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短編14.9 狸と狐のわにゃんこ合戦「心」
〈リンリンリン〉風鈴の音。
狸の長、ヌンがコウスケと会話している。そこにカマが帰ってきた。
この村ではみんな狸と狐の姿をしている。
「おお、カマか。ちょうどコウスケと猫と犬やらの話しをしておったとこだ」
ヌンがカマに話しかける。
「カマ兄さん…犬は見てないね、宿の方は大丈夫?」
「そうだな、宿はもうみんな寝た」
カマが座って深いため息をつく。
「疲れてるねカマ兄さん」
「ああ…思いのほか客がくるもんだ」
「そうだね、そういえば…」
コウスケは愛が狐だということを話そうと思ったが、なんとなく話すことをやめた。
ヌンがカマに質問する。
「その猫とやらは化けるのか?」
カマは首を横にふる。
「化けられなさそうですね」
「そうか…」
ヌンは人間と共存するという猫と犬に興味を持っていた。
「じゃあ、俺は戻るよ。コウスケ、朝にはきてくれるか?」
「もちろんだよ、兄さん」
カマが去っていく。
カマの後を追ってコウスケが狸の長の家を出る。
〈リンリンリン〉風鈴の音。
「あいつ何しにきたんだ…」
ヌンはカマが戻ってきた理由に疑問を抱く。
「カマ兄さん、人間を騙すんじゃないの?」
「ハハハ、誰でもってわけじゃないよ。悪いやつがきたらね」
カマはそう言うと今度は狐の長の家に入っていった。
コウスケは見送ると自分の家に帰った。
「お父さん、猫って知ってる?」
コウスケはポン吉に話しかける。
ポン吉は右目に一筋の傷の跡がついている。失明はしてないようだ。
「ネコ?知らないな」
落ち着いた雰囲気。寡黙そうなその感じは貫禄がある。
「お前は将来、この村を守る神となれ」
「またそれ?お父さん」
パタパタとキュウがご飯を持ってくる。
「そうよ。コウスケ。お父さんはこの村を立派に守っているのよ。あなたもね」
キュウがコウスケの肩をポンと叩いてご飯を出す。
果実や木の実をすりつぶしたものがお椀に入っている。
「ミミズは?」
「今日はないのよ。今度、ミミズのハンバーグにしてあげるからね」
「やったーーーー」
コウスケが素直に喜ぶ。
コウスケが朝起きて村の外に出ると犬と猫の話題で持ちきりだった。
「猫のほーが賢いに決まってる」
「犬は強いんだぞ」
「猫は空を飛ぶ」
「犬は水中で呼吸ができる」
「猫は小判持って手裏剣のように投げる」
「犬は鋭い爪で切れないものはない」
様々な憶測が村を賑わしていた。
「…」
コウスケはその話題には触れず、カマの元に駆けつけた。
〈リンリンリン〉風鈴の音。
コウスケが宿に入るとカマが青ざめている。
「ど…うしたのカマ兄さん」
コウスケはカマの視線をたどる。
視線の先に熊のような男が倒れている。おびただしい血が流れている。
「! これは…」
「わからない…俺も分からないんだ」
カマが放心状態で呟く。
愛がトントンと足音を立てて顔を出した。
「! な…何事だいっ!」
愛が熊のような男を見て叫ぶ。
放心状態のカマを見て愛が近づく。
「しっかりおし!店主だろ」
カマの肩をさすって愛が話しかける。
はっと気づくようにカマが気を取り戻す。
「朝起きて、ここに来たら倒れていたんだ。そろそろコウスケが来ると思って…」
コウスケは狸の姿のママだった。猫に化けるのを忘れて宿に入ってきていた。
「コウスケ?誰だいそれは」
愛がカマに聞く。カマがコウスケに目をやり、“ここにいるな”と合図を出した。
「この宿の猫です。昨日もいたでしょ」
「ああ、あの猫か。それより、この男…殺したのかい?」
愛は躊躇なく聞く。
「まさか!俺は何もしていない」
「そうか。じゃあ他の客は?」
「まだ寝てます…と言っても…!あの娘は!」
カマが熊のような男と一緒にいた猫のような女の子を思い出して客室へ駆けた。
〈ピシャッ〉勢いよく開く戸の音。
すやすやと寝ている女の子を見てカマは安堵した。
「生きているようだね…すると、後はあの僧だね」
〈シャッ〉戸が開く音。
綺麗に畳まれた布団。僧の姿はない。
「いない…」
カマが呟く。
「…代金は?」
「昨日のうちにいただいてます」
「そうか」
「とにかく、この村の長に話しをしないとね」
「ええ」
「僧が怪しい…しかし、冷静に考えなさい。皆の事を疑い、皆の事を信じる。できるかい?」
「…はい」
愛のテキパキした感じがどこか懐かしい。カマは自然と返事をしていた。
カマは宿を出て村長の元へと向かった。
途中でキョロキョロとしているコウスケに気づいたが、構わず通りすぎた。
「カマ兄さん!」
コウスケは猫の姿で話しかける。
しかし、カマの耳には届かなかった。しかし、コウスケの後ろに立っている愛にその声が届いた。
「あんた…狐、もしくは狸かい?」
コウスケが愛の声に驚く。気づかれた。しかし、愛も狐であることからコウスケは狸の姿に戻り、冷静に答えた。
「そうです。愛さんも狐ですよね?」
「…狸の姿に、その尖った耳は…あんた!コウスケかい?」
「え?あ、はい…どうして」
「大きくなったね。お父さんとお母さんは元気かい?」
コウスケはやっぱり自分の村が故郷だったんだと嬉しくなった。
「はい!お父さんもお母さんも元気です」
愛はコウスケの頭を撫でる。
「昨日は分からずに撫でていたが…こうしてまた会えるなんて嬉しい限りだ」
コウスケも愛の笑顔を見て心が温まり、何か懐かしい感覚を覚えた。
「コウスケ、村に戻って…ダリが死んだと伝えてくれるかい。私はカマが心配でね。まだ村には戻れない」
コウスケはなぜカマだと分かったのかと疑問に思ったが、自分の発した言葉だと気づく。
「ダリ…?わ、わかりました」
少し寂しそうな顔をした愛は「頼んだよ」と小さくコウスケに言った。
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