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ディズニー映画『ラーヤと龍の王国』レビュー

今年の3月5日に劇場公開とディズニープラスでの配信が開始された本作。ただ劇場も限られていたので、見逃している人も多いだろう。私自身もようやくこのタイミングで見ることができたのだが、ディズニーアニメーション映画の新境地を開拓した素晴らしい作品だったので紹介したい。


【ストーリー】

かつてクマンドラで龍と人間が共に暮らし、人々は争うこともなく心を一つに平和に過ごしていた。ある時、ドルーンと呼ばれる恐ろしい怪物が出現し、恐怖をエサに増幅しながら人間たちを次々と石に変えていく。残された龍たちは自らを犠牲にして、ドルーンを封じ込め世界を救った。しかし残された人間たちは、龍が残した魔法の石のために争い5つの国に分断されてしまう。500年が経ち、魔法の石を守るハート国の首長であるべンジャは、分断された国々をまとめてクマンドラを復興させたいという願いを娘のラーヤに語って聞かせる。その一歩としてハート国が他の4国の首長らを招いた晩餐会の最中、事件は起こる。

6年後、父や国の人々をドルーンによって石にされたラーヤは一人ぼっちで荒野を渡っている。事件をきっかけに封印されていたドルーンたちが解放され、恐れをなした4国の首長たちは破壊された龍の魔法の石のかけらを持ち去ってしまったのだ。人を信じることもできなくなってしまったラーヤは、石にされた父を救うために、伝説の存在である最後の龍シスーを探し求めていた。


【レビュー】

ディズニーアニメーション史に残る、最高のアクション・アドベンチャー大作。世界が破壊され取り残された主人公の孤独や、生き残った人間たちの醜さといった部分がドラマティック。そして躍動感溢れるアクション描写に手に汗握る。そしてそれらを経て胸に迫るメッセージに感動させられた。

まずアニメーションの進化がすごい。ピクサー映画のため息が出るような映像美に対して、ディズニー作品は表情や動きなどの人物描写に優れているように思う。アニメだとリアルな人間の演技に比べて表情が乏しい分、台詞で補わなければ意図が伝わらないイメージだったが、本作においてはラーヤの苦悩や闘争心など台詞はなくても表情だけで十分伝わるようになっている。もう一人、人間のメインキャラクターである敵国ファングの首長の娘ナマーリについても、ラーヤと敵対しながらも龍に対する憧れや尊敬を持ち合わせている複雑な内面の葛藤を、これも表情や仕草で見事に表現している。

アクションも、もはやアニメ映画ではなくアクション映画と呼ぶにふさわしい出来栄え。どうしてもアニメだと、現実的に人間にはできない動きなども含まれてしまうものだが、本作におけるラーヤとナマーリが剣を交える場面は、リアルな緊迫感に溢れる名場面だ。キャラクターが超人的な動きを見せるというより、カメラワークで躍動感を増すというまさに実写のような作り方。他にもラーヤの仲間のキャラクターが潜入するシークエンスなど、こちらはかなりデフォルメされているがスパイ映画を真似していて面白い。街中でのチェイスシーンなどもスピード感があって、とにかく本作においてはアクションシーンが大きな見所の一つになっている

家族を失い、荒れ果てた世界に取り残されたラーヤ。ディズニーヒロインの中でも類を見ない過酷な状況に置かれているのが本作の主人公ラーヤだ。しかも自国が守っていた龍の魔法の石を奪われたことで、彼女の中で人間に対する不信感が募るばかり。「まずは自分が相手を信じてみなきゃ」と言われても、幼い頃に敵国の首長の娘ナマーリを信じてしまったことが事件の発端であった。そんな彼女が冒険を経て、怪物に家族を奪われたという同じ悲しみを背負う者たちと仲間になり、再び人を信じることができるかというのが本作の核となっている。人は信じてもらうことで強くなれるという真理。でも信じるための保証なんて何もなくて、それでもただ信じるという、祈りにも似た行為によって成り立っている。様々な駆け引きや、損得がある現代社会において、信じるという無償の行為の難しさをあえてストレートに投げかけてくる本作の精神に心動かされた。ぜひこの時代だからこそ多くの人に観てほしいし、時代に合わせたテーマ性を持たせるディズニーのクリエイティブの素晴らしさを讃えたい。

本作はサントラも素晴らしく、音楽は巨匠ジェームズ・ニュートン・ハワードが担当している。以外にも『トレジャー・プラネット』をはじめディズニー作品を手がけるのは4回目。代表作をあげたらきりがないのだが、今年の公開作ではトム・ハンクス主演『この茫漠たる荒野で』とディズニーの『ジャングルクルーズ』、どちらも素晴らしい音楽だった。例えば「ロッキーのテーマ」「スター・ウォーズのテーマ」のように耳に残る強烈な音楽というわけではないが、ちゃんと作品の世界観に寄り添って場面やその時の感情を盛り上げてくれるのがジェームズ・ニュートン・ハワードの仕事ぶり。本作においては分断された5国それぞれの世界観を表現した音楽など、職人技を聴かせてくれるのでぜひ注目していただきたい。


【おすすめしたい人】

ディズニー映画ファン

爽やかな映画が観たい

感動したい

ワクワクドキドキのアドベンチャーが観たい

かっこいいヒロイン映画が観たい



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