試行錯誤が導く学びの力:ソーンダイクの理論を教育現場で生かす方法
レトリカ教採学院(教採塾)、学院長の川上です。
私は、レトリカの講座や、大学の講義で、教職教養を教えているのですが、例えば、ただ単に、「ソーンダイク→試行錯誤説、猫を使った問題箱の実験」などと項目だけを暗記させるような指導はしていません。
ソーンダイクの理論がそもそも、どういう理論で、それが何を意味して、学校現場や授業で、どのように活かせるのかを説明しています。
その一例を、ブログ記事にしてみました。
かなりの大作です。
今回は、
ソーンダイクの試行錯誤説を、主体的な学び、数学の授業、理科の実験、英語の作文指導、美術の授業、小学校の読み書き指導、体育の授業、算数の難易度調整、英語の単語テスト、協働的な学習、グループディスカッションなどに、どのように応用できるかを論じてみました。
しかも、すべて検証済みです!
大作ではありますが、わかりやすく、楽しく読めるようになっています。是非、ご一読ください。
ソーンダイク(Edward L. Thorndike)の「試行錯誤説」は、学習理論のひとつで、動物や人間が問題解決や新しいスキルの習得を通じてどのように学習するかを説明する理論です。
彼はこの理論を通じて、行動が環境からのフィードバックを通じて強化されるプロセスを解明しました。以下に、試行錯誤説の詳細を説明します。
試行錯誤説の概要
「試行錯誤説」は、学習が繰り返しの試行とエラー(失敗)を通じて行われるという考え方です。
最初に問題に直面したとき、人間や動物は正しい解決策をまだ知らないため、さまざまな行動を試みます。
これを「試行」といい、もしその行動が失敗すれば「誤り」となります。この一連の過程を繰り返すうちに、最終的には正しい行動や解決策を見つけることができ、学習が成立します。
ソーンダイクの理論は、特に動物の学習行動を観察した実験に基づいています。
彼は、猫を用いた「問題箱」の実験を通じてこの理論を立証しました。
ソーンダイクの「問題箱」の実験
ソーンダイクの最も有名な実験は、猫を「問題箱」に入れて、どのようにして脱出するかを観察するというものでした。問題箱は、特定の仕掛けを操作すると扉が開くようになっており、猫はその仕掛けを操作しない限り箱の外に出られません。
最初、猫は無作為にいろいろな行動を試し(例:鳴く、爪でひっかく、箱の中を動き回るなど)、偶然に正しい動作(レバーを引くなど)をすることで、外に出ることができました。繰り返し実験を行うと、猫は徐々にその正しい行動を学習し、誤った行動を減らしていきます。このようにして、猫は効率よく箱から脱出できるようになりました。
学習の基本原理
ソーンダイクは、試行錯誤の過程を通じて学習が進む際の基本原理をいくつか提唱しました。その中でも重要なものは次の通りです。
効果の法則(Law of Effect)
ある行動が望ましい結果(報酬や成功)を生み出すと、その行動が強化され、再びその行動をとる可能性が高くなります。
逆に、行動が望ましくない結果(失敗や罰)を生むと、その行動は弱まり、同じ行動をとる可能性が低くなります。この「効果の法則」が、試行錯誤による学習の根幹をなす原理です。
練習の法則(Law of Exercise)
繰り返し行われた行動は強化され、その行動が成功につながる場合、回数を重ねるごとにその行動はより確実なものになります。
つまり、反復が行動の習得を強化するという考えです。ソーンダイクは、反復を通じて習慣が形成されることを指摘しています。
準備の法則(Law of Readiness)
学習者が準備ができている状態であると、学習がスムーズに進むことが示されています。
逆に、準備ができていない場合には学習が難しくなり、ストレスを引き起こす可能性があります。
つまり、学習者がその課題に取り組むための準備ができていることが重要です。
試行錯誤説の特徴
漸進的な学習
学習は一度で完了するのではなく、徐々に進展していくものです。
