吉増剛造「黄金詩篇」
「疾走詩篇」
ぼくの眼は千の黒点に裂けてしまえ
古代の彫刻家よ
ああ
魂の完全浮游の熱望する、この声の根源を保証せよ
ぼくの宇宙は命令形で武装した
この内面から湧きあがる声よ
枕言葉の無限に岩バシル連禱のように
梓弓、オッテ狂気を蒸発せしめる
無類の推力を神ナシに保証せよ
容器は花の群衆の
そのもっとも濡れた中点を愛しもしよう
ああ
眼はもともと数百億の眼に分裂して構成されていたのに
そしてそれぞれの見方があって
半数には闇が繁茂し、半数には女陰が繁茂し、半数には海が繁茂し、半数には死が繁茂し、 すべての門に廃墟の光景が暗示され、すべての眼が一挙に叫びはじめる一瞬を我々は忘却した
なぜ!
そのゆえに詩篇の行間に血が点線をひいてしたたるこの夜
ああ
鏡にうつる素顔に黄金の剣がせまる
性器も裂けよ、頭脳も裂けよ
夜も裂けよ
素顔も裂けよ
黄金の剣も裂けよ
この歌も破裂航海船、海という容器もない
文明も裂けよ
光も裂けよ
文明は地獄の印刷所のように次々に闇の切札を印刷するが、それは太陽の断片であって、 毒蛇の棲む井戸であって、虎の疾走であって、自然のなまぐさい香気によって権勢をふるっていることをぼくは知っている男大蛇が月を巻く、まさに虚空!
光、影像人間の幻想に関する魔術的予言にも、その中心に光に対する深い狂測が発見される
ああ
(私注 省略)
青の破滅
おお 狂気は永遠にひた走る、文明にあとおしされて、笑いながら、泣きながら
青の破滅
本能的臀部ハタダ卑猥
映画館ハ古代ノ静寂ヲ保存スル
いつしか
ぼくの乗る想像の馬は
想像も馬も裂けて別々に走っている
燃えろ! 分裂魔術疾走律
燃えろ! 快楽狂気淵少女、クチビル
燃えろ! 太陽ヲマワス劣悪棍棒!
神、燃えろ、ほら眼のまえに、皮膚ガソリン!
しかし何故か説明のつかない推力が背後にあって
この疾走(遁走?)←著者
街角で日記帖をひらくと
次のような一章
「雨の否定、風の否定、朝の否定、見る否定、書く否定、生きる否定、哲学の否定、自殺の否定、神秘の否定、宇宙の律動の否定、音楽の極点に棲む青い衣装をつけた美しい少女の否定、思考と行動の完璧な一致を熱望する魂の、意志の、生活の、生成の、絶対の、魔術の、・・・・・・
否定の括弧がかき消えて
突然、否定の鏡面へ、渚、打ちかえす波のように振りかえる、ぼくの顔
(省略)
わ〜い!😄