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ビッグデータで裏付け!竹内まりや「プラスティック・ラブ」はどのようにして海外で「バズった」のか

外国人が投稿したYouTube動画をきっかけに、竹内まりやのシティポップ名曲「プラスティック・ラブ」は2018年から海外で絶大な人気を集めました。この事実は、音楽ファンの中では広く知られており、解説記事も多く存在していますが、「プラスティック・ラブ」の海外での人気さに関する定量的な分析はあまり存在しません。

今回は、株式会社ゴーリストが提供するビッグデータ活用サービス「datist」のWebクローリング技術を使い、「プラスティック・ラブ」が海外で人気急上昇した経緯を分析してみました。

ターゲット動画と分析方法

YouTubeでは「プラスティック・ラブ」の原曲動画がいくつか存在していますが、今回のデータ分析で扱うのは、「Mariya Takeuchi 竹内 まりや Plastic Love」という動画です。この動画は2017年7月6日にアップロードされ、YouTubeに存在している原曲動画の中でもっとも古い動画です。

「プラスティック・ラブ」の公式音源は元々、ストリーミングサービスやYouTubeに存在しておらず、CDやレコードも海外で入手困難でした。しかし、この動画をきっかけに、「プラスティック・ラブ」と作者の竹内まりや、そして「シティポップ」という音楽ジャンルは海外に広がりました。著作権違反になっているものの、本記事執筆時点の2020年8月28日にこの動画の視聴回数は3761万で、YouTube上の「プラスティック・ラブ」原曲動画の中では一番視聴回数が高い動画になります。

あまりの人気さで、ワーナーミュージックジャパンがようやく2019月5月17日に、公式動画「竹内まりや 「Plastic Love」Short ver.」をYouTubeで公開しましたが、公式動画の再生回数は253万と、2つの動画の再生回数は14倍の差があります。

さて、ここまでは竹内まりやの「プラスティック・ラブ」の海外での人気さについて簡単に説明してきましたが、ここからは、実際にどのようなデータ分析を行ったのかについて説明したいと思います。データ分析の具体的な手法としては、まずはPythonで作ったプログラムを利用し、動画のコメント欄に投稿されているすべてのコメント※をクローリングします。そして、MeCabという形態素解析エンジンを使い、クローリングしたコメントの中から品詞となるキーワードを抽出します。最後に、エクセルでコメントやキーワードのデータを集計し、分析します。

※技術的な問題で、今回は一次コメントと二次コメント(コメントへの返信コメント)のみ集計しており、三次コメント(コメントの返信への返信)は集計しておりません。

日本人の視聴ピークは、世界より2ヶ月ほど遅れていた

まず、この動画は一体どれくらい海外に人気があるかを確認するため、コメント数を言語別で集計しました。クローリングを実施した2020年8月19日時点、動画には28,685件のコメントがあります。その中に、英語コメント20,062件(70%)、その他言語7,727件(27%)、日本語はわずか896件(3%)のコメントがあります。すなわち、この動画のほとんどのコメント(97%)は外国語コメントで、日本人以上に外国人からの人気が高い様子が伺えます。

もちろん、動画を視聴している日本人も外国人も、その事実に気付いています。日本語と英語コメントに出てきたキーワードを集計し、ランキングを作ってみましたが、日本語キーワードの中で、4位は「日本」(112件)、15位は「海外」(64件)、16位は「日本人」(63件)、31位は英語(39件)になります。一方英語キーワードの中では、10位は「Japan」(687件)になります。お互いに、「日本の音楽なのに、海外で大人気」と意識し合っている様子です。

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(Pythonで作成した英語と日本語のワードクラウド。キーワードの出現頻度に応じた大きさで図示しています。)

