見出し画像

心理学界の異端児「行動分析学」から考えるゲームデザイン

行動分析学は心理学の中でもけっこう変わった学問です。ざっくり言うと

こころ?そんな不確かなものを見ようとしてもしょうがなくね?
そんなことより、実際に目に見えて計測できる「行動」に焦点を当てて考えようぜ!

という、心理学でありながらだいぶ思い切った方向に舵を切った学問です。
けっこう実用重視の学問でもあります。

--------

さて、「ゲームで遊ぶ」も行動の1つです。つまりは行動分析学で研究されている「行動の仕組み」を理解すれば、「ゲームで遊ぶ」という行動の理解についても深まります。

……なんか堅いですね。書いてて疲れるな。えっと、まぁ、その、ゲーム作りに使えそうな知識があったんで、考察がてら紹介します。はい。


◆今回の記事で目指すこと

今回は行動分析学らしく「面白いゲーム作ること」を目標にしません。代わりにプレイヤーの「(俺様が作った最高に面白い)ゲームを遊ぶ」という行動を増やすのを目標にします。

「面白い」を目標にはしていませんが、「ついそのゲームを遊び続けてしまう状況」を想像してください。ゲームデザイナーとしては嬉しい状況だと思います。

画像20

まずは知識編として、行動分析学の知識をゲームを例にしながら紹介します。そしてその知識を基に、実践編としてどうゲームデザインに生かすかを例として考えてみようかと思います。

では、説明していきましょ。

◆知識編①:行動の原因は「行動の後」にある

この題だけ読むと「お前何言ってんだわけわかんねーぞ」と言われそうな気もしますが。RPGをやったことがある人なら「毒消し草」って使った事ありませんかね。そしてその「毒消し草」はなんで使ったんでしょう?薬草じゃ駄目だったんですかね?

画像1

なぜ人は「毒消し草」を使うのか。それはそこに「毒消し草」があるからさ……なんてロマンのありそうな話は無く、嫌な状態異常である「毒」を消すためです。図にするとこう。

画像2

「毒消し草を使う」という行動の原因は「毒消し草を使った後、毒が消える」からと言えます。毒が消えると言う期待の元で毒消し草は使われるわけです。

今度は「お前何言ってんだあたりめーだろ」と言われそうですが。
こんな感じで「発生原因が行動の後にある行動」「オペラント行動」と言います。テストに出るわけでもないので名前は覚えなくてもいいですよ。
人間の行動は反射的な行動を除くと全てこのオペラント行動です。(反射的な行動っていうのは、目にゴミが入って涙がでるとかパブロフの犬てきなやつとかそういうの)

つまり何が言いたいかというと。オペラント行動の仕組みに合わせて、(俺様が作った最高に面白い)ゲームを遊ぶ」という行動が増えるようにゲームデザインをするとですね。(俺様が作った最高に面白い)ゲームを人々はより進んで遊ぶようになるわけです。理論上。すんばらしいですね。

画像20


◆知識編②:「行動随伴性」で「行動」を考える

オペラント行動のことも話しましたし。その仕組みを知っていきましょう。さっき、毒消し草の例でこんな図を示しました。

画像4

オペラント行動は「毒消し草を使ったら毒が消えた。だから毒になったら毒消し草を使う」みたいに「行動」と「結果」が非常に強く結びついています。

行動分析学ではこの結びつきを非常に重要視しており、「行動前」「行動」「行動後の結果」を1つのセットで考えていくのが基本になります。専門的には「行動随伴性」と呼ばれているものですね。「行動」に影響を出したいなら、「行動後の結果」をどうするか考えるわけです。

行動随伴性


◆知識編③:行動に関する基本4原則

「行動に影響を出す」と言いましたが、そうおおげさな話ではなくてですね。考えることはシンプルに2点。どうやって「行動を増やす」か、「行動を減らす」かです。まずな大枠を説明するこんなのがあるんだーくらいの理解で大丈夫です。

行動を増やすことについては「強化」と呼ばれています。やり方のパターンとしては2つ。

強化:行動が増える
・正の強化(好子出現の強化)
⇒行動すると『良いことが起きる』のでその行動が増える
・負の強化(嫌子消失の強化)
⇒行動すると『悪いことが起きない』のでその行動が増える

