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『寄り道したい本屋たち』第三回 荻窪 Title

 こんにちは。食欲の秋ですね。最近寝る前に大食い動画を見て食欲を抑えようとしているじょーです。

 今年ももう残すところ3カ月を切りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。年末にかけて忙しくなったり、なかなかのんびりと過ごす時間を確保するのは難しいですよね。

 今回は、そんな忙しい毎日を送る皆様にぜひ寄り道してほしい、カフェ、ギャラリーも併設のゆったりした時間を過ごすことのできる荻窪「Title」さんにお話を伺ってきました。


東京(荻窪)
Title

 商業施設が立ち並ぶJR中央線荻窪駅から10分と少し、青梅街道を西荻窪方面に歩いていくと、築80年程だという古民家風の2階建ての建物が現れる。
鮮やかな青色の看板に導かれて入った先には、所狭しと様々な本が並ぶ。

 2016年1月10日に開店したTitle。店主の辻山良雄さんはもともと全国展開の書店チェーン・リブロで働いていたが、勤めていた店舗の閉店に伴い独立してお店を持つことを決意。

 「いつかは独立しよう、といった気持ちが昔からあったわけではなくて、いろんな状況を見ていく中で自然と心がそっちの方に動いていきました。
 2015年に勤めていた書店の店舗が閉店しまして、もちろん会社に残ることも出来ましたが、持続的に”本のある場所”みたいなものを作っていくのであれば、自分でやってもいいかな、と。個人的な話で言うと、母親が店舗開店の2年前くらいに亡くなりまして、看病する中で、生き方を見つめなおしたと言いますか……会社員として、毎日忙しく働いてる時間とは違う、自分らしく生きるという生き方、そのためにはどうするのがいいかなと考えて、自分の店をやろうと思ったんです。」

「本の近くにいると 自分らしい姿でいられる」

 学生時代に「こぐま社」の倉庫でアルバイトとして働いていたという辻山さん。本に囲まれながら、気が付いたことがあったそう。

 「レストランとか家庭教師とか、いろんなアルバイトをやりましたけど、やっぱりどこか無理をしているような感覚がありました。思えば大学生の頃は暇があれば新刊・古本問わず書店にいて、そういう中にいるのが落ち着いたんです。本の倉庫のなかで働くようになって、こういう状態で仕事をするのが自分にとっては自然なんだなと気が付きました。働いている時間っていうのは、やっぱり人の人生の中でかなりを占めてると思うんですよね。そこで無理をして似合わない服を着て頑張るよりは、自分らしい姿でいたいなと。それが、本の近くだったんです」

自分の時間を過ごせる豊かな場所へ

 店内1階の書棚を抜けた奥のスペースではコーヒーやお酒、軽食もいただけるカフェが併設され、階段を上がった2階にはギャラリーがあり、時期によってさまざまな展示が行われている。

 「カフェは妻がやっています。本を買うだけじゃなく、ギャラリーで様々な展示を見たり、カフェで落ち着いた時間を味わったり、いろんな時間が過ごせるような場所の方が豊かだなと思っています」

 豊かな時間を過ごせるようにという想いは、もちろん書棚に並ぶ本たちにも投影されている。

 「好きな本って、皆さん違いますよね。小説が好きな人もいるし、絵本や料理の本が好きな人もいる。でもそういうジャンルを問わず、根本的に”その人がなりたい自分を目指して本をひらく”っていうことは代わりのないことだと思うんです。本って、読んで、咀嚼して、自分みたいなものが少しずつ出来上がっていって……時間がかかると思うんですよね。その人根本の性格とか、例えば人と接したときの許容できる範囲とか、少しずつ積み重なっていくものだと思うんです。なのでなるべくそういうことに寄り添った、その人の根本を養うような歯ごたえのあるしっかりした本を選ぼうという気持ちはありますね」
 「あとは、住宅地の中なので、突然自分たちと関係ないとんがった店があっても、やっぱりそれは周りの人達の役に立ってないと思うんです。一回中に入ってもらえたら、新たな出会いがあったり、何かしら思ったりすることもあるわけですよね。だからこそ間口を広げて、近所の方にも定期的に寄っていただけたら、と」

今の「Title」のかたちを目指すきっかけとなった書店があるという。

「福岡に『ブックスキューブリック』っていうお店がありまして、所謂個人書店なんですが、小さい空間の中にお店のこだわりの本と一緒に『小学一年生』とか『コロコロコミック』とか地域に愛されるような本もしっかり置いていて。店構えもお洒落なのに地域に馴染んでいて、そのバランスの良さだったり開かれた感じは、この店を開く前に頭にあったところです。かっこいい今風な本も、料理本や生活習慣といった実用的な本も、小説も、古典も、それぞれ求めている人がいて、そこには違いだけがあって優劣はない。色々な本を置いているリブロで働いていたこともあり、どんな本でもなるべく平等に見たいという想いはずっとありますね」