正しい行動が発見されるまで、誤った行動が試されることが前提となります。
誤りを繰り返すことで、最終的に最適な解決策が見つかり、学習が完成します。
機械的な学習過程
ソーンダイクの理論では、学習は意識的な理解や洞察によって行われるものではなく、無意識的で機械的な過程とされています。
動物や人間が無作為に行動を試し、成功した行動を徐々に強化していくのです。
報酬の重要性
効果の法則によって、報酬が学習を強化する役割を果たします。
試行錯誤の結果として、成功体験や報酬を得ることで、その行動が再び取られる可能性が高くなるため、報酬は学習において非常に重要です。
教育現場への応用
ソーンダイクの「試行錯誤説」は、教育現場において非常に有用な指針となり、学習者が自ら課題を解決する力を養うための重要な方法論を提供します。
ここでは、具体例を交えながら、この理論をどのように授業に活用できるかをさらに深掘りして説明します。
1. 自主的な学習の促進
試行錯誤説は、学習者に課題に対して自ら挑戦する機会を与えることを強調しています。
教師が正解をすぐに教えるのではなく、児童・生徒自身が複数の方法を試み、成功や失敗を経験しながら学習を進めることが、知識の定着を深める重要な要素となります。
具体例:数学の授業
数学の問題を解く際に、教師は一度に正しい解法を示すのではなく、いくつかの異なるアプローチを生徒に提案し、それぞれの方法を試してもらいます。
例えば、方程式を解く際に、「代入法」「加減法」「グラフによる解法」などを提示し、生徒がこれらを試行し、どの方法が最も適しているかを発見する過程を大切にします。
このように、生徒が自分で解答にたどり着くことが、後々の理解を深めます。
具体例:理科の実験
理科の実験では、教師は最終的な結果だけでなく、過程の重要性を強調します。
例えば、化学の授業で酸と塩基の反応を学ぶ際、生徒に自分たちで試行錯誤しながら反応を観察させます。
仮に失敗したとしても、その失敗を振り返り、次にどう工夫すれば成功するかを考える機会を与えます。
このような体験型学習によって、試行錯誤のプロセスそのものが学びの一環として強調されます。
2. 誤りからの学習を促す
試行錯誤説の本質は、誤りを恐れずに行動し、誤りから学ぶことです。
誤答や失敗は、学びの過程において重要なステップであり、児童・生徒に対してその過程を重視させることが、効果的な学習を促します。
具体例:英語の作文指導
英語の授業で作文を書くとき、生徒が文法的なミスや誤字を恐れて書けなくなることがあります。
教師は、このような状況に対して、「ミスをすることは成長の一部であり、完璧を目指すよりもまずは自由に書いてみよう」というメッセージを伝えることが有効です。
生徒が自ら文章を作成し、フィードバックを受けることで、誤りから学び、次回は同じミスをしないように努力する姿勢が生まれます。
具体例:美術の授業
美術の授業で、生徒が自分の思い描いた絵を完璧に描けずに挫折することがありますが、教師が「完璧である必要はなく、試行錯誤して自分のスタイルを見つけることが大切だ」と伝えることで、生徒は安心して挑戦できます。
失敗作も学びの一部であり、その経験を次に活かすことで、より創造的な表現を生み出せるようになります。
3. フィードバックと強化の重要性
ソーンダイクの効果の法則に基づき、フィードバックや報酬は学習を強化するために不可欠です。
教師は、児童・生徒が正しい解決策にたどり着いたとき、あるいは良い努力をしたときに、即座にポジティブなフィードバックを提供することで、児童・生徒のモチベーションを高め、行動を強化します。
具体例:小学校の読み書き指導
小学生が文字を書く際、初めての成功体験(例:正しい文字を書くこと)を経験したとき、教師が「よくできたね!」と褒めることで、その行動が強化されます。フィードバックはすぐに行うことで効果が大きく、成功体験が次の学習意欲につながります。
具体例:体育の授業
体育の授業では、児童・生徒が新しい動きを習得したり、スポーツで良いプレーをしたときに、教師が具体的なフィードバックを与えることが重要です。
