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シュタイナーと神秘主義

 20世紀初頭の神秘思想を彩る人間はいろいろいるが、ルドルフ・シュタイナーほど、その本質を自らの人生で表した人間はいないかもしれない。

 シュタイナー教育で、目覚ましい成果をあげる一方、自身の人生は、神秘主義に惹かれすぎたために錯乱し、最後には衰弱死してしまった。

 コリン・ウィルソンは、シュタイナーの思想にもっとも影響を与えたのは、ヤコブ•ベーメだと指摘している。たしかに、ベーメが説いた宗教的恍惚による五感の超越と同様のことをシュタイナーも語っている。

 ベーメは宗教改革のルター派改革主義者であり、神秘主義を哲学的な体系にまで押し上げて、現実と神秘との橋渡しをしようと試みた。

 神秘主義の系譜を辿ってみると、東洋の古代や西洋の中世がもっとも深遠な思想にまで達していて、近世、近代、そして現代へと移り変わるにしたがって、陳腐化しているように思える。

「人間は地上での生において誕生以後成長を続けていく間、認識の力をもって世界と相対する。まず人間は物質的領域への洞察を得る。けれども、これは知識の前哨地点でしかない。この洞察はまだ、世界に含まれるすべてを明らかにしているわけではない。
 世界には内的な生きた実在があるが、人間は最初はこの生きた実在に到達することができない。人間はそれに対して自らを閉ざしているのである。人間は内的実在を欠いた世界像を形づくるが、それは自分自身の内的実在がまだ世界と向かい合っていないからである。人間が形づくる世界像は、実を言えば幻影なのである。五感によって世界を知覚しているがゆえに、幻影を見ているのである。けれども、人間が自分自身の内的存在の発露として、感覚から自由になった思考を感覚による知覚に付け加えるならば、その幻影は実在で満たされ、もはや幻影ではなくなる。そのとき人間の霊は人間の中で息づき、世界の霊と出会う。世界の霊はもはや、物質界の背後にあるものとして人間から隠されてはいない。それは物質界の内部でくねくねと動きまわっているのである」(C.ウィルソン 『ルドルフ・シュタイナー』)。

 この一文は、言い方を変えれば、レイチェル・カーソンの「センスオブワンダー」でもある。

 そう考えると、神秘主義の伝統をもっとも受け継いでいるのはアメリカ自然主義なのかもしれないとも思う。たぶん、それがもっとも健全な形で、シュタイナーのような神秘主義の迷宮に魂を彷徨わせることもなく、「世界の霊」と接することができるだろう。

(2021.2.23)

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