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漫画読書雑文「東京市松物語/大山海」2017年

俺は若者が嫌いである。
それは俺が"晩年"を過ぎた33歳のおっさんだからである。
若くもないのに、若い奴らに擦り寄るおっさん、おばはんでロクな奴らを見たことがない。
おっさんとおばはんは大人しく、金とコネだけを与えておれば良いのだ。ガキ共に対しては。
ふとしたきっかけで、大山海という漫画家と出会う僥倖が去年の終わり頃にあった。
実は彼の作品をトーチwebというなかなかに面白いweb漫画誌で読んでいて、好きな作家だった。
会ってみると、期待を裏切らない暗さの中に鋭利なハンティングナイフを仕込んでいるような若者で、舐められた瞬間にこちらが終わるような、そういう刃を感じるようなものがある。俺は「全員クソや!」と感じさせるような若者が好きである。勿論、どうせ9割の人間はクソな存在でしかないからだ。
そんな彼が先に挙げたトーチで連載中の、次回で最終回の「奈良へ」を是非皆さん読んで欲しい。[http://to-ti.in/product/gotonara]
そんなこんなで、彼の処女単行本である東京市松物語を本人からサイン入りでいただける事になった。


このサイン付きの漫画を、大山君を紹介してくれた東京で不器用で不様に、コミュニティに対して闘っている最近可愛がっている後輩が持ってきてくれた。褒美として、大いにホルモンと酒を呑ませてやった。それが俺が彼らに出来る最後の求愛のようなものだ。こういう営みは先輩から俺へ、そして、奴らからまた下の世代へ受け継がれて行くだろう。それを俺は伝統であり、人の営みであり、ロックだと信じている。
その飲みの帰りに御堂筋線に乗りながら読み終えたのだけど、涙が溢れそうになった。
それは表紙に出ているセディショナリーズ(たぶんレプリカだろう)のTシャツを着て、金髪で、胸元にはピースマークのネックレス(この諧謔性のダサさと美しさは、文化資本が無かった叩き上げの奴らにしか分からないものだ!)をした3年前の大山君の写真を見たからではない。
作品の中にひたすら出てくる"ロックとは"という問いがかなりシンクロニシティを感じさせるからである。
この単行本の帯を書いた銀杏BOYZの峯田もみうらじゅんも"町田康"も全員クソな奴らであるのは間違い無いし、そんな奴らに今さらロックも文化も何も語って欲しくは無いが、まあそんな事は出版社の少しでも売りたい(ここではない何処かへ届けたい)という想いの発露でしか無いだろう。
若い衝動というものは、人間であり続けるためには必ずしておかなければならない。
それは近代以降、大して賢くもなく、金持ちでもなく、大きな不幸も幸福も与えられていない死んでいく迄の日々を浪費し、そういう者達が持つ数少ない"物語"を創出出来る機会である。
かくいう俺も若かりし頃バンドをやっていた。世界で一番格好良く、最高のロックバンドだと本気で思っていた。もちろん、今思えば、世界を舐め切ったようなクソなバンドだったし、解散の理由もクソでしかないが。
この漫画にもそういう衝動だけで組んだバンドが文化祭でライブするまでの物語が基調になっている、そして、そのバンドから音を感じるような描写はない。
何故ならロックバンドとは音や楽器の構成でなく、存在そのものを指すものである。
音だけ形(なり)だけのバンド共のなんというクソな事であろうか!
そういう空気を体感させられる若者達の衝動と、暗鬱たる因習の村社会で犠牲になったハミ出し者の怨念のようなものが出会い、物語を紡いでいく。
それほど、圧倒的で稀有な経験をした者達もまたそれぞれの日常へ回帰していくという地獄が待っている。
どれだけ衝動で刹那的に、破滅的に生きていこうとしても、この現代社会はそんな事すら既に織り込み済みで営みは続いていき、生きねばならないのだ。その残酷さと美しさを決して貫徹して衝動を生きようとした者にしか分からない叙情であろう。
そういう者達の蠢きを捉えようとした本作品を読んでいると、酒の酔いも回っていたのだろう激しく胸を打たれたような、流石にここまでダサくてモテない青春でも無かったが、否、俺も今思うと赤面するしか無いようなダサさと好きな女と同衾出来なくて悶々と気持ち悪い同性の捻くれた持たざる者達と過ごしていた気がする。
まあそこまで悲惨では無かったとも思うが。

とにかく、もうとっくに衝動を過ぎたおっさんが自分語りも含めてついつい、お前ら読めよ!とウザく絡みたくなってきてしまう物語だった。
さあ、お前らにこれが解るか?
と言い放ってしまいたくなるものも間違いなく、一つのロックである。
そして、ロックは未来永劫滅びず、可能なものである。

東京市松物語 https://www.amazon.co.jp/dp/4883794393/ref=cm_sw_r_cp_api_fabc_PjF-Fb57K9PTS

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