フリー台本【タイトル:催涙雨(さいるいう)の奇跡】


雨降る中、私は傘越しに灰色の空を眺めていた。
「なんで今日、雨なの」
そう呟きながら視線を下に戻し地面に打つつける雨粒を見た。
今日は7月7日、七夕だ。なのに生憎の雨だった。
織姫と彦星出会ないじゃん。
と思っているとスマホの通知が鳴った。
彼からのメッセージだった。
「今日、忙しすぎて残業することになった。今日中に帰れないかも」
という内容だった。
私は既読をつけて頭を抱える。
雨だから会えないのかなと七夕伝説と照らし合わせる。
「わかった。気を付けて帰ってきてね」
と返信をした。

「短冊に何書く?」
と君は言ってきた。
「どうしようね。この先もずっと一緒にいられますようにかな」
と言うと君は照れていた。
「自分も同じこと書こうっと」
お返しだという感じに言ってきたので私も顔を赤く染めたのだった。
「七夕晴れるといいね」
「そうね。雨だと会えなくなっちゃうから」
「催涙雨(さいるいう)」
「さいるいう?」
「そう。催涙雨。7月7日が雨だとそういうだって」
私は考えながらそうなんだと返した。
「雨のせいで天の川の水かさが増えて渡れなくなって、彦星に会えなくて悲しくて泣く織姫の涙が由来らしいよ」
「なんか悲しいね。やっぱり晴れがいいな」
と言うと君も頷いた。
「僕も晴れがいい」

私は家に帰ると雨は強くなっていた。
彼からのメッセージは既読はついたけど返事はなかった。
荷物を下ろしソファーに崩れるように座った。
スマホの天気予報を見る。日付が変わる頃には止むらしい。
「はぁー。日付変わったら意味ないじゃん」
とため息をついた。
私は目をつぶり微睡の中に心を預けた。

「ねぇ、起きて」
と彼の声がする。夢かなと思いながら返事をする。
「起きて、風邪ひいちゃうよ」
私は目をこすりながら彼を見る。
「これ夢?」
と聞くと彼はため息をつきながら私の頬を引っ張った。
「いたいいたい。やめて」
「夢じゃないでしょ?」
「ううん」
現実とわかり、時計を見る。まだ21時だった。
「遅くなるっていってなかったっけ?」
「そうだったんだけど、案外早く片付いちゃって」
「そうなんだ・・・」
私はふとそとを見ると雨が止んでいた。私はベランダに出た。あんなにどんよりとした天気だったのに雨の止んだ匂いと湿気が私を包み、空を見上げると星空が広がっていた。
「雨やんだんだね。よかった」
「そうだね。僕が帰ってきて止んだみたいだよ」
「これで彦星と織姫は出会えるね」
と言うと彼は頷いた。
「前にさ、催涙雨の話聞いたじゃん。今日の私達と重ねちゃって心がどんよりしてた」
彼は私の顔を見てごめんと言う顔になった。
「まさか、雨だとは思わなかったからね。晴れてほしいと願ったのに。でも星が見えたからよかった。七夕に君の顔見れてよかった。君の涙で水浸しになるところだった」
「なによそれ」
とフフッと顔を見合わせて笑い合った。
「早くご飯にしよう」
とベランダから彼が離れようとしたので私は後ろから抱き着いた。
「どうしたの?」
「少しこのままにさせて」
と彼に言うと手を握ってくれた。

彦星と織姫は1年に一度しか出会えない。でも私たちは毎日会える。もし彦星と織姫のように1年に一度しか出会えなかったら私は寂しくてたまらないだろう。幸せの毎日を噛み締めながら生きていこう。
月灯りは私たちを照らしていた。

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