転移のメカニズム

「転移」という言葉を聞くだけで、鼓動は激しくなり不安になります。
今回は、転移のメカニズムを僕の治療スケジュールと合わせて話しますね。

人の体は、37兆〜60兆個の細胞でできているといわれています。
37兆個のほうが最近では有力ですが、どちらでも構いません。ただたくさんの細胞が集まって1人の人間を形作っていると理解してもらえればそれで結構です。

がんは、正常な細胞から生まれた異常な細胞の塊です。

正常な細胞は、体の状態に合わせて、増えたり、増えることをやめたりします。
例えば皮膚の細胞は怪我をした時、増殖して傷口をふさぎます。
そして傷が治れば増殖を停止します。

一方、がん細胞は、体からの命令を無視して増え続けます。
どんどん増え続けるがん細胞は、やがて周囲の大切な組織を破壊しながら
臓器へ直接広がっていきます。これを「浸潤」といいます。

近くの血管やリンパ管へ浸潤したがん細胞は
血液やリンパの流れにのって運ばれていきます。
そしてたどり着いた場所から血管外へ出て、増殖を行います。
これが「転移」です。

転移の方法.004


転移の方法には、3種類あります。

転移の方法.001

がんの種類によって転移しやすい先があります。
主な転移先と原発がんをまとめた表が以下の通りです。

転移の方法.002

僕のパターンは血行性転移+リンパ行性転移、赤字の部分。

大腸がん患者のうち、診断がついた時点ですでに肝転移を認める患者は約10%。
僕も大腸がんが分かった時には、すでに肝臓に少なくとも5〜6個はあると診断を受けていました。

転移の方法.005

なぜ、肝臓に転移しやすかというと、
肝臓は、他の臓器と違い、血液を送り込む大きな血管が2種類あるからです。
1つ目は、肝臓に酸素を運び込む役割を持つ肝動脈。
2つ目は、いろんな栄養素などが運ばれる門脈(静脈系統)。

転移の方法.005

血液の流れに乗って肝臓までやってきたがん細胞は、それぞれ大きな2種類の血管から肝臓へ流れていきます。肝臓に入ったがん細胞入りの血液は、細かく枝分かれした血管が隅々まで運び、肝臓の細胞にまんべんなく栄養素や酸素と一緒に行き渡り、肝臓に転移、そしてまた、血液の流れに乗って肺へ、肺がんも発症したということです。

ある医師の話によると
「肝臓に転移するケースが非常に多く、血行性転移の代表的な標的臓器であり、
がんで亡くなった方の50%くらいは肝臓に転移している」といいます。

大腸がんに対して手術を行った後に肝転移を発症する確率は、
切除した時の進行度にもよりますが、5〜30%といわれています。
そして、大腸がん患者の生命予後にこの肝転移が深く関わっています。

1つの臓器に転移が起こったということは、他の臓器にも検査で見つからないほどの小さな転移が起こっている可能性を考えて治療する必要があります。
多くの場合、根治ではなくがんの進行を抑える目的で全身に効果のある抗がん剤治療が行われます。

転移性がんは、最初にできた原発大腸がんの細胞と同じ性質を持っているので、
肺がんであっても大腸がんに効果のある抗がん剤を使用します。
抗がん剤はまた別の機会に詳しく書こうと思います。

西洋医学は、先ず見えているがん細胞を切除するというのが基本で、肝切除は治療成績が良く、長期生存が期待できる方法として主治医から提案されました。

転移の方法.007

肝転移切除後の5年生存率は一般に30-50%というデータもありました。

肝臓はとても優れた臓器で、再生能力があるため、正常な肝臓であれば、手術前の30〜40%程度の肝臓が手術後に残っていれば、数週間で再生しほぼ元の大きさに戻るといいます。

肝臓に5〜6個がんがあったので、1回目の手術でできるだけ切除し、肝臓が再生するのを待っている肝切除と肝切除の間に、抗がん剤治療をするというスケジュールでした。肝臓の治療が終わると次は肺がんの治療というわけです。

転移の方法.008

転移があると、がんが複雑化し治療を難しくさせるだけでなく、長期戦になります。がんはどこにでもできる可能性があることを理解し、その対策を自分の状態に合わせ、主治医としっかり話し合う必要があると僕は思います。




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