例えば、バスケットボールの練習で生徒が良いシュートを決めた場合、「今のシュートフォームはすごく良かったね。次も同じ感覚で試してみよう」といった具体的で肯定的なフィードバックを与えることで、児童・生徒の成功体験が強化されます。
4. 適切な挑戦を設けることの重要性
学習者の覚醒レベルを適度に保つため、試行錯誤説を応用して「適度な挑戦」を提供することが重要です。
課題の難易度を調整し、児童・生徒にとって「少し難しいが達成可能な目標」を設定することで、学習者のモチベーションを高めることができます。
具体例:算数の難易度調整
例えば、算数の授業で、基礎的な問題から少し難易度の高い問題に進む際、児童に「この問題は少し工夫すれば解けるよ」と声をかけ、チャレンジ精神を引き出します。
問題があまりに簡単すぎると退屈を感じる一方で、難しすぎるとやる気を失ってしまいます。このバランスを取ることで、児童は楽しみながら学習に取り組むことができ、成功体験が増えます。
具体例:英語の単語テスト
英語の授業では、単語テストの際に、基礎的な単語だけでなく、少しレベルの高い単語も混ぜて出題することで、生徒に「自分にも難しい単語が覚えられる」という自信を持たせます。
覚えた単語がテストで出題されると、生徒は達成感を感じ、さらに難しい単語にも挑戦する意欲が湧きます。
5. 協力学習の場面での試行錯誤の奨励
グループでの協力学習や共同作業でも、試行錯誤による学習が効果的です。
児童・生徒たちは、協力して問題解決に取り組むことで、さまざまなアイデアやアプローチを試すことができ、結果として深い理解が得られます。
具体例:グループディスカッション
社会科や倫理の授業で、特定のテーマについてグループでディスカッションを行う場合、生徒たちは意見を出し合い、試行錯誤を繰り返しながら結論に至ります。
例えば、「なぜ国際協力が必要なのか」という問いに対して、さまざまな視点を持ち寄り、失敗を恐れずに意見を出し合うことで、最終的にはより深い理解に至ります。
教師は、この過程を見守り、必要に応じて適切なフィードバックを提供することで、学習をサポートします。
まとめ
ソーンダイクの試行錯誤説は、学習が繰り返しの試行とエラーを通じて行われ、成功体験が行動を強化することを示す理論です。
この理論は、教育現場でも非常に有用であり、児童・生徒に自主的な学びの機会を提供し、失敗から学ばせるアプローチを強調しています。
教師は、児童・生徒が試行錯誤を繰り返すことで、最終的に正しい答えや方法を見つけ出す環境を整えることで、より効果的な学習を支援することができます。
ソーンダイクの「試行錯誤説」を教育現場で応用することで、児童・生徒は失敗を恐れずに挑戦し、自己発見と学びを深めることができます。
教師は適切な難易度の課題を設定し、フィードバックや報酬を通じて学習を強化することで、児童・生徒の学習意欲と成果を最大化することができます。
また、協力学習やグループ作業においても、試行錯誤の過程が重要な役割を果たし、より創造的で効果的な学習を促進します。
このように、試行錯誤説の応用は、現代の教育において非常に有用であり、学習者の成長を支える強力な手段となります。
いかがだったでしょうか。
レトリカや大学の講義で、これらを全て、事細かく話すということではありませんが、このくらいの知識と教養を背景にして、講座や講義では、わかりやすく、簡潔にお話ししているという一例をご紹介したいと思いました。
現在は、レトリカの講座、大学の講義に加えて、小学校でも非常勤講師として勤務しているので、
教養教養と教育現場の、理論と実践の往還を重点にしたブログを、連日投稿している次第です!
また明日も、理論と実践のブログを投稿しますので、お楽しみに!
ではまた!
レトリカ教採学院(教採塾)
学院長
川上貴裕
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