouchDesigner(*)とPythonを実行していますが、構成としては似たような形となります。

サンプルの動かし方は、Derivativeのサイトにアップしているので、興味ある方はそちらをご覧いただければと思います。

(*) TouchDesignerはNon-Commercial版であれば無償で利用が可能です。有償版との大きな違いは、Non-Commercial版は解像度が1280px × 1280px以内になるという点があります。

なぜプロトタイピングが必要なのか

この仕事をしていると、クリエーティブ系の人は実装を、開発系の方は体験を軽視する傾向にあると感じることが多々あります。これは非常に勿体ないことです。

そのように思う理由は、次世代サービスや体験というのは、クリエーティブと開発が一体となって動いたときに、はじめて実現するからです。

たとえばダイソンといえばサイクロン掃除機で有名ですが、サイクロン掃除機が世に出るまでに作られた試作機の数は5年間で5000台以上です。そのような過程を経たからこそ、今までにないプロダクトが生まれたわけです。ダイソンの今の地位があるのは、クリエーティブと開発が各々をリスペクトし、お互いの領域を磨き上げ、シナジーを続けた結果といえるでしょう。

次世代サービスやプロダクトにおいて、フィジビリティの無いクリエーティブアイデアは仕事とは言えませんし、体験として洗練されていない技術はなかなか世の中に受け入れられません。クリエーティブとテクノロジー、両者が掛け算していく過程で、新たな価値が生み出されるのですから、クリエーティブはもっとテクノロジーを知るべきですし、開発はもっと体験にこだわるべきだと思っています。

その中間点を探るために、アイデアがあれば少しずつプロトタイピングしてフィジビリティを探っていく。こうしたワークスタイルにこだわって活動しています。

センスのつくりかた

デザインや技術に関わっていると、どうしても超絶技巧にあこがれてしまう傾向があるように思います。実際、私にもそのような時期がありました。強い技術力があれば、それだけで世の中を動かせると勘違いしてしまうのですね。

経験を重ねる過程で、技術力以上に大切なことがあることに気が付きました。

それは「固定概念に囚われない自由な発想で『あるべき姿』を模索し、根気強く取り組み、実現していくこと」です。

チュートリアルを続ければ、技術力はある程度は身につきますが、人気のあるチュートリアルであれば、当然多くの方が同じ内容を学んでいます。人から抜き出るためには「その知識を使って、何を、どのように使うのか」という視点こそが重要です。

そこで、センスが問われてきます。ここでいうセンスというのは生まれ持っての才能のことではなく、オリジナリティや世界観です。固定概念に囚われない自由な発想力でクリエーティブを作れれば、それがオリジナリティや世界観につながります。

自由な発想力は一朝一夕で身につくものではなく、常に課題意識を持ち、自分の中でシミュレーションしていくことで養われるのだと思っています。

「自分には発想力が無い」、そのように感じている方は、是非、常日頃から課題意識を持って世の中を見ることから始めて欲しいと思います。少なくとも、意識して生活している領域では、着実に発想力が養われていくことを実感するはずです。

最後に

以上、本日は少し趣を変えて、技術そのものについてではなく、弊社クリエーティブディレクターである私が何を考え、どんな理由でプロトタイピングを行っているのかについてお話させていただきました。

この記事では、課題意識を持ち、固定概念に囚われない自由な発想でプロトタイピングに向き合うことの重要性を述べてきましたが、これは社会に対してはもちろんですが、自分自身についても当てはまります。

自分の限界を、自ら定義することは止めましょう。
限界は定義するものではなく、打ち破るものです。

限界を超える過程は非常に地味で、大変なことも多いと思います。

理想と現実の間に、悔しい思いをすることもあるでしょう。
だからこそ、支えとなる仲間やコミュニティの存在が大切です。

個々がそれぞれの課題意識を持ち、仲間やコミュニティと一緒に切磋琢磨していく。
最初から大きな事を求めず、手触り感のあるプロトタイプを通じて一歩ずつ形にしていく。

そうした先に、明るい未来が待っているのだと思っています。

みんなにも読んでほしいですか?

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