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ギリシャ神話イカロスの自滅〜King Gnu『IKAROS』考察〜

約4年ぶりとなるKing GnuのNEW ALBUM『THE GREATEST UNKNOWN』が11月29日にリリースされた。収録曲のうち、インタールードを除くほとんどの楽曲がタイアップ曲のアルバムだが、唯一のノンタイアップ曲が『IKAROS』である。発売日まで謎のヴェールに包まれていた本楽曲について、考察していきたいと思う。


ギリシャ神話に登場するイカロスとは

『IKAROS』の歌詞を読んでいくと、ギリシャ神話に登場するイカロスという人物がモデルなのではないかと気付く。イカロスは、ギリシャ神話の中で以下のように語り継がれている。

伝説的な大工・職人ダイダロスの息子。ダイダロスとイカロスの親子は王の不興を買い、塔に幽閉されてしまう。彼らは蜜蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んで脱出した。父ダイダロスはイカロスに「蝋が湿気でバラバラにならないように海面に近付きすぎてはいけない。それに加え、蝋が熱で溶けてしまうので太陽にも近付いてはいけない。」と忠告した。しかし、自由自在に空を飛べるイカロスは自らを過信し、太陽にも到達できるという傲慢さから太陽神ヘーリオスに向かって飛んでいった。その結果、太陽の熱で蝋を溶かされ墜落死した。

イーカロス - Wikipedia

King Gnu『IKAROS』楽曲構成

『IKAROS』は、古い機械のような音とともに始まる。この音は、今にも壊れそうな翼の音を表現しているのではないかと思う。井口さんの透き通った歌声で歌われる歌詞には、太陽の熱によって翼が溶けて、堕ちていくイカロスの心情が映し出されている。

笑ってよ、どうでも良くなる程
燃やし切ってよ、諦めがつく程に
決して微塵の虚しささえ
残らぬほどに、振り返らぬように

King Gnu - IKAROS

波打つようなベースの音色と、チルな空間を演出するビートは、雲の間からゆっくりと堕ちる様子を連想させる。

君の瞳に近付き過ぎたの
大気圏通過350℃
翼が溶けてゆく
どこまでも堕ちてゆく

King Gnu - IKAROS

太陽に魅せられ、その欲望のままに近付いてしまったイカロス。ギターを含め様々な音の数々が、パラパラと溶けていく翼を表現しているように思える。

決して微塵の記憶さえ
残らぬほどに、燃え尽きますように
AND NOW
FALLING DOWN

King Gnu - IKAROS

美しいコーラスに包まれたイカロスの祈りの言葉は、澄み切った歌声で天まで広がっていくようにも感じられる。

涙が落ちるより速いスピードで
異國の酒に酔いどれ溺れて
記憶が薄れてゆく
どこまでも堕ちてゆく
翼が溶けてゆく
どこまでも堕ちてゆく

King Gnu - IKAROS

King Gnuの楽曲の中では珍しく、井口さんの声が大幅に加工されており、だんだんと意識が薄れていく様子が目に浮かぶ。

笑ってよ、どうでも良くなる程
燃やし切ってよ、諦めがつく程に
(攫ってよ)
決して微塵の虚しささえ
(誰も知らぬ)
残らぬほどに
(何処かへと)
振り返らぬように

King Gnu - IKAROS

ボーカルが交代し、常田さんがメイン、井口さんがコーラスになる。攫ってよ、誰も知らぬ、何処かへと、という歌詞がメロディーと調和し、美しく響き渡っていく。

笑ってよ、どうでも良くなる程
燃やし切ってよ、諦めがつく程に
決して微塵の虚しささえ
残らぬほどに、振り返らぬように

King Gnu - IKAROS

井口さんと常田さんの高音・低音ボイスが絶妙に混ざり合う。最後には泡が弾けるような音が鳴り、静かに海に沈んでいくような感覚を残していった。

イカロスへの鎮魂歌

King Gnu『IKAROS』は、ギリシャ神話イカロスへの鎮魂歌とも言えるだろう。この神話は、人間の傲慢さを戒めるという意味がある一方で、人間の勇気を讃えるという意味もある。本楽曲の解釈では、泥臭い欲望を勇気と讃え、それによってもたらされる死に美しさを見出しているように思える。清濁を併せ呑んで、混沌を受け入れるKing Gnuの姿勢とも重なるように感じられた。

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