次に行動を減らすことについては「弱化」と呼ばれています。やり方のパターンとしてはこちらも2つ。

弱化:行動が減る
・正の弱化(嫌子出現の弱化)
⇒行動すると『悪いことが起きるのでその行動が減る
・負の弱化(好子消失の弱化)
⇒行動すると『良いことがなくなるのでその行動が減る

正式名称は「正の強化」とかなんですが…ぶっちゃけこの用語、分かりにくいです。ので参考文献だと「好子出現の強化」みたいに新しい造語を作ってたりしていて、そっちのほうが分かりやすいのでこの記事では造語の方を採用します。

用語にも出てくる「好子」ですが、これは「ごほうび」みたいなものと思って大丈夫です。その人にとって嬉しいもの。強い装備が手に入ったとか。「嫌子」はその逆で、ペナルティみたいな嫌なものです。「毒」は嫌子の例ですね。

画像5

ちなみに「毒状態になったらめちゃくちゃ強化されるスキルを使いたい」みたいな状況の時、「毒」は好子として働きます。あくまで「その人、その状況において嬉しいものか嫌なものか」、で判別されると思ってください。

んでは、個別に説明していきます。


◆知識編④:行動が「増える」(強化)

まずは行動が増える原理である、強化について。

・正の強化(好子出現の強化)
⇒行動すると『良いことが起きる』のでその行動が増える

最も分かりやすく、健全で、強力なのがこの「好子出現の強化」です。行動して、ごほうびがもらえたならもっとその行動をする。

エロゲーなんてわかりやすくて強いなぁと思うんですよ。図にするとこう。

02_正の強化

シナリオが微妙でも、ゲーム自体がちょっとつまらなくても、その人にとってめちゃくちゃえっちな画像が手に入るなら、それが強い好子になって頑張るわけですね。えっち。

では次です。

・負の強化(嫌子消失の強化)
行動すると『悪いことが起きない』のでその行動が増える

さっきから使っている毒消し草の例がそのままコレですね。毒という嫌子がなくなるので、毒消し草を使う。

02_負の強化

損をしたくないからやる、みたいなものもコレですかね。

「課金していかないと負けちゃうから新キャラが出たらガチャを引く」というのも嫌子消失の強化に含まれます。強化や弱化は複合するので、この例だと新しいキャラが手に入る好子出現の強化手に入れないと負けるという嫌子消失の強化2つで「ガチャを引く」という行動が強化されています。ガチャ怖い。

画像8


◆知識編⑤:行動が減る(弱化)

次は行動が減る原理の弱化です。

弱化:行動が減る
・正の弱化(嫌子出現の弱化)
⇒行動すると『悪いことが起きるのでその行動が減る

やったらペナルティがあるような行動はしなくなるよ、というやつですね。

「赤い草」が手に入って、試しに使ってみたらダメージを受けた……みたいなことがあったら、この「赤い草」を使おうとはしなくなります。あとは対戦ゲームで負けてばっかりだとそのゲームで遊ぶのをやめるとか。

画像9


はい次。じゃんじゃん行きましょ。

・負の弱化(好子消失の弱化)
⇒行動すると『良いことがなくなるのでその行動が減る

説明しにくいんですよねコレ。嫌い。

という私の感情はさておき。例えば「敵と戦うほどレベルが下がる」としたら、積極的に戦わず戦闘を避けるようになる……というのは想像できるかと思います。ソレです。

04_負の弱化

他にも、「1日1時間以上ゲームしたらおやつ抜き!」みたいなお母様からの罰則も、負の弱化と言えますね。


◆実践編(閑話):ゲームの基本は「強化」

この知識編、もうちょっとだけ続くんじゃよ……という状態なんですが、あまり説明パートが続くとアレなので。ここでいったん強化・弱化をどうゲームデザインに応用することができるか触れてみたいと思います。

まず、冒頭で話した今回の目標に立ち戻りましょう。コレ。

また今回は行動分析学らしく「面白いゲーム作ること」を目標にしません。代わりにプレイヤーの「(俺様が作った最高に面白い)ゲームを遊ぶ」という行動を増やすのを目標にします。

「行動を増やす」ということは「強化」です。なのでゲームデザインとしては、どうやってプレイヤーに対して「(俺様が作った最高に面白い)ゲームを遊ぶ」という行動を強化するのか、というのが非常に重要になってくるわけですね。

例えば「レベルアップ」で考えてみましょう。色んなゲームに実装されてますよね。レベルアップ。レベルが上がるとステータスが上がったりスキルを覚えたりするので、「好子出現の強化」として運用しやすいです。例として、ちょっとレベルアップのあるゲームを思い浮かべてみてください。好きなゲームでも、嫌いなゲームでも、自分のゲームでも良いです。

はい。そのゲームのレベルアップ、楽しいですか?レベルアップしてよかったと、もっとレベルアップしたいと思えますか?
今回の話で言い換えると、そのレベルアップで出現する好子はどのくらいの強さですか?

