【空想会議レポート 後編】 文筆家・土門蘭「対話で大切なのは、自意識を消して自我を残すこと」
「毎日に気づきの種を」
そんな言葉を掲げて、DAYが月に1度開催している『空想会議』。
外部ディレクター・宮下拓巳さん(LURRA°共同代表・ひがしやま企画代表)と共にスタートした、新たな未来のためのこのトークイベントでは、毎回さまざまな領域で活躍している方に「過去・現在・未来」について話していただきます。
今回の登壇者は、文筆家の土門蘭。何を隠そう、今この文章を書いている私です。
これからDAYさんでさまざまな記事執筆を担当する予定なので、自己紹介も兼ねて登壇させていただきました。
前編では、「書く」を仕事にするまでの「過去・現在・未来」について。
そしてこの後編では、仕事で大事にしてきた「対話」についての話と、DAYの皆さんとの質疑応答をレポートします。
「対話」とは、カレーとトンカツからカツカレーを生むこと
後半は、土門のテーマである「対話」についてお話ししました。
「書くとは何かというと、私は『対話』だと考えています。
対話の相手が他者であればインタビュー記事に、相手が自分であれば作品になる……だから、『対話』は私の仕事には必要不可欠なものです」
きっと、人と接することの多いDAYの皆さんにとってもそうなのではないか?
そんなことを考えながら、お話を始めました。
まず、「対話」とはそもそも何か?ということから。
「対話とは、1つの問いに対して、2人以上で考えていくことだと思います。
例えばインタビューとは話を『聞く』ことだというイメージがありますが、実はそれだけではない。『聞く』が相手から答えをもらうことだとすると、『対話する』は自分も考えて一緒に答えを探すこと。私は、そういうインタビューがしたいと常々思っています」
ここで、ヘーゲルの弁証法をご紹介しました。
ヘーゲルという哲学者は、「テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼ」という順番で世界は進化していると論じています。
この3つをわかりやすく例えると…
・「今日のランチはカレーを食べたい」→テーゼ
・「いや、私はトンカツを食べたい」→アンチテーゼ
・「じゃあカツカレーを食べよう」→ジンテーゼ
つまり、ある人の意見(テーゼ)に対して、違う意見(アンチテーゼ)が現れた際、どちらかが押し通したり妥協するのではなく、異なる意見を統合した新たな答え(ジンテーゼ)を生み出す……
ヘーゲルが提唱するこの弁証法は、まさに対話のプロセス。
インタビューだけではなく、あらゆるコミュニケーションにおいて必要なことだと、私は考えています。
対話のために必要な4つのステップ
では、対話をするのに必要なこととはなんでしょう?
私からは、4つのステップをお伝えしました。
まずは、「問いを持つこと」。
どうすればもっと良くなるだろう、どうすればもっと心地よくなるだろう、どうすればもっと人が集まるだろう……そういった共通の問いをそれぞれが持っておくことが大事です。
常に問いを胸の中に持っておくと、見るもの、体験すること、すべてからヒントをもらえます。
2つ目は、「仮説(一時的な答え)を持つこと」。
問いに対して、とりあえずの答え「仮説」を持っておきます。自分の中に答えがない状態で話すと流されてしまい、自分がいる意義が見いだせなくなってしまう。なんでもいいから仮説を持つ、というのはとても重要です。
3つ目は、「仮説を恐れず出し合える環境を作ること」。
人の意見を否定したり無視することなく、尊重する環境に一人ひとりがしていくこと。
「自分の考えは限定的であって、全体ではない」「みんなの考えを統合すれば、よりよい答えに行き着く」という自覚・謙虚さが、そういった環境を生み出します。
4つ目は、「違和感を言語化すること」。
感覚は人それぞれ違うから、どこかしら違和感はあるはず。それを打ち消す必要はなく、丁寧に言語化して伝えることが大事です。「なんとなくこう感じる」と感性で話すと対話はできないけど、「こうだからこう感じる」とロジックで話すと対話が可能になります。
「共感はできなくても、理解はできる。言葉とは、そのためにあるのものだと思っています」
