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鈍器本…

この記事は、藤ふくろうさんが主催している「海外文学 Advent Calendar 2022」12月17日のエントリー分である。

鈍器本…、読書好きにとっては一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。実際、本エントリーを読む人たちで、一冊も鈍器本を持っていない人はいないと思われる。

2022年12月3日分を担当されたchiibooksさんの積読の悩みのエントリーを読んでいて、積読になる本は鈍器本が多いのは明らかであろう。海外文学作品の本格的な長編は、分厚くて大きな本が多く、どうしても積読山脈の一角を形成しがちである。いわゆる、鈍器本と呼ばれる本たちのことで、我が家にも多数の鈍器本が、積読山脈の土台として山を形成している。その意味で、何かが起こった時(仮に住居侵入の際に)本を武器にして、闘えるレベルの強度を持つ本たちが、今年度も順調に増え続けて、その結果、石筍のようになってしまっているのは、読書をする人としては忸怩たるものがある。いつか読む、といううちに人生は終わってしまうので、何とかしたいのだか、生きている限り本だけ読むというぜいたくな生活はできないので、きっとそのままになるのかもしれないと思うと、なかなか悩ましいものがある。

しかしながらアンテナを張っているとどうしても読みたくなるので買ってしまう。それでも人は本を購入し、できうる限り読もうとするのだ。今回2022年のアドベントカレンダーでは、鈍器本といわれる本に注目し、海外文学の中でも、「鈍器本殺人事件」ができそうな海外文学(できうる限り今年出版されたものについて)、考察を試みてみたい。読了はしていないものが大半であるが個人的な鈍器本ベストも記しておきたい。

鈍器本の定義は、Weblioによると「凶器として使えそうに思えてしまうほど重厚感がある分厚くて重い書籍、を指す意味で用いられる俗な言い方。鈍器のような本。おおむね「非常に読み応えがある」というポジティブな意味を込めて用いられる」とある。つまり、「重厚感」があって、「分厚く」て、「重い」の3条件が整わないといけない。すると、ソフトカバーや文庫、新書から外れることになる。候補に挙がるのは上記の3条件を満たす海外文学書籍である。するとやはり、全集等の「ハードカバー」「函」「分厚さ」が重要になりそうである。もしかすると今後、スパイにとっての防御ガジェットに指定されるかもしれない。

重厚感という意味では、函入りカバー本が鈍器本の条件を満たしている。そのような本をたくさん出している出版社というと…国書刊行会である。国書刊行会の本は、総じて上製函入り本が多く、最近では函入りではないものの2018年に刊行されたピカレスク小説『JR』が記憶に新しい。今年度は鈍器本ナンバー1といっても過言ではない(まだ読んでいない)ドイツ幻想文学小説の集大成『ホフマン小説集成』上巻『ホフマン小説集成』下巻が刊行された。上下巻併せて1300頁を超える、まさに鈍器本2022年ベスト1に輝く圧巻の海外文学である。この2冊を持っていれば、暴漢に襲われた際に撃退できること請け合いである。さすが国書刊行会、GJである。今後も武器としての鈍器本を出版し続けてほしい。それとフランス文学のマッコルランコレクションの2巻目『北の橋の舞踏会・世界を駆けるヴィーナス』も、その重厚さ、値段、本の強度から、鈍器本ナンバー2として推薦しておきたい。さすが創業50周年、このままブレないで独自路線を歩んで行ってほしい。

今年度、ハンディ鈍器本ベストとして挙げたいのは、やはり国書刊行会から刊行されたスパニッシュ不条理短編小説『兎の島』である。内容といい、ハードカバーの装丁といい、(検閲済)するためには、ぴったりの装丁であるといえる。読む人の日常を揺るがす内容が盛りだくさんで、自分が果たして正気なのかを考え込む何かがある本書は、鈍器本の候補である。若干惜しいのは、ページ数が240頁程度なので、ハンディ鈍器本ベストとして挙げさせてもらった。

ではそのほかの出版社はどうだろうか。鈍器本ナンバー3は、直近で出たエレノア・キャトン『ルミナリーズ』(岩波書店)である。ニュージーランド×ヴィクトリア時代推理小説という本書は2013年ブッカー賞受賞作品。2段組みで、内容も重厚。本は函入りではないものの、分厚さは十分な貫禄。まさに鈍器本としてその存在を感じさせるニュージーランド出身の著者の快心の一冊である。いつか読むのが楽しみである(?)。

みすず書房もまた、重厚なハードカバーを今年度刊行しており、ナンバー4に輝いたのはリチャード・パワーズの『黄金虫変奏曲』である。1冊としては、800頁越えで、鈍器本としては特大の重厚さである。ただし岩波よりもサイズが若干小さい普通本の大きさのため、『ルミナリーズ』よりはその点で鈍器本としての強度で、インパクトが薄まると感じたのだ。内容については、ふくろうさんに聞くのがいいので、興味のある読者はふくろうさんに聞いてみるとよい。この内容を書いている書き手も、ふくろうさんの読書会などのやり取りを見て、購入した口である(ところが読んでいない)。あらすじを読むだけでもわくわくするので、じっくり取り掛かれるときに読みたいと考えている。

文庫本はその体裁のため、鈍器にはならない。しかし準鈍器本候補としては、竹書房のSF小説やハヤカワ文庫SFのいくつかの書籍がそれに当てはまる。その中でも特に印象的だったのは、『疫神記』巻で圧巻の1500頁超えのSF超大作である。時間を忘れて読みふけることができるので、背後から…という悲劇はあるかもしれない。『疫神記』は2022年鈍器本といっても過言ではない。

最後に。まとまった時間をとって、コツコツと読む努力をしないと、鈍器本を通読するのはなかなか大変である。どう鈍器本を読み続けるのか、そのモチベーションを高めるためには、どうすればよいのか、ここ数年積読山脈の山を見ながら考えている。フルマラソンを完走するように、今後の人生でどれだけ鈍器本を読めるのか、神のみぞ知る。実際、鈍器本を読了できないまま、未読山脈の累積が増えて、最後にはバベルの塔のごとく崩壊して、デウス・エクス・マキナへと収束するのであろうと思われる近い将来が想像されて怖い。ああ、来年こそはもっと鈍器本を読むぞと誓ったのであった。


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