見出し画像

吉田秀和「名曲三〇〇選」、あるいは心に秘めた小さな安香水のかけら

 吉田秀和さんの著書が多数電子書籍化され気軽に振り返ることが出来るようになっているので、重い腰を上げて「名曲三〇〇選」を相当久しぶりに紐解いてみた。
 丸谷才一さんに言わせれば、日本にゼロからその読者及びクラシック音楽を愛好する聴衆を育てた唯一無二の存在だったので、私もご多分に漏れず大きな影響を受けたと思う。そしてそこから逸脱したり反発するというのもお決まりの流れかもしれない。
 決定的だったのはグノーやマスネについての記載でしたね。「…甘ったるい安香水的快感が皮層的に伝わってくる。…グノーが先輩で、…このほうは、根に宗教音楽の一種の品位が底流しているが、マスネはそれもなく、聴衆に媚びる。」
 凄いほどの断定。ここまで喝破されると清々しいくらいですが、的外れではないと思うけど性急な優劣のレッテル付けがそんなに必要だったのかねえ。連想するのはシェーンベルクが自らの十二音技法について、これで今後...年間ドイツ音楽の優位性は揺らがないと発言したと伝えられる事。誰がこういった格付けを望んでるのか。日本人か、ランキング大好きだし。
 私は兎に角めっぽうプーランクが好きなんでね。彼が自らの嗜好を表するに、フランス人なら誰でも心の中にマスネの「マノン」と「ウェルテル」の小さなかけらを秘めている、てな事を言ったと書いてある文章を読んだ記憶がある。ブーレーズなら頭から湯気を出しながら反論しそうですが、彼とは異なりマスネと同時にストラヴィンスキーを愛好出来るプーランクの方が私には好ましく思えるしそういう風でいたいと思う。
 一方で吉田秀和さん、やっぱり凄えなと改めて思うところも無論多々あって例えば、ミヨーの「クリストフ・コロン」のなんと初演に接しているのか(?)高く評価しているのは流石と思いますけんど。
 先日からグノーとマスネを連続して聴き込み中でその成果はおいおいご報告出来ればと思っておりますが、とりあえず確信できたのは単純に、グノーやマスネの諸作が無かったら随分と世の中は寂しい事になるっていう半ば自明の事実でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?