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イスラエルのスタートアップを活用した、日本企業のオープンイノベーションを支援!――VCの新たな業態を目指す。【後編】

イスラエルで投資事業を行うMagenta Venture Partnersの竹内寛氏(Managing General Partner)へのインタビュー。その後編では、いま注目すべき投資先企業や経営者を見る際のポイントなどをうかがっています。

※経営者jpにインタビュー頂き、2020年11月19日 同社Websiteに掲載頂いた会員限定インタビュー記事を同社許諾を得て以下転載します。

注目企業の1社目は典型的なイスラエルスタートアップWorkiz。

井上 具体的に投資していらっしゃる注目企業を数社ご紹介いただけますか。

竹内 基本的には全部おすすめだと思って投資しているので優劣つけ難いというのが正直なところですが…、イスラエルとMagentaの活動という切り口で特徴的なポートフォリオを2社ご紹介します。

1社目は、Workiz(ワーキーズ)という会社で、フィールドサービスエンジニア向けのコミュニケーション・管理ツールをSaaSで提供しています。

例えば、エアコンが壊れたから修理に行く、あるいは、水が漏れているので配管工が駆け付ける、何かをデリバリーするーーといったフィールドサービスをやっている人たちの管理をするためのツールです。そして、本部とスタッフが連絡を取り合ってスケジューリングするためのツールですね。

この会社はテルアビブに本社があり、そこで開発をしていますが、販売は全部アメリカです。アメリカでフィールドサービスの仕事をしていた人たちが「こういうツールがあるといいよね」と言ってつくった会社なので、プロダクトマーケットフィットという意味では創業期からきっちりあって、そこにイスラエル人のプロのCEOを入れて、イスラエルの一流のVCがシード投資をやっています。

このような、本社はイスラエル、販売はアメリカというスタートアップは、イスラエルでは非常に多いです。我々は、この会社のシリーズAにリードを取って投資をしました。

今年はコロナで打たれて4月に売上が若干落ちたのですが、5月から逆に大きく伸びています。エッセンシャルワーカーというのは、コロナと関係なく必要とされているんですね。


2社目はイスラエルの軍事技術を持つBrightWay Vision社

井上 もう1社はどうでしょうか。

竹内 2社目は、BrightWay Vision(ブライトウェイビジョン)という会社で、自動運転・ADAS向けのビジュアルセンサーーーあらゆる気候条件・光学条件で、鮮明な画像を得られるセンサーを開発しています。

これは我々のファンドに出資している日本の大手自動車部品メーカとの共同投資案件です。同社は、世界シェアトップの自動車部品の次の一手を考えるに際して必要な技術が、イスラエルの軍事技術をコアに持ったスタートアップにあるため、そこに投資をされたわけです。

井上 日本の部品メーカの「次のトリガー」になりそうに思えます。

竹内 そうですね。また、スタートアップというのはとんがった技術はつくれても、例えば、「車に乗せて10年壊れない技術」や量産コストを下げる技術などは別のものです。そこは日本の得意なところですから、そこは日本の大手部品メーカ側が担っています。WIN-WINで、ということですね。

日本の製造業とイスラエルの軍事技術をベースとしたハイテク企業の結びつきという面で、典型的な事例と思います。また、両社間のギャップをつないで行くというMagentaの特徴が端的にあらわれている事例とも思います。


鍵は、「世の中にどう役に立つか」という目線・柔軟性・やり抜く力

井上 竹内さんから起業家や経営者を見たときに、こういう人は成功する、こういう人は失敗するといったことはありますか。

竹内 絶対的な勝ち方はたぶんないと思いますが、ひとつだけハッキリ言えることは、「投資するときに想定した事業計画書通りに進んでいるスタートアップは世の中にほぼない」ということです。変わるんですね。だから、そこにどれだけ折り合いをつけていけるかということに尽きます。そこから全てつながっているような気がします。