想像しにくいと思うので、ちょっと強さの目安を用意しましょうか。

【Sランク】
楽しくてついレベル上げをしちゃう。むしろレベル上げのためにこのゲームを遊ぶ。
【Aランク】
レベルが上がると嬉しいし、「レベルXXまで上げたい」といった「目標」を立てたりできる。
【Bランク】
レベルアップによって強くなった実感があり、レベルが上がると嬉しい。
【Cランク】
レベルが高いに越したことはないが、そこまで意識はしない。
【Dランク】
好子としての役割が完全に機能していない。どうでも良い存在になってる。

強化をするなら、もちろん強い好子になっていれば良く、逆に弱い好子は強化の役に立ちません。強ければ強いほど良いです。

上の私がテキトーに考えた目安で言えば、できればBランク以上が望ましく、そのコンテンツに力を入れるならAランクにはしたいところ。
逆にCランク以下であればテコ入れの必要があるか、無駄な機能になってるので削除も検討に入れた方が良いです。

今回は例としてレベルアップを挙げましたが、徹底的にあらゆるゲームの要素に対して好子が機能しているかを判定していくと、ゲームとして直すべき部分が見えてきます。

大きな枠組みを細分化して扱っても良くて、例えば「キャラクターの強化システム」を細分化して評価した時。

◆レベルアップ【C】
経験値が一定以上になるとレベルが上がりパラメーターが上昇する。装備で上がる上昇量よりは控えめ。
◆装備の更新【A】
武具屋やダンジョンで入手。新装備を手に入れるとパラメーターが大きく上昇する。重要度が高いため、報酬として強く作用する。
◆スキルの習得【A】
スキルを使い込み、スキルレベルが上がるとスキルを習得。上位のスキルが明確に強く、スキルレベルを上げる目標になる。

この場合、レベルアップが弱いです。「パラメーターが上昇する」という役割が装備と被った上に負けているので、好子としての機能が弱いです。対策としてはいくつかあって、「レベルアップでのみ上がるパラメーターを用意する」とか「スキルレベルの上昇をレベルアップで手に入るポイントで行うように変更する」とか、テコ入れしてあげるとB~Aくらいにはなれそうです。

使い方の一例ですが、こんな感じでゲームを「評価」するのにも使えます。行動分析学の知識がなくともなんとなくやるとは思うんですが、「強化」や「好子」といった概念に名前がつくことでより扱いやすくなりますね。ゲームのあらゆる要素を同じ尺度で測れるので、テコ入れするべき部分が見えやすいです。


…えーと。はい。

いや評価に使えるっつったってなぁ……
結局、ゲームデザイン自体にはどう活用すればいいんだよコレ。

とか思ってません?めっちゃ思われてそうでビクビクしているんですけれども。ビクンビクン。

その辺りを説明できなくもないんですが、もうちょい知識が欲しいです。説明が中途半端になってしまう。なのでもうちょっとだけ知識編、付き合ってくださいな。

というわけで、知識編再開~。

◆知識編⑥:消去と復帰

行動随伴性の基本的な4つの原理は説明しましたが、あと2つ。

強化された行動が、ある時を境に強化されなくなったらどうなると思いますか?例えば毒消し草を使っても毒が治らなくなったとか。ゲームしていてもえっちな画像が見れなくなったとか。

画像11

答えはなんとなく分かると思うんですが、強化されたその行動の頻度が減ります。毒の消えない毒消し草なんて使う価値がないわけです。えっちな画像が出ないエロゲーなんてもはや健全なゲームで、むらむらしてえっちな画像が欲しくてたまらない野郎共の欲望には応えられません。強化された行動の頻度は永遠に保たれるわけではなく、期待外れの結果が続けばやがて強化は消えます。増えた行動が元に戻るわけですね。

