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経営学の夜明け

以前『企業の概念』にて、経済学における”企業”の見方と経営学における”企業”の見方を紹介しました。そして今回は、20世紀における企業理論の変化について紹介したいと思います。尚、このnoteと一緒に『企業の見方』を読んでおくとさらなる理解を助けになります。是非読んでみてください。では、20世紀の企業理論の展開を少しお裾分け。
※今回のnoteは多少マニアックなものを含みます。ご了承ください。

シュンペーターの挑戦

オーストリアの経済学者のヨゼフ・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は当時、主流であった新古典派の「標準的な企業」という画一的な企業の見方に対して疑念をもっていました。機械を用いた工場の運営による大きな時代の変化に対し、新古典派の見方では説明ができないと考えたのです。そして、シュンペーターは、企業に対する新たな見方を打ち出します。

①経済成長の駆動装置は企業の「競争する習性」である。
②企業間の均一性よりもむしろ不均衡性の方が重要である。

この考え方は、新古典派に異議を唱えるものでした。さらに、シュンペーターは、企業を経済成長の要因と企業の成長とを結び付け、イノベーションを起こす主要な要因であると強調しました。この主張から、だんだん企業への見方が変化して行きました。

大企業へのフォーカス

シュンペーターの主張は当時革新的なものではありましたが、企業の内部で何起こっているかについてはほとんど重きを置いていませんでした。以前として、企業内部は「ブラックボックス」のままだったのです。
しかし、第2次世界大戦後の1950年から1960年にかけて「ブラックボックス」であった企業内部へのフォーカスが進みます。様々な学問的背景をもった数名の研究者が、垂直統合された複数事業部制の巨大企業の成功に関心を示し始めました。第2世界大戦後、アメリカが経済的リーダーシップをに握ることできたのは、この巨大企業たちのおかげでした。この歴史的背景から、巨大企業の統治メカニズムを解明することこそが経済成長を理解する上で非常に重要であるという考えが生まれます。この時、史上初めて、ミクロレベルの”企業”と”一国の富”を研究するマクロ経済との密接な関係が構築されました。
また、この新たな理論的アプローチは、新たな研究分野を生み出します。

①国内、国際の両方における企業成長の決定要因と原動力に関するもの
②企業活動の政策(のちの戦略)に関するもの
③企業の最適構造に関するもの
④組織の中における個人の役割と行動パターンに関するもの

この第2次世界大戦後の学問的変化が、今日の経営学の学問体系の起源になります。

経営学の発展に貢献した者たち

さらに、経営学にさらなる発展をもたらした研究者たちを紹介したいと思います。

・エディス・ペンローズ

近代企業の成長プロセスに研究者の関心を向かわせたのは、アメリカの経済学者であるエディス・ペンローズ(Edith Elura Tilton Penrose)です。ペンローズは、『企業成長の理論』という著書のなかで、以下のような主張をします。

近代企業は「ものごとをどのように行うか」ということを学習し、最終的には習得する組織である。また、企業の成長プロセスは、企業が持つ物理的・人的資源の利用する能力によって説明される。時が経つにつれ、企業は自ら進化し、新しい知識を創造し、多くの産業で適応可能な能力を習得する。

この主張により、多くの研究者は、企業について考える際は、組織的学習と知識創造や利用について考慮にいれるようになりました。

・リチャード・ネルソンとシドニー・ウィンター

シュンペーターのアイディアとペンローズのアイディアに触発され、リチャード・ネルソン(Richard R. Nelson)とシドニー・ウィンター(Sidney G. Winter)という付帯の経済学者はルーチンという概念を打ち出しました。

ルーチンとは、組織がその地位を維持するために、成功した行動を記憶しておく方法である。

この概念によって、一部の個人や組織が変化に抵抗する現象を説明することが可能になりました。企業は、累積的な学習とプロセスの試行錯誤によってルーチンを作り上げていきます。そして、ルーチンを取り入れることによって不確実性を減少させようとします。もし変化に対応するとなった場合、また新たなルーチンを作り上げなければなりません。それが嫌な個人や組織は、変化に抵抗するような行動をとります。
このルーチンという概念は、今まで「ブラックボックス」であった企業内部の複雑性へのより一層深い理解をもたらしました。

・スティーブン・ハイマーとジョン・ダニング

スティーブン・ハイマーー(Stephen Hymer)は多国籍企業の拡大のパターンに関し、説得力のある主張をしました。彼は、「多国籍企業の競争優位はまず国内市場で育まれ、その後海外市場で活用される」と主張しました。彼の分析は、ジョン・ダニング(John H. Dunning)をはじめとする国際ビジネスに関心を示す研究者によって発展されられます。

・ロビン・マリス

株主と経営者との関係についての理論(エージェンシー理論等)を切り開いたのが、『経営者資本主義の経済理論』の著者であるロビン・マリス(Robin Marris)です。彼は、企業の成長を「企業の規模を拡大させ、支配力を獲得したい」という経営者の利己主義を用いて説明します。しかし、経営者は企業の成長よりも利益を指向する株主と、成長と利益に関して衝突します。そのため、「企業の成長は、経営者と株主との間の政治的協定に似たものの結果である」と主張しました。このマリスの分析は、企業の合併やコングロマリット化といった1970年代の激しい多角化の動きに説明に役立ちました。

いかがだったでしょうか。実は、現在の経営学の体系ができたのは第2次世界大戦後のことだったのです。今に至っては、経営学の影響力は莫大なものになっております。この加速度的な学問の影響力の変化を考えると、時代の変化の激しさを感じますね。

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