【シン・エヴァ感想】シン・エヴァはプロフェッショナル 仕事の流儀を観るまでがシン・エヴァです

プロフェッショナル仕事の流儀を見るのを、すっかり忘れていた。「しまった」と思ったのだが、NHKプラスで見逃し配信をしていて、これほど受信料を払っていて良かったと思ったことはない。

エヴァ完成までの4年間、庵野監督に密着取材をしたドキュメンタリーだ。

シン・エヴァの感想は既に書いた。

しかしながら、プロフェッショナル仕事の流儀を見て、感想を付け足さねばならないと思った。

これはエヴァを25年見続けていた観客に向けての豪華すぎるボーナストラックだ。

答え合わせがそこにある。

庵野監督は非常に短気で変わり者というのは有名な話である。

ある作品では、納得がいかない部分のリテイクを頼んだら断られて、泣きながらロッカーをボコボコに蹴った上に、壁も蹴って穴を開けたというエピソードもあったりする。

結婚してからは随分と丸くなったとも聞くが、随所にその変人の片鱗が垣間見られる。

撮影スタッフにカットの助言をしたり、挙げ句の果てには、番組の撮り方に納得がいかないとスタッフを呼び出して、演出に注文をつけたりする。

非常に厄介な人物であるのだが、次第に憎めなくなってくる。中盤を過ぎる頃には可愛いとすら思えてくるのだ。

このドキュメンタリーを観て、本当にエヴァは完結したのだと改めて納得がいった。

やはりシン・エヴァンゲリオンは庵野秀明の物語なのである。

シン・エヴァの圧倒的なクオリティーとチャレンジを目の当たりにしながらも、僕の感じた印象は「古い」だった。

やはりどうしてもufotableに比べると古いという感覚がしてならない。

斬新なのに古いのである。

これは言葉で説明するのは難しい。しかし、ドキュメンタリーの中で庵野監督は、予定調和や形式化を嫌いとにかく新しいもの、面白いものを突き詰めていく。

何日も深夜に及ぶ作業をして作り上げたパートも、スタッフの批判的な感想ひとことで、全てリテイクをする。

それほどまでに新しいもの追い求めて、血反吐を吐く努力の末たどりついても、予定調和を振り切れないという残酷さを思い知った気がする。

もともとエヴァ自体、オマージュやパロディなど形式による面白さを多用してきた。シン・エヴァのヴィレの戦艦ヴンダーが不思議の海のナディアのセルフパロディだったりする。

自分の中だけで作ったものは、自分を超えることができない。だから外に求めるといいながらも、後半では自分の中の物が作品に込められていないと、それは偽物だとも言っている。

矛盾しているようだが、それが真実なのである。

削って削って削り抜いて、最後に残った魂だけを作品に込めるのだ。それ以外は全て良いものを作るためには作り替えて構わない。

番組自体がどんどん庵野監督に侵食されていくのも面白い。

ドキュメンタリーの冒頭、駅の階段を駆け上がるロケハンから始まる。

庵野監督にスタッフに「内緒」と答える。

その駅こそがシン・エヴァンゲリオンをラストシーンなのである。

つまりこのドキュメンタリーは、映画のラストシーンから始まる物語なのだ。

番組の音楽も徐々にエヴァっぽくなっていく。

番組の終盤、最終パートのアフレコが始まったあたりで、旧劇場版の挿入歌「Komm, süsser Tod」が流れる。

僕はよく分かっているなぁと思った。

この曲は全てを放り出して終わらせてしまった旧劇場版において唯一の救いのような曲なのだ。

この曲が終盤のこの場面、まさにそこで流すべき曲だったのだ。

初号上映会で庵野監督のあいさつを観て、もう一度シン・エヴァのエンディングを観た思いだった。

さようなら、全てのエヴァンゲリオンは、最後に付け足されたセリフというのを知って、僕が見終わった最初の感想、まさにそのものだったというのも納得がいった。

映画のポスターのコピーに採用されているが、これがシン・エヴァンゲリオンを全てを表していると、誰もが思っただろう。

最後の最後に付け加えなければいけなかったセリフだったのだ。

しかしながら、10代でエヴァンゲリオンを全部見たという子と話す機会があって感想を聞くと、旧劇のラストの方が良かったと言っていた。

その気持ちもわかる。

25年の歳月と結婚や家族ができるみたいな心境の変化がないと、最初のテレビシリーズのラストの評判と同様に受け入れ難い部分もあるのかも知れない。

エヴァは庵野秀明の物語と同時に僕らの物語でもあるのだ。神話は新しい人たちに受け継がれて、語り継がれていくだろう。さまざまな解釈を持って。

改めて思い返すと、この番組、ネタバレをしていない。

映画を観ているので脳内解釈をしていたのだけど、所々にかかっているモザイクは権利関係というよりネタバレ防止なのだ。

そして、おそらくは映画を観ていなくても楽しめる。

何重もの仕掛けが内包されていて、このドキュメンタリーすらエヴァンゲリオンの神話の中に組み込まれてしまっている。

そして、プロフェッショナル仕事の流儀のお約束、最後に「あなたにとってプロフェッショナルとは?」という質問が投げかけられる。

それに対して庵野監督の答え合わせは予定調和に対するアンチテーゼであった。

番組は2019年12月17日で終わっている。

新型コロナウイルスの第一報が報道される時期である。多分コロナがなければ、鬼滅の刃はここまでヒットしなかったし、ひょっとしたら、シン・エヴァンゲリオンが2020年のベストアニメ映画だったかもしれない。

この1年の物語を知りたい気もするが、これはのちの庵野監督の作品で語られていくべき物語なのかも知れない。









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