これを「消去」と言います。「好子消失の弱化」と混同しがちですが、あっちは「既にあったものが消える」のに対し、こちらは「新しく手に入ると思った物が出現しない」もので、性質もちょっと違います。

ちなみに弱化も同じようなものがあります。悪いことが起きるかなー?と思ってやってみたら悪いことがおきない。そんな時は減っていた行動が元に戻ります。増えます。これを「復帰」と言います。

さて、ふーんと思いながら読んでる方も多いとは存じますが。この「消去」はゲームデザイナーにとっては見えない罠になりがちです。油断していると後ろから刺されます。せっかくなのでちょっと解説します。


◆知識編⑥-番外編:終盤まで行ったけどやる気がなくなるあの現象について

ゲームあるあるで良く挙げられるのが、「せっかく終盤まで進めたのになんかやる気がなくなってラスボスを倒していない」みたいな話。これ、まさに「消去」が悪さをしています。

最近、これを強く感じたのはファイアーエムブレムの新作(風花雪月)ですかね。あまりこういう例に人様のゲームを出すのもアレなんですが……。

画像12

私は面白いゲームをやるとわりとぶっつづけでやる性質で、このゲームも買った初日はぶっつづけで遊んでました。しかしだんだんと遊ぶ頻度は落ちてきて、終盤のあたりでは数日に1回遊べばよいくらいまでになってます。

これを、行動分析してみましょう。分析するために、このゲームに対する好子の評価をまとめてみます。序盤の評価は個人的にはこうです。

◆クラスチェンジ【S】
能力がまとめて大きく上がって強くなれるし姿も変わる。移動タイプが変わったり、クラスを極めるとスキルが手に入ったりするのでかなり重要。育成の要で「このキャラをどのクラスにするかな~」というのが育成方針に大きく影響する
◆レベルアップ【A】
クラスチェンジのためにはレベルが一定以上じゃないといけないので、目標として「レベル20まで上げたい」と言ったようなものが発生する。序盤は能力上昇の影響度も高い。
◆技能レベル【A】
新しいアクティブスキルやパッシブスキルを覚えるのに必要。またクラスチェンジの成功率にも関わるし、さらに主人公の技能レベルはスカウト(キャラを仲間にする)のにも必要なので、「剣技をBにしたい」みたいな目標が立てられる。大事。
◆キャラの好感度【A】
好感度が上がるとキャラのイベントが見れるし、戦闘にも影響する。主人公に対する好感度だけでなく、キャラ同士にも好感度があってイベントが用意されているので、頑張って上げようと思える。
◆シナリオ【B】
それなりに仲良くやっていた3組が、やがて争うことになる……というのは知っていたので、それがどうなるのかは楽しみだった。また、シナリオの選択肢でキャラの好感度が上がったりもするのである程度好子としても働いている。
◆指導レベル【A】
技能レベルや好感度を上げるのに欠かせない要素で、それらに引っ張られる形で重要度がかなり高い。散策では行動回数が余ったらとにかく指導レベルを上げようとしていた。
◆装備の更新【C】
強そうな装備が出ると嬉しいものの、システム上、最初の訓練用装備がかなり優秀なので(終盤も雑魚退治にはこれを使ってた)、せっかく手に入れてもなかなか更新できなかったり、耐久度があるので使わなかったり。

装備の所がちょっと弱いものの、基本的には好子の塊になっています。その結果、行動が強化されて私もぶっ続けで遊んでいたわけですね。

次に、終盤の評価です。

◆クラスチェンジ【C】
最上位職のクラスチェンジが完了済み。また上位職をMAXにした時、そのクラス限定のスキルをもらって「最上位職じゃ使えないじゃん……」となり、消去がちょっと発生。
◆レベルアップ【C】
能力が上がるのは嬉しいものの、序盤と伸び率は変わらないので、重要度はそこまで高くない。
◆技能レベル【D】
だいたい取り終っていて、残りはあるものの特に必要ない。
◆装備の更新【D】
ここぞという時の強い装備はあらかた手に入ったし、無理に更新する必要もない
◆シナリオ【C】
残念ながらキャラにそこまで感情移入できず、また選択肢も無意味なものが増えてきたため、先を見たいとはあまり思っていなかった。(ルート選択をミスった気がする)
キャラの好感度【D】
めぼしいキャラの好感度がMAXで、好感度の上昇自体が発生しない
◆指導レベル【D】
レベルMAXでもう上がらないのでどうでもいい。

