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短編14.11 狸と狐のわにゃんこ合戦「愛」

「お前がやったんだろ!」

 カマが僧に問い詰める。

「うぬ?」

 僧がはてなマークを浮かべて答える。
 とても縛られてるとは思えないほど、とぼけた顔をしている。

「おまえっ!返してきた小判だって偽物だったじゃないか!」

 カマがそう言うも僧が頭を掻いている。

「つまり、あの返した小判は偽物だったのか。なるほどな。で、何がどうしたんだ?」

 僧がカマに聞く。あたりはザワついている。

「宿をみろ」

 僧が宿の中を覗く。しばらく静止した後に僧がカマに言う。

「なるほど。つまり、これが私のやったことというわけか」

「そうだ!とぼけたってお前はさっき、本物の小判を取って逃げようとしたじゃないかっ!」

 カマが僧の顔の前に小判を見せつけて叫ぶ。

「ほうほう…私から質問させてもらう。仮に小判が目的だとして、なぜわざわざ偽物の小判をお前に渡す?」

 僧が続けて話す。

「そして、小判とこの死体がどう結びつくのだ?どこまでの根拠で私を疑っているのだ?」

 僧は冷静にカマに問う。怒りは感じないが何か凄みがある。

「それは…小判がなくなって騒ぎになって隠した場所を探されるのを防ぐためだ!」

 カマが答えた。

「失くなったことにも気づいてないのにか?」

 僧が間髪入れずに返した。

「…いつかは気づくさ」

 カマが答えるも、弱々しい声だ。

 確かにわざわざバレるような事を自らする意味がない、小判がたくあんに化かされているなら尚更だとカマは思った。

 しかし、化ける類いの話しはできない。それは自分にも跳ね返るからだ。

「さっき、私がここで小判を落としたと言ってたな」

「ああ、お前が1番わかってることだろ」

「服も一緒か?」

「…そんなことまで覚えてねえよ」

「顔は確かに確認したのか?」

「往生際が悪いぞっ、みんな見てる!そうだよな?」

 カマが村長を含めてみんなの顔を伺う。不安そうな顔をしているのが分かったが、皆が頷いていた。

「ほらな!」

「…らしいな」

 僧が考えるように答えた。そして、カマに提案を持ちかける。

「疑うのは構わない…しかし、疑われる以上は根拠がないと私も納得ができない、この件、調べさせてはくれぬか?」

「ふざっ…!」

 カマは愛の事を思い出す。

(疑い、信じる)

「…好きなだけ調べろ」

「恩に着る。縄はそのままで構わない」

 そう言って僧は熊のような男を調べはじめた。


 猫の姿で恐る恐る見ていたコウスケは疑われたことを物ともしない僧に感嘆した。

(どうしてあんなに堂々とできるんだよ、仮にも盗みと殺しの疑いをかけられて、少なくとも小判の件なんて完全な誤解なのに…)

 コウスケが僧と目が合う。宿の中から不思議そうに見てくる僧にたじろぎ、コウスケは村を出た。




 コウスケが村に戻る。狸の長のヌンの家に入る。

〈リンリンリン〉風鈴の音。

 ヌンの他に二匹の狐がコウスケの方に振り返る。花と愛だ。

「ウホンッ、ではこの話しは終わりにしよう。それでは、愛、狐の長はお前だ。頼んだぞ」

「何をっ!花に決まってるじゃないか!何回も言わせるなっ!」

 ヌンが話しを終わらせようとしたが、愛が食い下がる。どうやら狐の長について、話し合いがされていたようだ。

「愛、これはヌンと話して決めたこと。どんなにあなたが言おうと覆ることはないわ」

 花が静かに愛に語りかける。

「花…お前まで…」

 花の言葉に愛が肩を落とす。

「わかったよ、私が長をやる。花、ダリの事は本当にすまなかった」

「いいのよ、愛が気にすることではないわ」

 話しが終わり、コウスケに笑みを浮かべて花と愛が家を出る。

〈リンリンリン〉風鈴の音。

「コウスケ…カマはどうした?」

「人間の村でワチャワチャしてるよ」

「何かあったのか?」

「僧が…盗みと殺しの疑いをかけられてる。カマ兄さんに」

「殺し?どういうことだ?」

「僕たちの宿で人間が殺されたんだ…」

「! 盗みとはなんだ?」

「小判。小判が盗まれたんだ…でもね!…それは…」

〈リンリンリン〉風鈴の音。

 コウスケが自分のイタズラであることを言おうとしたときキュウが入ってきた。

「なんかさ…犬と猫のことで揉めてるけど…ヌン、ちょっと止めてくれますか?」

「ああ…コウスケ、話しは後で聞く」



 ヌン、キュウ、コウスケが外に出ると狸と狐が揉めている。どうやら犬派と猫派で喧嘩しているようだ。

「お前たち、やめんか」

 ヌンが仲裁に入るが、誰も止まらない。

「ネコなんて、弱すぎて話しにならないよ」

「イヌなんて、もう名前がマヌケすぎる」

「お前の方がマヌケ面してるじゃないかっ!」

「なんだとー!ふざけるなよ!」

 取っ組み合いになりそうな所で愛が叫ぶ。

「お前たちっ!そもそも猫と犬を見たことあんのかい!!!」

「!」

 皆が顔を合わせる。

「私は犬と猫の姿が見たいね」

 愛が言うと皆がザワザワと犬と猫の姿について議論がはじまる。

「はぁ…ポン吉、キュウいるか?」

 ヌンがため息をついて、ポン吉とキュウを呼ぶ。

「ええ、ここに」

 ポン吉が返事をする。

「お前たち、犬と猫を見てきてくれんか?」

「はい」

 ポン吉は嫌がる素振りひとつせず返事をした。

「行くぞ、キュウ」

 皆は猫と犬が見たいと肩を組んで盛り上がっていた。

「やれやれ」

 愛が懐かしそうなものを見るように呟いた。その姿は狐の長に相応しい貫禄があった。

 ヌンと愛が話している。

 コウスケは愛に憧れの念を抱く。

(僕もいつか…)

 目を閉じて自分が村の長になった姿を思い描く。

 先ほどの喧嘩が嘘のように、村は宴に変わっていた。みんな楽しそうに犬と猫の話しをしている。




 ヌンが村を出るポン吉とキュウに何か話しをしている。コウスケは「カマの事を見てきてくれ」と頼んでいるのだと思っていた。

 すると、コウスケの耳元に愛が囁く。

「あの僧は死ぬだろうね。ヌンから聞いたよ、盗みも殺しもしたんだろ?」

 コウスケはその声に背筋が凍る。

「…」

 不敵な笑みを浮かべて愛は自分の家に戻っていく。

(僕のせいであの人が…)

 コウスケは不安になって村を出て僧の元へと走った。


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