【空想会議レポート 後編】 陶芸家 / TOKINOHA代表・清水大介「自分が映画の主人公なら、どう動くとおもしろいだろう?」
「毎日に気づきの種を」
そんな言葉を掲げて、DAYが月に1度開催している『空想会議』。
外部ディレクター・宮下拓己さん(LURRA°共同代表・ひがしやま企画代表)と共にスタートした、新たな未来のためのこのトークイベントでは、毎回さまざまな領域で活躍している方に「過去・現在・未来」について話していただきます。
今回の登壇者は陶芸家であり、暮らしを味わうための清水焼ブランド『TOKINOHA』代表でもある清水大介さん。 陶芸が未来に続く仕事になるよう、様々な活動をされています。
前編では、清水さんの「過去・現在・未来」について。
そしてこの後編では、DAYの皆さんとの質疑応答をレポートします。
「とりあえずやる」と先に決めちゃう
清水さんの「過去・現在・未来」のお話のあとは、DAYのスタッフとの質疑応答。
付箋にそれぞれの質問を書き込んで、清水さんに直接答えていただきます。
最初は、司会の宮下さんの質問から。
「清水さんは『清水焼』というものに対して、どんな思いで向き合われているんですか? あえて『清水焼』とは言いたくない、などあるのでしょうか?」
「最初は『清水焼をやってます』って言うのが嫌でした。『清水焼』っていうと、クラシックな絵が描いてある古典的な器をイメージしませんか? そういう感じのものを作る人なのかなと思われるのが嫌だったんです。
でも清水焼団地で店をやっていて、名前も『清水』で……それで『清水焼じゃないです』って言うのは言い訳がましいですよね(笑)。ある時から、『清水焼を背負っていこう』くらいに思い始めて、今はその言葉の響きをアップデートさせたいと思っています」
宮下:「ちなみに『清水焼』の定義って何なのでしょうか?」
「実は『清水焼』の定義って『京都で作られている』ということだけなんですよ。信楽焼とか有田焼とかは、その地で採れた土を使った焼き物という定義があるんですけど。だからあんなに特徴的なんですよね。
でも、京都はそうじゃないんです。最終の流通地である都だったから『悪路を通って割れ物を運び寄せるよりも、ここに職人も土も呼び寄せて焼いちゃえば早いね』となったそうで。だから『京都で作られている』以外はなんでもありなんです。ある意味、とても自由な焼き物なんですよね」
渡部:「僕はお話全体を通して『決断力がすごいな』と感じていました。あと、違和感をもとに新たな価値を見立てる力がすごいですね。そういう決断って、どのようにされているんですか?」
「僕は『とりあえずやる』と先に決めちゃう癖があるんです。陶芸を始めた時も『今後10年は、陶芸にまつわること以外で金を稼がへんぞ』って決めてたんですよ。そうやって自分を追い込んで、何とかして考える。だから全部後付けですね。
最近誰かが『桃太郎で一番すごいのは、桃を持って帰ったおばあちゃんや』と話されていたのを見たのですが、僕もそう思います。チャンスって、みんなの前に割と平等にあるものだと思うんですよ。中には怪しいのも多いし怖いけど、それをちゃんと見逃さずに取れる人は幸せになりやすい。そういうことは常に意識していますね」
どっちを選んだらストーリーがおもしろくなるか
ここからは、DAYのスタッフの皆さんからの質問です。
ボードには質問を書いた付箋がたくさん。どんな問いが集まっているのでしょうか?
―仕事が来ない時期、どうやって乗り越えていましたか?(特に精神面で)
「仕事がない時によく思っていたのは、『腕より目が先に行っていないといけない』ということでした。料理人も多分一緒だと思うんですけど、腕より舌が先に行っていないと、その味を作れないですよね。若い時は、『僕はこういうのが作りたいんやけど、技術的に作れないから今はしゃあない。作れるようになったら絶対売れるはずや』っていう謎の自信があったので、それで乗り越えました(笑)」
宮下:「飲食でも、最初の3年間の離職率がめちゃくちゃ高いんですよ。多分陶芸業界も同じではないかと思うのですが、清水さんはやめようと思ったことはないんですか?」
「ないっすね。僕、貧乏にめっちゃ耐性あるんですよ。修行中とか、当たり前に携帯止まってたし。そもそも、お金のことマジでどうでもいいと思ってるというか……ほんまになくなったら誰かのところに転がり込めばいいかって思っています。奥さんと結婚する時もお金なかったけど、『最悪、寝袋だけはいいのあるし、公園暮らし以下にはいかへんから信じてくれ』みたいな。今思えば、何を信じるの?って感じですけどね。結論、奥さんが偉いんだと思います(笑)」
―人生の選択に迫られた時、何を基準にされていますか?
「自分を俯瞰して見るようにしています。例えば自分が映画の主人公やったら『どっちを選んだ方がストーリーがおもしろくなりそうかな』って。臆病なんであれこれ調べたりはするんですけど、そこに怖さを感じることはないですね。多分、さっきの『貧乏に耐性がある』って話と繋がっていると思います。
コロナの時、ほんまに仕事がなくなって売り上げがゼロになったことがあるんですけど、その時初めて『これはまずいかも』と思って『自己破産』で検索したんですよ。そしたら、全然生きていけるやん、余裕やなって思って(笑)。会社がダメになっても誰かのところで働けばいいし、家がなくなってもどこかに転がり込めばいいし。人生ずっと、そんな感じではありますね」
ー決断をしたものの、自分に自分が追いつかなくなることはありますか?