はい。Bランクが1つもなく、序盤と比べてだいぶ評価が落ちたのが分かると思います。あれだけ好子の塊だったのに。

育成系の好子は非常に作りやすく強力なんですが、レベルがMAXになって育成の必要が無くなるとほぼ「無い」のと同じになる点に注意です。育成部分が成熟した結果、好子がなくなることで消去が起きて、「このゲームをやる理由」が無くなったわけです。だから終盤まで進めたゲームをやめちゃう。

レベル十分、最強武器や最強のスキルを手に入れて、あとはラスボスに挑むだけ……というのはつまり、相当危険な状態と言えるかもしれません。ゲームデザイナーとしては、「いかに終盤のゲームをやる理由(好子)を作るか」というのもしっかり考えた方が良いです。


◆知識編⑦:消去の性質と強化の種類

さて、消去の恐ろしさを説明したところで。消去に関しては期待した結果が得られなければ即座に行動が減る…わけではありません。「消去抵抗」というものがあり、消去抵抗が強いとなかなか行動は減らないのです。(ちなみに、消去と対になりそうな「復帰抵抗」という言葉は恐らく無い)

じゃあ消去抵抗が強いのってどんなもの?っていう話になるんですが。実は強化には「連続強化」「部分強化」の2種類があって、その強化の種類によって消去抵抗が違います。それぞれの特徴は以下の通り。

◆連続強化
その行動をやったら好子が毎回もらえるパターンの強化。敵を倒したら経験値がもらえる、というのはコレ。消去抵抗は弱く、毎回あったごほうびが貰えなくなると行動は早めに減る
◆部分強化
その行動をした時に好子が貰える場合と貰えない場合があるパターンの強化。敵を倒したらレアドロップで強力な装備が手に入る、というのはコレ。消去抵抗は強く、そもそも好子が貰えない場合もある強化なので、好子が貰えなくてもなかなか行動が減らない。

業が深いのは部分強化ですかね。ギャンブルとかガチャとかも部分強化の力が強いです。あと私が毎回報われるわけでもないのにゲームを作るのは、昔レビューで「楽しい時間をありがとう」とかめちゃくちゃ嬉しい感想があったから。これも部分強化。

画像22

しっかし、なんかコレだけ見ると全部の要素を部分強化にしちゃえばいーじゃんって感じですが……。

部分強化が発生するまで(好子が出るまで)トライしてもらう必要はありますし、(ここは明確に本に書いてあったわけでもないので私の予想なんですが)強化するのにも連続強化よりも強い好子を用意してあげた方が望ましいです。

めちゃくちゃ苦労してレアドロップ狙いで強い武器を手に入れる…と言った時に、手に入ったのが店売りのよりもほんのちょっと強い程度の武器とかなら誰もやらないでしょうし。

画像23

ちなみに消去については「消去バースト」なんていう必殺技みたいな名前の性質があります。超ざっくり説明すると、攻撃ボタンを押したら攻撃が出なかった時、とりあえずなんども攻撃ボタンを押してみる……みたいのが消去バースト。消去前に行動が爆発的に増えるってやつです。今回の話にはあまり絡まないので詳しくは割愛しますけど。上手く扱えそうだったら使ってみてください。


◆知識編⑧:好子や嫌子を出すまでの時間

行動の後に好子や嫌子が出てくることで、強化や弱化が行われるわけですが……「行動の後」って具体的にどういうタイミングで出せば良いんですかね?

結論を言うと、行動の後から早ければ早いほど良いです。極端な例を出すなら、メタルスライムを倒せて嬉しいのは「倒した後に大量の経験値が手に入る」からです。これが「倒した30分後にいっぱい経験値が手に入る」みたいなやり方であれば、かなり微妙なことになります。

一応、目安をつけるとするなら60秒以内だそうです。明確な境界線はないのあくまで目安とのこと。基本は行動の後すぐに呈示してしてあげるのが良しです。

画像27

例えばイベントの選択肢で好感度が上がるなら、イベントが終わった後ではなく、選択肢を選んだ時に好感度の上昇を教えてあげたほうが望ましいです。なるべくすぐに出してあげましょう。


◆実践編①:ゲームデザイナーが考えるべきこと

さて、長~い知識編もようやく終わりました。これらの知識を使ってゲームデザインについて考えていきましょう。まず、閑話ではちょっと触れましたが、ゲームデザイナーが考えるべきことは大きく分けて2つです。

