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短編14.10 狸と狐のわにゃんこ合戦「僧」

 コウスケが村に行こうとすると、宿から大きな泣き声が聞こえる。

 熊のような男と一緒にいた女の子だと愛とコウスケが気づく。

 宿に入ると熊のような男の前で女の子が泣いている。

 愛が女の子を抱いて外へ出す。

「コウスケ、こっちは任せて村へ行って報告してちょうだい」

「あ、はい」

 コウスケが愛に女の子を任せて村へ駆ける。コウスケは愛の口ぶりに重要なんだと感じた。



 コウスケが村に着く。犬と猫の話題はまだ終わってないようだ。

 コウスケは狐の長の家に入る。

 鼻が通った透き通るような顔。花がコウスケに気づき、優しい笑みを浮かべた。

「コウスケ、元気かい。カマと人間の村に宿を開いたってね。面白いことするね」

「元気だよ。花さんも相変わらず綺麗だね」

「あらあんた、どこでそんな。ありがとう。で、どーしたんだい?」

「その宿で愛という方に会ったんだ」

 花が飛んでコウスケに近づいた。あまりの早さにコウスケが驚く。

「愛が帰ってきたんだね!で、愛はどうしたんだ?」

 コウスケは花の勢いに驚く。

「ちょ…っと色々あって…言伝てを預かったんだ」

 コウスケは息を飲んだ。ダリという知らないない名前とはいえ、死んだというのは口から出すのは気が引けた。

「ダリっていう人が…」

「ダリだって!アイツも帰ってきたのかい!!!」

 花は目が輝き、希望に満ちた顔になった。

「死んだって…」

 コウスケは下を向いて沈むような小さな声で言った。それは花にとってショックを受ける事実だと表情を見て悟ったからだ。

 花がその場にペタンと座る。声を発することなく呆けている。

「そんな…はずは…ダリは死ねない…」

 現実を受け入れられない。そんな様子だとコウスケは感じた。

 コウスケは“死ねない”という言葉に何か花と約束のようなものを交わしていたのだろうかと考えた。

「僕もわからないよ、伝えて欲しいって言われただけだから」

「愛がそう言ったんだよね。なら… コウスケ…すまないね、取り乱して。ヌンにその事を伝えてここに来てもらうように伝えてくれないか」

 花が優しい顔に戻る。

 コウスケは言われた通りヌンに伝えて村を出る。ヌンの曇った顔が目に焼き付いていた。

「あ、お父さんに伝えてないな…まあ、いいか」



 コウスケが宿に戻ると村長と村の人がワラワラと宿を囲んでいた。

 コウスケは物陰に隠れてパッと頭に浮かんだ男に化けた。そして、その輪に入る。

「僧が怪しいが、熊のような男が争った形跡はなさそうだ…僧はあまり関与していないのかもしれないな」

 村長がカマにそう言うとカマは首を横にふる。

「あの男は小判を盗みました。恐らく…」

 カマは狸か狐が化けていたと言いたかったが、それは自分にも跳ね返る言葉だと思い「僧が殺したのかもしれません」とだけ言った。

「小判を!?…すまなかったな、そんなことになると思って渡したわけではなかったんだが…」

「ええ。私はお守りのような物だと思って受け取りましたよ」

「ふむぅ、お前は賢いな。この件は私が引き取ろう。迷惑をかけたな、すまない」

 村長が眉を八の字にしてカマに謝る。カマは迷惑をかけたのは自分の方だと言いたかったが、結果的に村長にとっては残念な事が起きたことには違いないと思い、言うことができなかった。

(違う!カマ兄さん、あれは僕が…)

 コウスケは僧にイタズラしたことで、カマは僧に偽の小判が渡されたと勘違いしているのだと思った。

 コウスケは宿に入って小判を隠した場所に向かう。幸い皆は話しに夢中でコウスケはすんなり宿に入ることができた。

 四つの部屋の誰も泊まらなかった部屋にある枕の中に小判を隠していた。

 枕の中に手を入れて小判を探す。

「あった!これだ」

 コウスケは小判を持って誤解を解こうとカマの元へと戻ろうとした。

「あんた!そこで何してるんだいっ!」

 着物を着た女がコウスケに向かって叫ぶ。

 村長の元へと案内した女が部屋の前に立っていた。

 コウスケはマズいと思い、着物を着た女の脇を無理やり通り、外へ出る。

 慌てたコウスケは戸に手をかけた際に小判を落とす。

「待ちな!その人!手に小判を持ってるよ!」

 宿の中から着物を着た女が叫ぶ。

 宿の外で皆がコウスケを睨んだ。落ちた小判に不審な男。

 コウスケはカマに助けを求めたかったが、カマの形相に驚き、その場から走って逃げる。

(怖い、カマ兄さんが1番怒ってるじゃないか!)

「アイツだ!アイツが泊まりにきた僧だ!」

 カマが叫ぶ。

 コウスケがハッとなる。まさか…ふと思い描いた男はコウスケが見惚れた僧だった。

(そんな…)

 コウスケは泣きそうになりながら振り返る事なく駆け抜けて、小さな家の小道に入ってすぐさま姿を猫に変えて、近くの家の前に座り込む。

〈ダダダダダダダ〉複数の走る足音。

 間もなく複数の男がコウスケの入った小道に押し寄せる。

「確かにこっちを通ったぞ!」

 その中にはカマもいる。

 カマがコウスケの化けた猫に目を付ける。ゆっくりと両手を構えてコウスケに近づく。

(そうか…カマ兄さんは僧が狐か狸だと思っている。なら他の男達と違い、そこらにいる猫とかに目を向ける…)

 コウスケが震えを隠せない。

「いたぞ~!僧の男だ!」

 コウスケが覚悟をした時、小道の先で男が叫んでいる。

 カマはコウスケに両手を手にかける手前で叫ぶ男に目を向けた。

「そんな分かりやすいことはしないか…」

 カマは呟いて叫ぶ男の元へと駆けて行った。

 コウスケはホッとしたが、胸の鼓動がドクドクと鳴っていることに気づく。

 ホッとしたのも束の間、コウスケの前にゾロゾロと僧を縄で縛った男達がコウスケの目の前を通っていく。

 僧は平然とした顔で縄に引かれて歩いていく。今にも欠伸をしそうな眠い顔をしている。

(ごめんよ、ごめんよ)

 コウスケが心の中で僧に謝るが、その声は届くはずもない。


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