自意識を消して、自我を残す
最後に、対話をするときに大事にしていることについてお話しました。
それは、「自意識を消して、自我を残す」ということです。
「『自意識』とは人からどう思われるか、『自我』は自分がどう思っているか。
相手の人にすごいと思われたい、バカだと思われたくないと思うと、自分が本当に思っていることが素直に出なくなってしまいますよね。それは、自意識が分厚くなり自我が押し込まれている状態です。
でもそれだと、本当のことが話せなくなってしまう。なので、私はなるべく自意識を捨てて『わからないので教えてください』とか『今の言葉にすごく感動しました』と言うようにしています。
そのためには、相手を信じること。自分から心を開けば、相手も心を開いてくれます。すると、いい対話ができるように思います」
私からのお話はこれまで。
DAYの皆さん、真剣な眼差しで熱心に聞いてくださいました。
一旦休憩を挟んでから、次は質疑応答の時間です。
DAYのスタッフから土門蘭への質問
宮下さんが司会進行を務めつつ、皆さんからの質問を読み上げていく質疑応答コーナー。
いろいろな質問が出たのですが、ここでは一部をピックアップします。
質疑応答の合間に、時々代表の渡部さんや司会の宮下さんも考えを話すなど、とても有意義な時間になりました。
DAYの皆さんはどんなことが気になったのでしょうか?
ー 作家とライターの仕事を行ったり来たりされているとのことですが、その二つの間で影響を及ぼし合うことはありますか?
「すごくあります。
私はクライアントワークでライターとしてインビューする時も、必ず『自分の問い』を混ぜるようにしています。どんな仕事にも、必ず自分の知りたいことを絡ませるんですね。するとインタビューのたびに発見やヒントをもらえるので、それが自分の作品にも反映されるんです。また自分の作品を書いていると、必ず次の問いが生まれてきます。それが次のインタビューの問いになって……というように、うまく循環して枯渇が起こらないようになっています。
やっぱり、一人きりでやっていると視野が狭まって枯渇していくんですよ。だからと言ってずっと他者に影響をされていると、自分が何を書きたいのかわからなくなってくる。一人の時間と他者との時間、どっちも過ごすことで、今の自分の範囲を超えるものを書き続けられるような気がしています」
ー 対話のプロとして、子供を叱るときはどうしていますか?
「私、子供を叱るときに一番よく使う言葉が『文句を言うな、提案をしろ』ってことなんですね。
例えば晩ご飯にピーマンが出た時「えー、ピーマン嫌や」って言うのは文句。「ピーマンは食べたくないから残していい? 代わりに人参は食べるから」って言うのは提案です。
私は提案には怒らないけど、文句には怒る(笑)。別にピーマンが嫌いなことはいいんだけど、文句を言われたところで前に進めないから。『どうしたらあなたが気持ちよく生きられるのか、私にわかるように教えてほしい』と常に言っています。
つまり、さっきも話した『対話』をしようってことですよね。そうすればお互いに機嫌よく、豊かに暮らせる。きっと私は、そういうことを子供にも伝えたいんだと思います」
渡部さん「それは仕事にも当てはまることですよね。不満だけ言うのではなく、どうしたら自分が気持ちよく仕事できるのか意見を言って交渉する。それはうちでも大事にしたいですね」
宮下さん「僕も、行き先のない一方通行の言葉は使わないようにしています。そういう言葉は輪にならないから。だから、感情的な言葉は受け取らないようにしていますね。感情の交換はしないで、意見の交換をしようって言っています」
ー 自意識を消して自我を残すやり方を教えてください。
「今この瞬間も、自意識が強すぎたら話せないので、消すようにしているんです(笑)。
『もっと賢そうな人に見られたい』とか『好かれたい』とか思うと、何を話せばいいのかわからなくなる。もちろん社会性はないといけないんだけど、それが強すぎると、自我が消えていってしまいます。
そこで私が気をつけているのは、シンプルに『本当に思っていることしか言わない』ということです。他者への配慮は保ちつつ、自分自身でいることですね。
