スタートアップ投資の日韓比較と韓国ユニコーン企業
こんにちは!Dawn Capitalインターンの脇谷です。
今回は現地視察を踏まえた韓国のスタートアップ事情について、
というトピック構成でマクロ・ミクロの両視点から説明していきます。
【読了時間目安:5分】
『韓国のスタートアップ事情について手っ取り早く知りたい!』という方には必見の内容となっていますので、ぜひご覧ください!
はじめに
みなさんは韓国のスタートアップについてどれほどご存じでしょうか?
映画やドラマ、K-POP、ウェブトゥーンといった様々なコンテンツで世界的エンタメ大国となりつつある韓国ですが、実はスタートアップ領域においても著しい成長を見せています。
近年では韓国国内に留まらず日本に進出するスタートアップも増えており、
・クイックコマースのクーパン
・美容医療情報アプリのカンナムオンニ
・音声ライブ配信プラットフォームのSpoon
・電動キックボードのSWING
といったサービスも、実は韓国スタートアップ発のものです。
それでは韓国全体のスタートアップ業界は、日本と比較してどのように成長し、どのようなユニコーンを生み出しているのでしょうか?
日・韓スタートアップの累計資金調達額の比較
上記グラフは2013年から2022年上半期までの、日・韓スタートアップの資金調達累計額の比較です。
2013年から2015年にかけては韓国が優勢、2016年から2020年にかけては日本が優勢、そして2021年からはおおよそ同等と、ここ10年間の両国のスタートアップの累計資金調達額は拮抗しています。
しかし2021年の国内総生産(GDP)で比較すると、日本GDPの約4.9兆USドルに対して韓国GDPは約1.8兆USドルと日本のおおよそ1/3であり、
『GDP比で考えた場合、日本と比較して韓国のスタートアップ投資はかなり盛んである』といえます。
日・韓ユニコーン企業数比較
次に、ユニコーン企業の数で日韓を比較します。
以下はユニコーン企業数の国別ランキングです。
CB InsightsのThe Complete List Of Unicorn Companiesによると、ユニコーン企業の数は日本6社に対して韓国はなんと16社です。
公開市場など日韓それぞれのエコシステムに違いはあるものの、それを差し引いても、韓国の積極的なスタートアップへの投資が『ユニコーン企業の数』という目に見える形で現れてきていることが分かります。
なぜ韓国はスタートアップ投資が盛んなのでしょうか?
韓国のスタートアップ支援の実態は、後編の『現地視察で見えてきた韓国のスタートアップ支援の実態と注目の赤ちゃんユニコーン』で解説いたします。
韓国ユニコーンリスト
上記の表は23年1月時点での韓国のユニコーン企業のリストです。
toCのビジネスを行うスタートアップが15社中12社となっており、また『Kurly』『WEMAKEPRICE』『MUSINSA』『Bucketplace』などのEC関連のスタートアップが多いのが分かります。
経済産業省『令和3年度電子商取引に関する市場調査』の報告によると国別のEC市場シェアでは、韓国は世界第5位(2.5%)です(日本は第4位で3.0%)。
統計調査データプラットフォームのStatistaによると、韓国のEC市場のマーケットサイズは2023 年に 1,266 億USドルに到達、またCAGR4.4%(2023-2027)を示し、2027 年までに 1,504 億USドルに到達すると予想されています。
韓国のEC市場は巨大かつ安定的に成長することが見込まれるため、スタートアップにとって引き続き魅力的なマーケットであるといえるでしょう。
なおコスメティック領域のスタートアップ『GPclub』『L&P Cosmetics』の2社がユニコーン企業となっています。
『L&P Cosmetics』はソウルに拠点を置く韓国屈指のスキンケア製品のメーカーです。当社は世界44カ国でグローバルに展開しており、2021年2月時点でシートマスクの販売枚数は累計23億枚を突破しています。
最近では日本国内のドラッグストアだけでなく、セブンイレブンなどのコンビニエンスストアにおいても購入できるようになりました。読者の方の中にも、同社の製品を使用したことのある人は多いのではないでしょうか?
