見出し画像

注目映画『あの夜、マイアミで』を観てほしい理由

Amazon Primeで配信中『あの夜、マイアミで』(原題One Night in Miami)は、ブラックカルチャーのレジェンド4名がマイアミのホテルに集い語り合った、奇跡のような一夜を描いた戯曲の映画化作品だ。実際に1964年2月、カシアス・クレイ(のちのモハメド・アリ)の世界王者獲得を祝うために4名が集まったという史実に着想を得て、会話の内容はすべて創作されている。本年度アカデミー賞では助演男優賞、脚色賞にノミネートを果たしており、その他にも数々の映画賞で高く評価された注目作だ。

公民権運動の真っ只中の出来事であり、必然的に彼らの会話の中では黒人の人権運動について白熱した議論が展開される。ではなぜそのような映画を、我々日本人が観るべきだと私が思ったか。それは、黒人の人権問題について新たな視点を与えてくれるからである。日本から見ていると、昨年もニュースで話題になっていたBLM(Black Lives Matter)運動などにおいて、黒人VS白人というように単純な対立関係をイメージしがちである。もちろん、実際にはそうではない。本作ではレジェンド4名それぞれの立場から、黒人同士でも問題への対処法や考え方が異なることを浮き彫りにしてみせる。

「差別」や「偏見」は、誰の心にも存在する可能性がある。黒人の人権についての問題は海の向こうの他人事ではなくて、日本人の私たちにとっても学ぶべきことがたくさんあるのだ。実際、東京オリンピックで要職に就く人物の女性蔑視的発言が世間を賑わせ、日本にも根深い差別と偏見があることを世界に露呈してしまったなかりだ。ぜひ本作品を観て、主人公4名それぞれの思考を疑似体験しながら考えてみてほしい。

画像6


以下、鑑賞の前に知っておくとより理解できる要素を紹介する。


画像1

マルコムX:公民権運動当時の黒人活動家として、世界史の授業でキング牧師とともに名前を聞いたことがあるだろう。意外と知られていないのが、彼がイスラム教徒であるということで、映画でも登場する「ネーション・オブ・イスラム」はマルコムXが所属しているアメリカのアフリカ系アメリカ人のイスラム教組織。彼自身は白人を悪魔と呼んだことで過激派と恐れられたが、組織自体も黒人至上主義を掲げるなど、独自の教義を持つことで伝統的イスラム教とは分離していた。映画で描かれるマルコムXは、「ネーション・オブ・イスラム」と思想のすれ違いを感じ始め葛藤している。1965年2月21日、暗殺される。


画像2

ジム・ブラウン:アメリカン・フットボールの名選手。映画の中でも描かれるように、プロ選手を引退後はハリウッド・スターとしても活躍。現在に到るまで、アフリカ系アメリカ人が経営する企業をサポートするなどの活動を続けている。2016年9月にアメフト選手コリン・キャパニックがアメリカ国歌斉唱中に両腕を組んでひざまづき、不平等と警察の暴力に対して抗議を示した際には「彼の抗議は支持するが自分だったら国旗や国歌を軽視するようなことはしない」と発言。感情論ではなく、アフリカ系アメリカ人の経済的自立の達成こそが真の自由につながるのだと説く。


画像3

モハメド・アリ(カシアス・クレイ):ボクシング世界ヘビー級チャンピオン、大胆不敵な言動と「蝶のように舞い、蜂のように刺す」戦闘スタイルで、カリスマとして君臨。本作の中ではカシアス・クレイの名前で登場するので「誰?」と思うかもしれない。誰もが知っているモハメド・アリは改名後の名前で、「カシアス・クレイは奴隷の名前だ。私はもう奴隷ではない」と宣言して名前を変えた。モハメド(ムハンマド)の名は、マルコムXの影響で「ネーション・オブ・イスラム」に加入しイスラム教に改宗したことで付いている。その後、ベトナム戦争への徴兵を受けた際には良心的兵役拒否を宣言。アメリカという国の市民権をまともに与えられていない黒人が、なぜ国のために命をかけて関係のない他国の人々を殺さなければいけないのかという疑問を明らかにした。ジム・ブラウンら、他の黒人アスリートも彼を支持。


画像4

サム・クック:モダン・ソウル・ミュージックの先駆者。甘美な歌声が多くの人を魅了し、エンターテイナーとして白人からも人気を得ていた。しかしレコード会社や権力者からは社会問題について口を開くなと抑制を受け、自身のアイデンティティに葛藤。結果として黒人アーティストのサポートに力を注いだり、黒人社会の希望の象徴として重要な役割を果たす。人種の壁を超えて影響力を発揮した偉大な人物。1964年12月11日、ロサンゼルスのモーテルで射殺されるが多くの謎を残している。モハメド・アリは「殺されたのがエルビスやビートルズだったら、もっと真剣に捜査されているはずだ。また黒人が死んだとしか思われていない」と怒りを露わにした。


画像5

ボブ・ディラン「風に吹かれて」:映画の中で登場する、ボブ・ディランの1963年リリースの名曲。ローリング・ストーン誌が選ぶ"偉大な楽曲500"の14位に選ばれる。

"How many roads must a man walk down / Before you call him a man

人として認められるには、どれだけの道のりを歩めばよいのだろう"

白人であるボブ・ディランが、まるで差別を受ける黒人の心情を代弁したかのような歌詞内容。彼自身の平和や自由への祈りが込められた楽曲と言える。


画像7

サム・クック「A change is gonna come」:劇中で登場する、サム・クックによる1964年リリースの名曲。自身の黒人としてのアイデンティティを表明し、人々に勇気と希望を与えた。

"ここまで長い、長い道のりだった。でも必ず、変化は訪れる"

映画鑑賞前にぜひ歌詞の内容を確認しておくと、より劇中でのこの曲の意味合いが理解できる。




【参考】

・Netflix『リマスター:サム・クック』

・"ジム・ブラウンは語る。ドナルド・トランプは目覚まし時計のようなもの「ESQUIRE US」" https://www.esquire.com/jp/news/a220917/news-esq17-0112jimbrown/

・wikipedia

【画像引用】

https://www.imdb.com/title/tt10612922/mediaindex?ref_=tt_mv_close

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?