答え合わせじゃない 人生の面白さ

  毎日8時におすすめの書籍を紹介する「毎日のほん」など、Titleでは開店当初からWEBサイトやSNSを通じて本の情報を発信し続けている。新型コロナウイルス感染症流行の影響で20年4月頃には一度店舗を閉めざるを得なかったというが、代わりにWEBサイトからの注文が増えていたという。

 「世の中が一斉に落ち着いて内省する時間も増えて、”本を読もう”とか、”買うんだったらいつか行きたいと思っていたところで買おう”とか、そんな風に思ってくれたんじゃないかと思います。人が考えたり感じていることや思いは、普段忙しい中で生きているとなかなか見えないものですが、非常時のときにはそういうものも見えたように思います」

 少しずつ日常を取り戻しつつある今、実店舗としての「Title」の目指したい姿について、辻山さんはこう語る。

 「無理に何かを考えたり、そういう気持ちでなくてもいいので、本棚を見て、読むつもりじゃなかった本を買って帰るみたいなことがあると嬉しいなと思います。最近は、はじめにSNSから情報がきて”ここにきたら〇〇ができる”という情報を入手して、その場所に行って”やっぱりできた”みたいな、答え合わせみたいな世の中になっているように感じます。だから、例えばうちが出した情報でこの本面白そう、あった、買った、だと別にここじゃなくてもいいような気がするんですよね。
 なのでこれは理想というか、そうなれば面白いなというだけなんですが、何か思ってもなかった本と出会い、一緒に買って帰った、そういうことが起こる場所であったらいいなと思います。 」
  答え合わせじゃない人生の面白さってあると思うんです。決まっていると、そこで閉じてしまう。偶然を楽しむようなそういう心の余裕を自分に残しておいた方が、いろんな意味で生きやすくなる、そんな気がするんです。」

 WEBでも、実際の店舗でも、様々な本との出会いの場を提供している「Title」。「本を紹介するのが本屋の仕事」という辻山さんが思う、様々な娯楽が溢れる現代における「本だからこその魅力」について、改めて聞いてみた。

 「それは魅力と映らないのかもしれないですけど、”簡単じゃない”っていうことですかね。本は動画やテレビなどとは違って、その人が何か能動的にならないと返してこないっていうジャンルのメディアだと思うんですが、自分で読もうと思わないと何にも見えてこないし、向こうから来てくれるわけではないんですよね。
ただ、読めば何かが返ってきたり、読み終わった直後は気が付かなくても、それまでと違う自分になっているかもしれない。それがすべての人に当てはまるかどうかはわからないですが、やっぱり本にはその人を変えるような力があると思うんです。だからあまり真面目に捉えすぎず、何かしら読みやすそうな本から始めてみればいいんじゃないですかね」

本屋Title
住所:〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
時間:12:00 – 19:30 (日曜は19:00まで)
   カフェのラストオーダー 18:00
定休日:毎週水曜・第三火曜
HP:https://www.title-books.com/

2016年1月オープン。JR中央線「荻窪」駅から青梅街道を西荻窪方面に歩いて10分と少し、いちょう並木の横に建つ古民家を改装した2階建ての書店。店主の辻山さんはエッセイや書評の執筆、連載、選書など、本に関わる様々な活動を行っている。個人書店開店に向けた事業計画書から開店後の結果まですべてを掲載した『本屋、はじめました  増補版—新刊書店Titleの冒険』 (ちくま文庫)、幻冬舎plusで2016年から連載中の人気エッセイ「本屋の時間」が、大幅な加筆修正を加え単行本化した『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(幻冬舎)など著作多数。

店主・辻山さんの推薦本


『それで君の声はどこにあるんだ?』
榎本 空:著 岩波書店

「黒人解放の神学」を打ち立てたジェイムズ・H・コーンに学ぶため、ニューヨークのマンハッタンにあるユニオン神学校の門をたたいた榎本 空氏の著作。
なぜ日本人の若者がアメリカで黒人の神学を学ばなければならなかったのだろう、と興味を持ちました。
岩波書店の本なんですけど、駒草出版の方が感銘を受けたそうで、自分の出版社のWEBでこの本の紹介をしてくれとのことで書評も書きました。
https://note.com/komaweb20/n/naef6359f1170

それから店頭で買ってくださったりとか、良かったですと感想をくださったり、WEBで注文があったり、反響がありました。
こういう本が静かに生まれていることは、言われないと気付かないですよね。店によってもちろん推す本は違いますし、それはそれぞれの個性だと思いますが、小さいお店だち何となくその店の顔が出がちなので、響きやすいように感じています。


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