注目の韓国ユニコーン企業3社
本項目では、上記の中から特に注目のユニコーン企業についてクイックにご紹介します。
TRIGDE
SoftBank Ventures Asiaも出資しているアグリテックプラットフォームのスタートアップ、TRIDGE。
当社は食料品や農作物のグローバルネットワークを軸に、『Tridgeフルフィルメントソリューション』『サプライヤーディレクトリ』『市場情報サービス』の3つのサービスラインナップを提供しています。
『Tridgeフルフィルメントソリューション』は、生産(サプライヤー)・品質管理・ロジスティクスといったサプライチェーンの全てを一気通貫でTRIDGEが管理し、バイヤーである顧客まで届けるソリューションです。
バイヤーはTRIDGEと取引することで、サプライチェーンに存在するあらゆるコストやリスクを回避することができます。これは日本の商社と近しいビジネスモデルといえます。
『サプライヤーディレクトリ』はバイヤーが適切なサプライヤーを見つけることを可能にするサービスです。豊富なサプライヤーのリストと、サプライヤー・バイヤー間のコミュニケーションができる機能を有するため、最適な取引を迅速にスタートすることができます。
現在TRIDGE側が検証済みのサプライヤーは約2,700社、カバーする国数は155カ国、商品数は約1,500品目となっており、巨大なグローバルハブを構築していることが見てとれます。
ちなみに、三井物産もバイヤーとして顧客リストに名を連ねています。
『市場情報サービス』は、食料・農業業界の包括的なデータをグローバル規模で収集・提供し、顧客の適切な意思決定をサポートするデータプラットフォームです。
具体的には農作物の出荷価格や卸売価格、HSコードシステムに基づいた最新の輸出入データ、その他生産量や生産者価格のデータ、季節性・気象データなど、幅広い情報を提供しています。
米国大手小売のWalmartやCostco、世界的な食品メーカーであるDel MonteやNestleをはじめ、オーストラリア農林部やシンガポール食品庁などの政府機関もTRIDGEのデータベースを利用しています。
PitchbookによるとTRIDGEは、2022年8月シリーズDラウンドで韓国の資産運用投資会社であるDS Asset Managementから$37.2Mの調達を行っています。Valuationは$2.7Bとされ、韓国の農業分野のスタートアップで初のユニコーンとなっています。
Kurly
Kurlyは2015年創業の翌朝配達サービスを展開するECスタートアップです。
肉や野菜などの生鮮食品に限らず日用品や家電製品、旅行など幅広い商品を取り扱っています。
現在GMV(Gross Merchandise Volume)を伸ばすための施策として取り扱う商品ラインナップを拡大しており、22年3月の段階で非食料品カテゴリーがのGMVの20%以上を占めているとCEOのキム氏はBloombergのインタビューで回答しています。
さらに11月には化粧品セグメントに注力した「Beauty Kurly」を立ち上げています。
Kurlyは、シンガポールの食品ECプラットフォームであるRedMartを通して、自社ブランドの韓国食品を展開しています。今後は食品だけでなく生活用品等も投入し、商品ラインナップを拡大すると報じられています。
シンガポールを皮切りに、今後飛躍的な成長が見込まれる東南アジア市場への進出を図ります。
Kurlyは22年8月にKOSPI(韓国取引所)への上場の最終審査会に合格し、審査合格から6ヶ月以内に正式にIPOプロセスを完了する予定でしたが、市況の悪化を理由に上場を延期を決定しています。
Pitchbookによると、21年12月にAnchor Equity Partnersから$210Mを調達し、Valuationは$3.3Bとなっています。累計調達額は$761Mで、投資家にはDST GlobalやSequoia Capital Chinaがいます。
MUSINSA
MUSINSAはファッションEC『MUSINSA STORE』や、ファッションメディア『MUSINSA MAGAZINE』、ファッションカルチャー複合スペースである『MUSINSA TERASS』などの事業を手がける韓国のNo.1ファッションプラットフォーマーです。MUSINSAは2001年に靴やファッション愛好家が集まるコミュニティサイトから誕生しました。
MUSINSA JAPANのプレスリリースによると『MUSINSA STORE』の年間取引額は2兆3千億ウォン(約2,400億円)、会員数1,000万人、月間アクティブユーザーは400万人を超え、韓国国内のファッションECで最大規模になっています。
22年7月には『MUSINSA GLOBAL STORE』の日本展開を開始し、9月にはスマホアプリ(iOS/Android)をローンチしました。
23年1月現在、MUSINSAは14カ国に展開しています(韓国、日本、香港、台湾、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)。
日本においては、22年に渋谷ヒカリエをはじめ、ポップアップストアを複数回開催するなど、積極的にリアルでのマーケティングを行なっています。
今後はポップアップストアだけではなく常設店の設置も考えていると、CEOのハン氏はNIKKEI ASIAのインタビューに回答しています。
OCEANSやMEN'S NON-NO、NYLON JAPAN、FASHIONSNAPなどの大手ファッションメディアで特集が組まれていることから、日本での注目度も高まっていることがわかります。
Pitchbookによると、21年3月に同社はIMM InvestmentやSequoia Capital、STIC Venturesなどから$115Mの資金調達を完了しており、Valuationは$2.2Bとされています。
まとめ
本記事では、日・韓スタートアップの年間の累計資金調達額やユニコーン企業数の比較などのマクロな観点と、韓国ユニコーン企業の事業内容などのミクロな観点を解説しました。
GDP比で日本よりもスタートアップ投資が盛んであること、そして早期からアグレッシブに海外に進出するスタートアップが多いことが分かりました。
韓国のスタートアップが積極的な海外展開を行う理由について、現地のスタートアップ関係者は以下のように語ります。
また韓国スタートアップの日本での展開が近年目立つ点について、
と述べています。
今後も韓国のスタートアップの躍進に目が離せません!
Dawn Capitalでは、引き続き韓国発のスタートアップに注目していきます。
後編の記事では、韓国のスタートアップ支援について解説します!
文・リサーチ/脇谷
写真・クリエイティブ/池田