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数寄の長者〜竹馬之友篇〜

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戦国時代といえば織田信長ら三英傑の時代ばかりに注目が集まる中、織田信長が生まれる十二年前|大永二年《西暦1522年》からの歴史を描く。それは応仁の乱終熄から六十年過ぎた信長前史の…
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#室町時代

第一章 動乱前夜 第九服 突虚破陣

虚を突いて陣を破る 恋しくは たづねきてみよ 和泉なる 信太の森の うらみくずの葉  阿…

第一章 動乱前夜 第八服 光宿朽館

光朽館に宿す 足引の山に生ひたるしらかしの 知らじな人を朽木なりとも  若狭武田氏の軍勢…

第一章 動乱前夜 第七服 光発若府

光若府を発つ 逢ひ見てし後瀬の山の後もなど 通はぬ道の苦しかるらん  陽射しが肌をやわら…

第一章 動乱前夜 第六服 二虎競食

二虎を食み競う 今日はまた咲き残りけり古里の あすか盛りの秋萩の花  義晴公の典厩邸御成…

第一章 動乱前夜 第四服 晴遷三防

晴三防に遷る いつしかに 春とは知りぬ 鴬の さだかならねど 今朝の初声  足利義晴公は…

第一章 動乱前夜 第二服 同乳連枝

乳を同じうして枝を連ねる いささめに 時待つまにぞ 日は経ぬる 武者子も吾子も ともには…

第一章 動乱前夜 第一服 三午生休

午三にして休を生む さかひこゑ ちぬなぎぬれる 馬の子は 千世のむつきを かさねうるかな   雲一つない晴れた日であった。  鳥が小さく実のなった梅の枝に留まって啼いている。障子に映し出された影が、少し揺れた。シュンシュンと、切合の風炉に置かれた釜から松風の音が聞こえている。  風炉は火鉢に風通しの窓を空けて炭の火が消えぬよう工夫した道具である。この風炉はその左右に鬼の顔をした耳があり、丸い金属の環――釻を咥えていた。銅に錫や鉛などを混ぜた古銅とも言われる唐銅で出来た