ショートショート オムライス
ポロン、スマホの通知音だ。
心を躍らせて誰からのラインか確かめる。
その相手は公式ラインだった。公式かぁ、と落胆。
すると立て続けにもう一度通知が。
期待をせずに開いてみると、あ!
無意識に頬が緩む。
会話の内容は何気ないもの、でもそれが嬉しくて。
今回もなんと返そうか、既読を付ける前に考える。
こう返信すると話が終わっちゃうかなぁとか色々考えると時間がかかってしまう。
実は私は今までの人生で一度も恋人ができたことがなかった。
今回は、今回こそは積極的になってみようと、思い切って送ったライン。
それがなんだかんだで続いていて、嬉しい。
まだ、一緒にどこかに行ったことはないけれど、自分の中ではだいぶ順調だと感じていた。
とある休日、私は小さい頃から仲のいい友達とランチに行くことになった。
友達に経過を報告すると、すごいじゃん!と褒めてくれた。
デートくらい誘ってみなよ、と背中を押され、気になっていた映画に一緒に行かないかと思い切って送ってみた。
すると、向こうから自分も相談したいことがあったからいいよ。と返信が。
その返信が返ってきた時は友達と一緒に大喜びした。
それから会う日まで、何を着ていくか、どんなメイクで行くか、髪型はどうしようか、何度も何度もシミュレーションした。
自分史上一番かわいい状態で行けるように努力した。
学校外であの人と会えるなんて喜びで胸が張り裂けそうだった。
待ち合わせには余裕を持っていこうと思って10分前に着いたらなんと、相手はもう到着していた。
集合時間を間違えたかと思って、急いで駆け寄って
「ごめん、遅れた!」というと、
彼は笑顔で
「いや、僕が早く来すぎただけだし、そんなに待ってないから大丈夫、」と。
そんなところも良いなぁ、心は踊るばかり。
まずは、映画鑑賞。
隣が気になって、正直映画の内容はあまり覚えていなかった。
映画が終わると事前に決めていたごはん屋さんに向かった。
映画よかったね~とかそんな他愛ない会話をしていたらお店に着いた。
初めて一緒にご飯を食べるから食べやすいものが良いと思って選んだオムライス屋さん。入る前からおいしそうなにおいが漂う。
「ここにしてよかったね。」
そういうと笑顔で
「そうだね、一緒に来れてよかった。」 と返してくれた。
注文してオムライスが届くまで
話したいことは何だろう、と考えながら内心どこかで告白してくれるかもしれないと淡い期待を抱いていた。
私は明太子ソースがかかったオムライス、彼はビーフシチューがかかったオムライスが届いた。
「いただきまーす!」
一口で幸せが口いっっぱいに広がった、
「おいしいー!」
と思わず口に出すと、彼は
「ほんと元気だね、」と笑った。
ちょっと恥ずかしくなったけど、なぜか嬉しかった。
すると、彼は
「あ、そう相談したいことなんだけど、」 と話し始めた。
「うんうん、」 私は身構えて持っていたスプーンを机に置いた。
「実は僕好きな人がいるんだ、ちょっと前から気になってて」
…… じっと彼を見つめた。
「僕これまで恋愛経験とかなくて、女の子の気持ちわからなくて、(私)になら相談できるかも、って思って…」
そうやって彼は話し出した。私の顔から笑顔はなくなった。
「ちなみに好きな人っていうのは誰?」
勇気を振り絞って聞いてみると、なんと同じ学部の私の友達だった。
それも私と性格が真反対でとってもかわいい子。
「オリエンテーションの時から気になってたんだけど、笑顔がすごくかわいくて」
彼は幸せそうにその子のことを語った。そして、
「どんな人がタイプかな、どうやってライン交換したらいいかな、デートとかどのタイミングで誘うのがいいかな、」
彼は一生懸命話してくれたけど、正直何を言っても頭に入ってこなかった。
私が彼と今日会うまでの抱いていた悩みと同じ悩みを、彼は私ではない子に抱いている。
涙は何とかこらえた。こんなところで泣いたら彼が困っちゃうから。
スプーンも置いてよかった、衝撃で落としてたかもしれない。
頭のなかはぐちゃぐちゃだったけど、オムライスもまだ残っているし、なにより彼の話はまだまだ続くし、どうにか踏ん張った。
「真面目な人がいいんじゃない?」とか「ストレートに聞いた方がいいよ。」とか適当な返答をした。
そんな返答でも彼は一つ一つに頷いて、話を聞いていた。
お互いにオムライスが食べ終わると、
「相談に乗ってくれてありがとう。」と彼は言い
今日のお礼に、とお会計をしてくれた。
お店を出た後、本当は近くの駅まで一緒に帰るはずだったけれど、これ以上は耐えられないと思ったので
「ごめん、この近くに住んでる友達が熱出しちゃったみたいでさ、ここでバイバイでいいかな」 と伝えた。もちろん嘘だが。
彼は「それは大変だ、すぐに行ってあげないと。」と言い
そこで解散となった。
「今日はありがとう」と言うと
「こちらこそありがとう、また相談に乗ってほしい」と。
私は うん、と笑顔を作って言い、彼と真反対の方向に歩き出した。
つらかった。けど泣かなかった、いや泣けなかった。
浮足立っていたのは私だけだったこと。私に振り向いてくれることはないこと、全部が一気に襲ってきて、どうしようもなくて友達に電話した。
友達はすぐに駆け付けてくれて私の部屋まで送ってくれた。
部屋に戻ってやっと解放されたのかたくさん泣いた。友達はひたすらに私の話を聞いてくれた。
どれだけ慰めてくれてもあの子のことを嬉しそうに語る彼の顔が脳裏から離れなかった。
私のオムライスがケチャップライスから白米に変わるのにはそれからしばらく時間がかかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?