と言っても、大した話じゃなくていいんですよ。『今日、天気いいですね』とか『素敵な色のシャツですね』とか。でも、本当に思っていることだけ言う。お世辞は言わない。これを続けていると、次第に『自我』がわかってくるような気がします」
ー 言語化することが苦手です。言葉が出てこなくて、伝えるのを諦めることがあります。アドバイスをお願いします。
「言語化ができないのには、大きく分けて2つのパターンがあると思います。1つは、自分の考えや気持ちを表現する言葉が見当たらないパターン。もう1つは、自分の考えや気持ちを否定して、出にくくなってしまっているパターンです。
前者については、シンプルにトレーニングかなと。私は今英会話を勉強しているのですが、まさに質問者さんの状態なんですよね。自分の考えをどう伝えたらいいかわからない。でも、単語を覚えたりリスニングすることで、だいぶカバーできるはずです。だから、まずは本を読んで映画を観ることをおすすめします。読めば読むほど、聞けば聞くほど『こういう言い回しがあるのか』『こんな伝え方があるのか』と引き出しの中身を増やしていけると思います。
後者についてですが、時々『自分が何を言いたいのかわからない』というご相談を受けます。お話を聞いてみると『人にどう思われるかを考えすぎて、自分のことがわからなくなった』という方が多いんです。そういう場合には『まずは誰にも見られないところに文章を書いてみてはどうですか』と言っています。ネガティブなこともマイナスなこともなんでも書いていい、自分にとっての絶対的な安全基地。それをノートなりスマホなりに作って、自分の中に詰まっていた言葉を出してあげるといいのでは、と。すると、だんだん言葉が出てくるので、その後に自分の言葉を他人が受け取りやすいよう加工・調理する、っていうプロセスを踏むのがいいと思いますね」
渡部さん「僕は全然文章は書かないんですけど、よく独り言を言っていますね。夜の御池通なんかを、ずっとぶつぶつ言いながら歩いています(笑)。とりあえず言葉として出してみて、修正をしていく感じかな。書くと修正に時間がかかるので」
宮下さん「僕も喋る派で、残しておきたいなって思うアイデアみたいなものはボイスレコーダーに録音しています。聞き直すと恥ずかしいこと言ってたりするんですけど(笑)。めちゃくちゃ面倒くさがりなので、僕の場合、書くより話す方が自分の言葉が出やすいんだと思います。人によって、言葉が出やすい方法が違いそうですね」
ー 辛いことがあった時、どんなふうに元気を取り戻していますか?
「私は何度か挫折を経験してきましたが、さっき渡部さんと休憩時間中に話していたら、『土門さんは、ピンチのたびに大きい問いが来るような感じですね」って言われて、なるほどなと思いました。鬱で仕事を辞めた時には『今後の自分にできる働き方ってなんだろう?』と考えるし、コロナで仕事がなくなった時には『今、本当に自分がしたいことってなんだろう?』って考えるし。ピンチのたび、自分に問うている。その度に答えや気づきを獲得していっているなと思います。
辛い時は『辛い』としか思えないけど、少し先の未来から自分を見たら『これは成長するチャンスだ』って思える。挫折を経験した人にしか得られない優しさや強さがあると思うから。つまり、自分自身の物語をどう紡いでいきたいか。紡いでいくのは自分自身なんだという事実は、一つの希望だと思います」
その他にも、「初めての人と話すときに意識していることはなんですか?」「否定的なことを伝えるときどうしていますか?」「夫婦間ではどんなコミュニケーションをとっていますか?」など、いろいろな質問が出ていました。
「文筆業」というDAYの事業とは異なる分野で働く私ですが、「自分との対話」「人との対話」という側面で、DAYの皆さんと繋がれたような気がします。この時間で話したことが、DAYのこれからに少しでも役立ったら幸いです。
次回の空想会議のゲストは、「くらしを味わうための清水焼」TOKINOHAを手がける、陶芸家の清水大介さんです。どうぞお楽しみに!
取材・文 土門 蘭
写真 辻本しんこ
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