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沈黙のレジ前 その2

結局のところ、彼女にとっていい事とは何だろうか。「貸すも正義、貸さぬも正義」、、、半沢直樹のセリフが頭の中で反芻している。
間もなく「次の方こちらのレジへどうぞぉ〜」と、僕に指名が入る。さすがは天下のセブンイレブン、お客をそうやすやすと待たせない。その待たせないっぷりときたら、さながら試合終了を告げる厳格な審判のようであり、考えさせる隙を与えない高度情報化された社会そのもののようでもあった。
さらに皮肉だった事といえば、僕の買い方である。PayPay、、、。今まで便利だとしか思っていなかったこの支払い方法が、時と場合によって、こんなにも皮肉になるとは思いもよらなかった。
いまだ沈黙の続く少女のレジとは対照的に、それはまさに流れるような処理だった。いや、"流された"と言ってもいいのかもしれない。
僕とセブンイレブンの取引は「PayPay!」という無邪気で甲高い掛け声と共に、迅速かつ正確に呆気なく成立し、僕は出口へと"流されて"いった。
自動扉が開き振り返ると、少女はまだうつむいて沈黙していた。まだ現実を受け入れられないのだろう。頭では理解できても、気持の面で受け止められない事は沢山ある。
僕は少し汗ばんだ湿ったマスクの下で、ひとつ大きく息をはいた。

つづく

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