「いや、ないですね……。渡部さんはあります?」
渡部:「僕もないですね。というか、今の自分では足りていないのが前提なんで、後から学んだり人から盗んだりして、近いところまでなんとかいけたらいいやと思っています。これを僕は『寝技に持ち込む』と言っているんですけど」
「僕もそう。自分ができないなら、誰かがやったらいいって思ってるかな。とにかくしつこくやるのが大事かもしれないですね」
「いい陶芸家」「いい器」ってなんだろう?
―「今はないけど将来あるといいもの」を考えついて、実行する力がすごいと思います。自分が今いる場所を客観的に見る秘訣を教えてください。
「『みんながいいような状況を作ろう』というのは、いつも意識していますね。登場人物が三人いるんだとしたら、三者が気持ちよくなるにはどうしたらいいかなと考える。そうすると自然と自分から離れて、その場を客観視できるようになると思うんですよね。
『自分だけいい思いをしたい』って主張するの、めっちゃ恥ずかしいじゃないですか。それが僕はいやなんで、『他の人たちもハッピーになるような状態で、かつ自分もいいような仕組みってなんだろう?』みたいな視点はずっと持っていますね」
―陶芸の「腕がいい、悪い」は、どこで判断されますか? 「いい器」の定義はありますか?
「腕がいいと思うのは、シンプルで普通な器を作れるかどうかですかね。そこで技術の差が出ます。
『いい器』についてはまだあまり言語化できていないんですけど……焼き物って放っておいたらすぐ割れるものなんですよね。でも、それが何百年もずっと割られずに保存されて、今も残っている。それはもう、絶対的に誰かに愛されたり、価値があると思われているから残っているわけじゃないですか。そういう器にはやっぱりパワーを感じるし、それが『いい器』なんだろうなと思います。
多分その要素の一つは、さっきも言った『シンプルであること』だと思うんですよ。作家性云々ではなく、時代背景に関わらず愛されるもの。だからこそ、シンプルなものを作れるのは大事だと思いますね」
―陶芸家で注目されている方にはいらっしゃいますか?
「いや、僕、全然見ないんですよね…… 。国内でも海外でも、追ってる陶芸家さんって一人もいない。いつも思うのは、今有名な人を見てもしゃあないなってことなんです。特に陶芸は大昔からあるから、今みんなが表現してることって過去の焼き直しなんですよね。
だからよく学生に言うのは、その陶芸家が目指している陶芸を見なさい、と。遡ると、日本だと安土桃山時代とか弥生土器とか縄文土器とかになったりすると思うんですけどね。でもそれをいくら見たところで、昔すぎてパクリにもならへんし。ちなみに弥生土器はめっちゃかっこいいっすよ。縄文土器と弥生土器の間に、宇宙人が現れたんじゃないかと思うぐらい。そういうのを見るのは好きですね」
遠くまで行きたければみんなで行け
ー陶芸の一番の魅力を教えてください。
「やっぱり、一生かけても到達できなさそうなぐらい深いところかな。僕、めちゃくちゃ飽き性ですぐ新しいことやりたくなっちゃうたちなんですけど、そんな僕でも全然飽きひん。それはなぜかっていうと、ずっとできないからなんです。そこが一番の魅力なのかなと思います」
―自分の人生の最高傑作品はありますか?
「いや、ないですね。仮にもし最高傑作を作れちゃってたら、やめてると思います。まだ全然自分が到達できていないからこそ、続けられている気がしますね。
僕の中の理想は、なんの変哲もない釉薬と土と、何の変哲もない表現で、めっちゃかっこいいものが作れること。まあ、なかなかそこに到達できなくて、まだまだこねてる感じがしますけど。そこをもっと突き詰めたいなと思っています」
―今まで仕事をしていて、もっとも「楽しい」と感じたことは何ですか?
「今もですけど、年々人が増えていって、何かが更新されている感じが、めちゃくちゃ楽しいです。アフリカのことわざで『はやく行きたければ一人で行け。遠くまで行きたければみんなで行け』というのがありますけど、僕もそう思います。
やっぱり、作家一人が行ける場所って、もう先人が散々行ってる。僕がどう頑張ってもそこらへんにしか行けないけど、みんなでやってると全然違うところまで到達できそうな気がするんですよね。
もちろんしんどいこともあるけれど、見えない場所に行けそうだと感じる瞬間は、いつもワクワクします」
その他にも、「オーダーメイドと職人活動、やりがいにどんな違いがありますか?」「夫婦で一緒にお仕事される中でいいことは何ですか?」「いつか陶芸体験に行きたいです」など、いろいろな質問や感想が出ていました。
業界の「当たり前」を疑って、今までにない選択肢を作る。未来に向かうアイデア力と実行力が豊かな清水さんに、勇気とワクワクをもらった空想会議でした。
次回の空想会議のゲストは、コミュニティの力で文化的プロジェクトを生み出す株式会社マガザンの岩崎達也さんです。どうぞお楽しみに!
取材・文 土門 蘭
写真 辻本しんこ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?