マーケティング施策におけるクリエイティブのコスト/リターンの本質を考える
世の中だいぶ笑えないことになってきてるなと思いながらSNSやらニュースやらを見ています。一周回ってもう笑うしかないかもしれません。笑
また記事で触れることがあるかもしれませんが、自分の中でとても印象に残った動画がこれ。
これを聞いて『世界から猫が消えたなら』という映画を思い出しました。
余命宣告された主人公の元に突然現れた悪魔が「この世界から何か一つを消す代わりに命を一日あげよう」と取引を持ちかけるところから始まる物語。主人公は電話、映画、猫……と消すたびに、思い出も消えていく葛藤の中で、生きてきたことの意味を見出していきます。
大量生産、大量消費。資本主義によって便利になって効率だけ追いかけることが虚しくも感じる今。世の中にある”モノ”やそれを"消費すること"の意味も変わっていくターニングポイントにあるように思います。
『世界から猫が消えたなら』のような世界線があるのなら、個人的には映画や音楽といったコンテンツになくなって欲しくありません。クリエイティブがきっかけで日常に引き入れたいと思う商品を知ることができるし、人との出会いにつながることも多いです。そんなクリエイティブとプロダクトとの繋がりについて考えてみました。
クリエイティブは現実を再現している
以前、プロの映像クリエイターさん達のお話を聞かせていただく機会があり、そこで出てきたのが「最終的には実写の知識に戻ってくるよね」という話題。CGにしろ照明にしろ、突き詰めると物理法則の予測や、人間の動きは実際どうなっているのか、など現実世界をちゃんと観察できているかが問われるとのこと。手段は違っても実は根本が繋がっているんだなと学びになりました。
また、「コンテンツ」とは何か?クリエイターは何を表現しているのか?といったことに疑問を投げかけて紐解こうという『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』もとても面白いので紹介します。
書籍の中でコンテンツというものを説明するものとしてアリストテレスの『詩学』が引用されています。
アリストテレスの定義によればコンテンツを構成するのは3つの要素。
① メディア
② (再現する) 対象
③ (再現する) 方法
アリストテレスは古代ギリシャの哲学者で2000年以上前の人ですが、叙事詩から音楽まで、当時の時代におけるコンテンツは全て「再現」であると結論づけていて、これは現代にも当てはまる非常に正確なコンテンツの定義なのではないか、とのことです。
「再現」というのは作り手が見ている現実世界を再現、シミュレーションすること。頭の中のイメージ(「対象」)を「メディア」を通じて何かしらの「方法」で再現したものがコンテンツ。この3つの要素での定義は、例えば、TikTokでハマるコンテンツとTVでハマるコンテンツが全く違うように、現代に置き換えても説明がつきます。
映像クリエイターさんの話でも、ジブリのコンテンツの話でも、共通して現実を再現しているところに共通点があるようにも思えます。とはいえ、現実に近づけることだけが全てではなく、例えば人が好む映像の色は必ずしも現実と一致しないためそれに合わせて色を調整することもあれば、現実とは異なる色の見せ方でアニメーションが作られることもあります。現実をいかに再現するかは考えつつも、その中心にある伝えたいメッセージやテーマをいかに表現するかというところが問われるのだと思います。
クリエイティブへの投資対効果の見積り
そんなクリエイティブの力を借りたい場面には色々なケースがありますが、予算が限られている中で、クリエイティブの投資対効果はどのように見積もると価値の最大化が図れるのでしょうか?
