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短編14.13 狸と狐のわにゃんこ合戦「愚」

 沢庵は部屋に戻り、寝てみるも寝れなかった。

(寝ればまた夢を見れると思ったが…)

 部屋を出る。女将がサササとせわしなくしている。

「お前さん!すっかり元気だね」

「おかげさまでね。女将さんには叶わないさ」

「私はね、いつも元気さ」

「そういえば以前、狸の末裔と話してたな、つまり、女将は狸なのか?」

「ハハハ、以前ってさ、ついさっきの話しじゃないか。面白いこと言うね。そうさね、自分でももう分からないくらいさ」

 女将の顔がどこか寂しげである。狸であるなんて、馬鹿げた話しである。

「ここの宿の末裔はカマ…という名ではないのか?」

「…」

 沢庵の言葉に少し驚いたような表情を見せたが少し笑みを浮かべて女将が言う。

「こんな馬鹿げた話し、真剣に付き合ってくれるのはアンタくらいだよ。ったくカマのやつ何を客に吹き込んでんだか…」

 そう言ってそそくさと「忙しい忙しい」と言ってどこかへ行ってしまった。

(吹き込む?どういうことだ…)

 沢庵が頭を悩ませて部屋に戻ると沢庵が枕元の小判に気づく。

「これは…」

 手に持ち、小判を眺める。しかし、夢に見た小判かまでは判然としない。

 出っ歯の男が部屋の廊下から沢庵を見ている。

「あんたが倒れた時に落としたんじゃないのかい?そう思って枕元に置いといたんでやす」

 沢庵は裾を確認する。夢の記憶で宿の小判と勘違いしたが、それは沢庵が御守りとして持ち歩いていた小判であることを思い出した。

「そうであったか、ありがとう」

 沢庵は頭を出っ歯の男に下げた。

「よしてくださいよ旦那、大袈裟な。あんたは僧みたいな侍だな」

 出っ歯の男が照れくさそうにしている。

「私の名は沢庵。そなたの名前はなんというのだ?」

 沢庵はカマが化けたそっくりな風貌に興味を持っていた。何かしらのヒントがあるのではないかと勘ぐる。

「あっしはカマと言います。女将さんが付けてくれた名前です」

「!」

 カマという名前が出たことに沢庵は驚きの表情を見せた。

「あっしは孤児でね。ある日、女将さんが何故かじ~っとこっちを眺めててさ、あっしはこの女、物好きだなと。あっしに惚れてると勘違いしてしまったよ、あん時は」

「カマ…さん、あんたどうしてカマという名をつけられたんだ?」

「…さあね。罪滅ぼし、と呟いてたよ。さんなんてあっしにつけないでくれよ、どうせならカマと呼んでくれ」

「あ、ああ。なんか、自然とな」

 沢庵は考え込むように座禅を組んだ。

「本当にあんたはお坊さんのような人だな」

 カマは反応のない沢庵を不思議そうに見ながら部屋を出ていった。

(女将はカマの祖先だとして、ならば…罪滅ぼしというのは…カマが犯人ってことなのか…)

 沢庵は青海が死ぬのも、カマが犯人であるということも信じたくはなかった。

 頬から出る涙に沢庵は気づくことなく、座禅を組んだまま沢庵は眠りに落ちた。






〈リンリンリン〉風鈴の音。

 コウスケが風鈴の音に目を覚ます。

「おかえり、カマ兄さん」

 目を擦りながらカマを迎えに玄関に向かう。

「コウスケ、僧はどうなったんだい」

 コウスケが声に驚く。

「あ、愛さん!」

 コウスケが声を上げると、愛の後ろから小狐が顔を出す。コウスケは猫から狸の姿に戻る。

「チャコじゃないか、お前まで来たのか?」

「うん」

 チャコが嬉しそうにしている。

 愛は人間の格好に化けた。美しい姿だ。

「私も!」

 チャコが真似して女の子に化けたが、どこかマヌケである。コウスケも続いて男の子に化けた。

「青海さんなら寝てますよ」

 コウスケが遅れて愛の質問に答える。

「青海?」

「ああ…僧の名前です」

「そう。で、僧はいつ殺されるんだい?」

「いや、それがどうやら犯人ではないようですよ」

「…じゃあ誰が犯人だったんだい?」

「さあ、結局分からないままです」

「だったらその僧が犯人じゃないのかい」

「えーっと…なんか青海さんがみんなに犯人じゃないんだって言って、みんな納得して…えーっと…」

 コウスケがしどろもどろになり、言葉を詰まらせる。

「愛さん、村はいいんですか?」

 カマが愛の後ろから声をかける。

 コウスケはホッとしたような顔をして、チャコを宿に招き入れて部屋まで連れていく。カマは愛にこれまでの経緯を話しているようだ。

「ねぇ、ねぇ、私ね。愛さんにね、なりたいの。無理かな?どう思う?」

 チャコがコウスケに言った。

「チャコはチャコだよ」

「なりたいの!」

「あ、そうか。なれるよきっと…」

 コウスケはチャコの性格を知っている。押し問答は無駄なことも。

「でね、私ね。愛さんにずっとついて回ろうって決めたのね」

 コウスケは頷きながら宿の部屋に入る。チャコが部屋を見渡す。

「ここが何?」

「寝るとこ」

「私達と変わらないね」

「そうだな」

 チャコはウロウロして、隣の部屋に行ってしまった。

「おい、あんま勝手にウロチョロするなよ」

 チャコの入った部屋には女の子が足を抱えて座っていた。

「あら、私ね、チャコって言うのね」

 チャコが女の子に話しかける。

「あ、そういえば…ずっとココにいたのかい?」

 コウスケがチャコに続いて話しかける。女の子は二人を見て首を縦に振る。

「私、見たんだよ」

 女の子の声が震えた声で言った。

「見た?」

「うん。夜中にそこの戸を開けておじさんを連れて行った人…見たんだよ」

「!」

 コウスケは息を飲む。

「おじさん?」

 チャコが不思議そうに聞いた。チャコは事情なんて分からない。

「そうだよ。連れて行ったんだよ、仲良さそうにして、おじさんの肩を抱いて」

「どんな人だったんだい?」

「う~ん、背が大きい細い人。おじさんが“ダリさん、生きてたんですか?”って驚いてたんだよ。だからその人はダリって名前なんじゃないかな」

 コウスケは愛から聞いた名前に驚いた。

(ダリさんは生きていた…でも犯人かも知れない…愛さん、花さん、みんなはそれでも喜ぶだろうか)

「パパ!パパが帰ってきたの?」

 チャコが声を上げて女の子に近づいた。

 それはコウスケが花に“ダリ”という名前を言った時の反応と良く似ていた。コウスケが思っていた事は愚問のようだ。


 結構つづく…ちょと再開は8月!創作大賞先にやる!


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