また、日本語と外国語のコメント数のピークから見ると、この動画は最初に海外でに人気が出て、その後多くの日本人も聴くようになった、という逆輸入の経緯も分かりました。すべての言語のコメント数は、2018年7月の一ヶ月間で1001件でしたが、急上昇して2018年8月に2095件になり、一回目のピークを迎えました。一方日本語のコメント数は、2018年7月15件、8月60件、9月89件と緩やかに増加し、10月の94件でピークになりました。正確な判断をするには日本語のコメント数は少ないのですが、日本人が「プラスティック・ラブ」を視聴するピークは、世界より2ヶ月ほど遅れていると言えるでしょう。

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テキストマイニングで削除と再アップロードの経緯を追跡

コメントデータをよく見てみると、2019年1月~2019年4月の期間は、コメントが全くないということに気付きました。この空白期間が存在している理由は、動画が2018年12月21日に削除され、2019年5月14日に復活したからです。なぜ動画が削除された後にもう一度アップロードされたでしょうか?キーワードの順位変化から、いくつかのヒントがありました。

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(出現頻度が高いキーワードの月次順位)

2019年5月に、英語のコメントの中では突然に「Alan」というキーワードが出てきました。同時に、「Thank」「thanks」「video」などのキーワードの順位も異常に上がりました。「Alan」という人に、「video」がもう一度アップロードされたことを「thank」しているでしょうか?実際、動画の投稿者による固定コメントで、経緯が説明されています。

動画のアイキャッチに使われている、竹内まりやのポートレート写真を撮影した写真家のAlan Levensonが著作権侵害を申し立て、この動画は2018年12月22日に削除されました。ただ、Alanは自分の作品である写真だけ取り下げることを申し込んでいたのに、動画そのものが削除されてしまったことで、Alanはこの動画のファンからバッシングを受けました。そこで投稿者とAlanが相談し、双方合意した結果、Alanが申し立てを撤回し、「プラスティック・ラブ」の動画は2019年5月14日に復活しました。そのため、5月に「Alanに感謝します」のようなコメントが多く書かれたという訳です。

国際結婚ラブストーリーによる再度の注目

2020年7月、コメント数がもう一度ピークになり、それに伴って「story」(6月30件、7月228件)「love」(6月68件、7月172件)のキーワードが急上昇しています。それには、コメント欄に書かれた一人の少年のラブストーリーが影響しているようです。そのコメントは2020年5月31日に投稿され、すべてのコメントの中で、4.4万回という最も多い「いいね」を得ています。一体どのようなラブストーリーでしょうか?

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(「Love」と「story」の月次順位変化)

恐らく外国人である少年は、10歳の時に日本に暮らしていて、とある日本人の少女と出会い、「プラスチック・ラブ」が流れているラーメン屋で一緒にラーメンを食べました。彼らはその後友達になったものの、少年が13歳の時にアメリカに引っ越してしまったことで、二人は離れ離れになりました。その後、二人は様々な困難を乗り越え、やがてアメリカで結婚します。いまは40代の夫婦になったそうですが、海外でラーメン屋に行く時は必ず携帯で「プラスチック・ラブ」を流しながらラーメンを食べているとのことです。「まりやさん、ありがとう。あなたの恋(love)は偽りのもの(plastic)かもしれないが、この曲のおかげて、私の恋は美しい」と、作者は書きました。

今回の私たちの調査で、この美しくも日常的なラブストーリーへのコメント返信が2020年7月に急に増え始め、「story」という単語が一時期だけ集中して発生した事実が明るみになりました。このストーリーの人気さからも分かる通り、日本のカルチャーに対する外国人の関心の高さが伺えると思います。

おわりに 

音楽を一緒に聴く・演奏することを通じて、人々は共鳴し合い、他人と繋がっていることを実感できます。コロナショックでそのような繋がりを体感することが難しい中、音楽動画のコメント欄に感想を残す音楽ファンも増えているかもしれません。そこで、「音楽がもたらした国境を超える感動をデータで説明したい」というアイデアが生まれ、この記事を作成してみました。

音楽ファンが好きな作品を考察する、アーティストがファン層を分析する、レコード会社の海外マーケティングの戦略を立てるなど、音楽ビッグデータの可能性はたくさんあります。ビッグデータの活用に興味がある方は、下記ページを確認してみてください。


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