自分自身、映像やデザインを頼まれて作ることも逆に発注する経験もあって、作る側、頼む側、の両方の気持ちが若干わかるのですが、リソースに制約がある中で誰に頼むのがベストなのかの判断次第で良くも悪くも影響するように思います。
どれだけのコストがかかるのか、どれだけの予算があるのか、はコミュニケーションをちゃんととって確認すれば良いだけの話かもしれませんが、そもそもクリエイティブによって得られるリターンはどんな文脈で大きくなるかの認識がズレてることもありそうです。
メディアの観点から捉えるクリエイティブの役割
クリエイティブの投資対効果を左右する要素はいくつもあってケースバイケースだとは思うのですが、個人的には「火をつける」べきところでクリエイティブは威力を発揮するのではないかと思っています。
一過性で終わってしまっては意味がない
一つのクリエイティブに多大なコストをかけたとしても、いっとき話題になるだけで後に続かないのであれば、低コストで作れるクリエイティブを継続的に運用していくほうが効果的なこともあります。
例えば、動画素材ツールを提供したInstagram運用支援でCV率が1230%拡大したというマキヤマブラザーズ株式会社さんの事例。
適切なコストで大きなリターンが生み出されています。
コストをかけクリエイティブの品質を重視するとき、投資対効果を高めるためにも顧客接点の全てで適切なコミュニケーションをとっていくとなるとそれなりの予算が必要になってきます。
もし潤沢な予算がないのであれば、情報が連鎖する流れの最初の起点となるところに、メディアとの相性を考え、適切なクオリティのクリエイティブを使う、というようにボトルネックに絞って適用するのは効果的かもしれません。
メディアの枠を超えて伝播しやすい
Twitterで話題だったものがInstagramやYouTubeでも拡散されたり、ネット上でメディアの垣根を越えて自走しやすいのがクリエイティブの特徴の一つだと思います。メディアの枠にお金をかけて買ってリーチ数を伸ばすことをせずとも、クリエイティビティによって情報は流通させられるともいえます。
指名検索されない状況で話題の連鎖のきっかけとなる
まだ名前も広まっていない新しいプロダクトを認知してもらおうとする時、プロダクト自体の名前は知られていないため当然、検索エンジンで指名検索されることはありません。ペイドメディアで火をつけるか、ターゲットが集まる場所に伝播しやすい形でクリエイティブをおくか、などで探索行動に引っかかる必要があります。むしろそういった状況下でこそ、適切なクリエイティブを出していくことは求められそうです。
↑これはお客さんの描いたイラストがきっかけで爆発的に予約が増えたJANAI COFFEEさんの事例。
以上から「一過性の波で終わらない使い方」「メディアの枠を買う予算を代替する」…という考え方があるとすると、新規プロダクトのマーケティング施策を考える際の ”話題の火をつける” 役割としてクリエイティブは効果的な運用の一つになりそうです。
ブラックボックス化すると不幸が生まれる。クリエイティブのコストを左右する要素。
先日、WEBディレクターの大先輩の方からキャリアの変遷のお話を聞く機会がありました。その方が自身を信じてコンテンツを作り続けていた20代の頃、何を考えて作っていたのかを聞いたところ、「人の心を動かすものを作りたい」という純粋な気持ちでがむしゃらにやっていたとのことでした。他にも同じようなモチベーションを抱いている方は多そうです。
プロの方ほど、より高いクオリティのアウトプットを出すべく、常に専門性を高めるべく学習し、機材をグレードアップさせて、チームを編成し……日々技術を磨かれているなと。
「人の心を動かすものをつくりたい」という純粋な気持ちで邁進していくからこそ、その分野に明るくない人との知識の差はどんどんと開いていき、まったく想像もつかないような未知の領域に達しているように外からは見えてしまうのかもしれません。
個人的な経験としては、自主制作でMV制作に取り掛かったことがあります。ロケハン、レコーディング、脚本制作、キャスティング、絵コンテ作成、などほぼ全て自分でやることになり、MVを作る工程にいかにたくさんの人や技術が投入され作られているかを思い知らされました。(結局時間もお金もギリギリまで投入したものの結局、撮影・編集までいけず苦い思い出です)
プロの映像クリエイターさん曰く、機材、ロケ地、どれだけの人手が必要か、編集ソフトの選定、編集の工数……など全ての要素で費用感が変わってくるとのこと。制作会社さんに頼むとお金はかかるもののそれだけ多大な労力が投入されるからこそ高いレベルのアウトプットにつながっていくことを感じました。
制作側とマーケティング側が歩み寄ることでクリエイティブの可能性が開ける
やはり経験したことのないことに関しては、制作に何が必要なのかを事前に発注側が掴むことはなかなか難しいとも思います。その結果として、採算の合わないような仕事の提案が発生するのかなと思います。
単純にコストと予算が見合わなければ「それだとできません」で終わればいい話かもしれません。が、単純にお金のやりとり以外にも、何かお互いが手を取り合えるようなポイントを見いだしたいとも思います。
例えば、かかるコストだけで対価を決めなくとも、クリエイティブが「話題に火をつける力」を持つのであれば、その先にあるベネフィットからWin-Winな状況を考えることで道が開けるかもしれない。
「社会に新しい価値を生み出す」というところでうまく足並みを揃えることができれば、1+1が2ではなく3にも10にもなるかもしれない。
冒頭の "エッセンシャルな消費" に話が戻りますが、いま、人々にとって”エッセンシャルなもの" こそクリエイティブの力によって自然と広まっていくものではないでしょうか。
逆に、自然と広まっていく”エッセンシャルなもの”を浮かび上がらせる力をクリエイティブが持っていると言えるのかもしれないし、むしろ、そんなポテンシャルを秘めているクリエイティブこそエッセンシャルなものなのかもしれません。
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