仕事というのは、たいていの場合、試行錯誤の果てに「やれること」と「第三者(お客様)から選ばれること」の組み合わせと、交わるゾーンが見つかって、そこに集中していくものです。ベンチャーキャピタルが投資するフェーズは、この組み合わせを求めてもがいている段階の企業ですから、いま手元にあるプロダクトと計画を見ても解ることは限られます。

そこで大事なのは、やりたいこと以上に「世の中にどう役に立つか」という第三者目線です。そして、朝令暮改を厭わない柔軟性とやり抜く力です。これが上記の「組み合わせ」を見つけ、集中すべき領域を特定するためには必要な能力だと思います。

井上 竹内さんは、その能力はどうやって判断されていますか。

竹内 その能力を最も効果的に証明できるのは、実績と周囲の評価です。10年間程度の過去の足跡を見れば、経営者の趣味嗜好や判断の傾向、そして、いま申し上げたようなスキルに関する洞察が得られることが多いと思います。

結果として、投資家は人を見る、ということになりますし、アーリーステージの投資は人の評価に相対的に土地勘を働かせ易い「ローカルズの世界」となります。Magentaも、現地で数十年の投資やハイテクビジネスキャリアを持つイスラエル人プロフェッショナルとの対等合弁形式としていて、この部分の目利きはローカルズ目線を大いに取り入れています。

井上 なるほど、やっぱり最後は人ですね。ところで、イスラエルでのビジネスの難しさみたいなものがあれば、教えていただきたいのですが。

竹内 例えば、シリコンバレーは英語で済みますが、イスラエルはヘブライ語であることです。この言葉は全世界で2~3,000万人くらいしかしゃべる人がおらず、古い歴史はありますが、今世紀になって人工的に復活させた言語です。

スタートアップをやっている人は英語がペラペラなのですが、込み入った話や本音ベースの会話はどうしてもヘブライ語中心になりますし、そこが心理的なものを含めて大きな壁になります。それも我々が現地のプロフェッショナル二人に成功報酬を渡してチームを組んでいる理由です。

井上 信頼あるリレーションと言語的なコミュニケーションが求められるということですね。

竹内 また、イスラエル人はすごく議論好きなところがあります。そして、すごく細かい。要求することは遠慮なくしてくるので、そこは何事にも遠慮がちな日本人的にはとてもやりにくいかもしれません。

他には、リスク感覚が非常に高いですね。例えば、会社をクビになる条件のようなものを契約書に書くときに、「ケガや病気になって120日間連続で休んだら解雇」と決めるとします。イスラエルでは、「119日目に1時間だけ出社した場合、またそこから120日なのか」といった話が次々に出てきて、話し合いが永遠に終わらないんです(笑)。

前述のBrightWay Visionへの投資時には、投資契約書に加えて日本のメーカとスタートアップ間の共同開発契約や技術ライセンス契約の取り纏めもやりましたが交渉難航し、全ての論点を整理して言語化し、関係者を会議室に缶詰めにして、「終わるまで全員帰しません」という勢いで、夜中の3時まで交渉をやったこともあります。

「あらゆるものはネゴ可能である」という認識なので、彼らはどんなルールがあっても必ず質問してきます。これは宗教でも、政治でも、行政でも、ビジネスでも、日常生活でも全部そうです。みんな前提条件ひっくり返して議論していくので、予定調和もないですし、阿吽の呼吸もない。トコトン議論しますので、日本人がイスラエルに来たときにたぶん面食らうことだと思います。ただ、頭を鍛えるには、とてもいいと思います。

井上 ここまで竹内さんの話をお聞きして、なかなかチャレンジしがいがあって面白いと思っていたのですが、いまの話を聞いてしまうと細かな部分は大変そうですね。

竹内 Magentaにお金を預けていただければ、いくらでもお手伝いしますよ(笑)。

井上 そこに、すごくバリューを感じます。地の利も含めて存じ上げていないところもあったので非常に勉強になりましたし、面白い展開が始まっているんだなということが実感できました。今回は、ありがとうございました。

(構成・文/津田秀晴)

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