愛すべき小さなもの

もう柚子が出てたよ
ころんと丸い黄色い果実をあなたは私に手渡す
いい香り
しばらく飾っておいてから柚子湯にしよう
あなたからのプレゼントはいつも可愛い
駅前の焼物展で見つけた桜の箸置き
一口かじった跡があるほかほかの焼き芋
ひとつだけ売れ残っていて可哀想だったという
手のひらサイズの観葉植物
100本のバラの花束をくれる男とも付き合ったけど
抱えきれない幸せなんて欲しくなかった
何度も手にとっては鼻に近づけてしまう
あなたが連れ帰って来た冬の匂い
一緒に入りたいなあ柚子湯
恥ずかしがって絶対断られるけど
パソコンの横にちょこんと置いて
ねえ何日一緒に暮らせるかしら
最後の最後まで私たちを温める運命にあるなんて
本当にお前はいい子だね
ダイヤのネックレスをくれた男もいたけれど
大黒屋で売っぱらって焼肉食べに行った
あなたには資金の出所は隠したままで
いつももらってばっかりじゃ悪いもん
小さきものを愛するあなたは
大丈夫なのこんな高級店に来てと
終始怯えていたけど
スーパーで柚子を見つけたとき
それを手に取ったとき
あなたの心の中には確かに私がいたのよね
そのことが何よりのプレゼント
ハートのモチーフがてっぺんについたガラスのマドラー
古着屋で発掘した淡水パールのアンクレット
あなたがくれるものは必ずこの手のひらに収まって
決して人生の邪魔をしない
私よりも乙女なのかしらなんて
考えると笑えてくるけど
このだだっ広い世の中から
本当に愛すべき小さなものたちを見つけ出してくるあなたを
ちょっと尊敬してるんだよ
柚子が笑ってる
いい香りね
顔書いちゃおうかな
ダメだ情が移ってしまう
私もまたモノをモノとして扱えない心を持ち合わせてる
何をどう大切にしていけばいいか充分に学んでる
あなたがもうひとつ柚子を取り出した
それも飾るの
いやお酒に入れようと思って
結構即物的ね
やっぱり乙女心で勝るのは
私のほうかもしれないな

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