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【アイデンス外伝】 サークのコイントス

「サーク……人生ってのは本当に、選択の連続なんだな」

 アイデンは空に向かって呟いた。星がいっぱいに広がる夜空を見ながら、二人で熱く語ったタカモリ合宿を思い出していたのだ。


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 BBQも終わり、メンバーの多くは酒で潰れてしまうほどの盛り上がりを見せた。アイデンとサークはフラフラのメンバーをコテージまでなんとか放り込み、BBQ会場の近くにあったベンチに腰掛けた。山の上というのもあり、空には星が綺麗に広がっていた。二人は夜風に吹かれながら、激動の1ヶ月を振り返っていた。

「アイデンよ。その百円貸してくれ」

「10日で5割な。で君初回だから利息分引いて50円ね」

「闇金じゃねぇか!で、わざわざ両替すんのかよ!」

 財布に手を伸ばしたアイデンを止めに入るサーク。このくだりに満足したのか、ニヤニヤしながらアイデンは持っていた百円玉を投げた。サークは「うおっ」と声を上げ、キャッチした百円玉を夜空にかざし、こう言った。

「人生ってのは選択の連続なんや」

「選択の連続?」

「ああ、俺の爺ちゃんがよく言ってた言葉なんやけど。受験とか就職とか、そういう人生に関わる大きなことだけじゃなくて。今日の夕飯なんしようとか、飲み会行こっかなとか。そういうどうでもいい小さな選択の繰り返しが人生なんやでっていう」

「ああ、でも大体どうでも良くなるんよな俺。別にそこまでこだわりないって」

「まぁ、俺もわりかしそのタイプや。で、そういう時に使うのがこれなんや」

 そう言ってサークは百円玉を勢いよくはじいた。回転しながら夜空に向かったコインは、アイデンの方に逸れて落ちてきた。すかさず手の甲を使ってキャッチし、サークの方を見る。

「アイデン、お前その百円で水とお茶どっち買う?」

「んん?別にどっちでもええけどな」

「じゃあコインが表なら水、裏ならお茶や」

 アイデンは眉間にシワを寄せながら、左手の甲に乗せた右手をそっと離した。

「裏だぞ」

「じゃあお茶やな。タカモリの旨いお茶飲んで寝るか!」

 そう言ってサークは自販機の方向へ歩き出した。アイデンも遅れて立ち上がる。

「別にタカモリの特産のお茶とかじゃないだろ。ってかまぁ、あんだけ酒飲んだ後やし普通に水でいいけどな」

「お、じゃあ水やな」

「いや変えるんかい!」

 そう言ってツッコミを入れるアイデンを指差し、ヘッというお得意の顔をしながら言った。

「本当に心の底からどうでもいいことなら、コイントスで決めても納得できるんや。それで引っかかりが少しでもあるときは、すでに自分の中に答えがあるんやで、アイデン」

「____フッ、なるほどな」

 アイデンはほくそ笑みながら百円玉に目を落とした。


 どこかで聞いた話だ。ある外国の有名な人にこんな質問がきたらしい。

『運転中イヤホンで音楽を聴くのはダメなのに、スピーカーで聴くのはOKなのが納得いかない。どちらも同じじゃないですか』

 実際には『周囲の音が聞こえない状況になることがOUT』だから、スピーカーでも爆音はダメだったりとかするのだが……その外国の方はこう答えたらしい。

「イヤホンで聴くのと、スピーカーで聴くのがどちらも同じだと本当に思っているのなら、スピーカーに変えてもなにも不満はないはずです。あなたはどこかでイヤホンの方がいいと思っている部分があるんですよ」

 なるほどなぁみたいな感じで、話題になっていた記憶がある。普段どっちでもいいとか、どうでもいいとか思っていることでも、実は自分の中では決まっていて、それに気づいてないだけみたいなことがよくあるようだ。


「選択の連続かぁ……俺もこの完全放任主義を直すべきなのかもな」

 アイデンはサークの後ろを歩きながら、そう呟いた。

「なにボソボソ言うとるんや?呪文か?」

「フッ、珍しくサークが真面目な話してたからなんかに取り憑かれとるんかと」

「除霊かよ!しかも取り憑いてるんだとしたら俺の爺ちゃんってことになるからな!」

「あ、すまん。祓ったらあかんな」

「そもそも死んでねぇんだわ!」

「あ、そうなん?」

 そう言って、ふざけた会話をしながら自販機にたどり着いたアイデンは、持っていた百円玉で水を買った。


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