◆「ゲームを遊ぶ」行動をいかに増やすか
「正の強化」「負の強化」「復帰」を使って「行動を増やす」要素をゲームに仕込むこと。ゲームデザインとしてこの部分が甘いと、プレイヤーにとってそのゲームをやる理由がなくなります。
◆「ゲームを遊ぶ」行動を減らす要素をできるだけ潰す
「正の弱化」「負の弱化」「消去」になり得る要素を徹底的にゲームから排除して、「行動が減る」要素を取り除くこと。これらの要素が多いとプレイヤーにとって「遊びたくないゲーム」となるので注意。

シンプル。これらを達成するためにどうするべきなのかを考えていきます。


実践編②:どうやって好子を作るか

手っ取り早く好子を作るにはどうすればよいのか。手っ取り早いのは「目標」「目標を達成するのためのもの(手段)」を用意することです。自分で立てた目標に近づくというのは、それだけで嬉しい物ですから。

実際の行動分析学を応用した臨床現場(不登校の改善とか色々)でも、トークンエコノミー法と呼ばれる手法が使われています。これはざっくり言うとポイントカードで、一定以上ポイント(トークン)をためると良い事があるからそれを目標に行動してポイントを貯めていこうね、というやり方です。

それ単体では役には立たないけど貯めればご褒美があるよー、というのはゲームでもけっこう使われてますよね。経験値とか好感度とか。アレを上手く使ってください。

例えば「イベントを見るために好感度ランクをAにする」といった目標が作られると、「好感度」が好子(トークン)になります。下の図のように、ちょっと階層的な構図になります。

強化の階層構造_好感度

さて、実際に目標となる物を作る時ですが、「目標」はより具体的な目標にしてあげてください。例えば「レベルを上げる」よりも「レベルを10まで上げる」といった目標の方が目指しやすいです。

それと「目標を達成するためのもの(手段)」も具体的にと言うか、分かりやすさが大事です。「レベル10まで上げたいけど経験値を稼ぐ方法がわからない」となったら、立てた目標も意味がありません。目指しようがないので。

先ほど例に挙げていたファイアーエムブレムの場合ですが、クラスチェンジなんかは色々なものがぶら下がってます。

◆クラスチェンジ
 L一定以上のレベル ⇒ 好子:経験値
 Lクラスに応じた技能レベル ⇒ 好子:技能経験値
 Lクラスチェンジ用のアイテム ⇒ 好子:アイテム、お金

クラスチェンジという大きな目標に対して複数の小目標がぶら下がることで、ゲーム内の色々な要素が好子として機能している良い例ですね。ただいっぱいぶら下がってれば良いっていうわけでもないんですが(わかりにくく複雑になるので)、「クラスチェンジ」に対して技能レベルとかは連想しやすいので、ある程度ぶら下がっていても分かりにくくはなっていない点も良いです。

画像26


実践編③:連続強化と部分強化を組み合わせる

連続強化と部分強化、もちろん特性に合わせて使うべきなんですが、両方を組み合わせて使うのもアリです。連続強化でひっぱりながら、ところどころに部分強化をちりばめるみたいな形。

例えばドラクエだと基本的には敵を倒せば経験値が手に入る(連続強化)けど、たまにメタルスライムとか出て倒すことができれば大量に経験値が手に入る(部分強化)とか。

画像24

モンハンも基本的に敵を倒せば素材が手に入る(連続強化)けど、たま~に逆鱗とかの激レア素材が手に入る(部分強化)とか、上手い感じに強化をちりばめてますね。


はい。この話のオチを考えてたんですが、思いつかないのでこのままオトします。次!


実践編④:「行動の減少」を防ぐには

消去に関する話は知識編⑥の番外編でやりましたね。ゲーム終盤は好子切れで消去が起きやすいので気を付けてねってやつです。

じゃあ、弱化に対する対策はどうしようっていう話なんですが。

・正の弱化(嫌子出現の弱化)
⇒行動すると『悪いことが起きるのでその行動が減る

正の弱化については、無駄なストレスになるような要素は排除しろっていう話になりますかね。基本的な話で言えば「長すぎるロード画面」「意味もなくもっさりとした動き」「高すぎるエンカウント率」「分かりにくいUI」などなど。一つ一つは大きな影響を持たなくても、それぞれが積み重なって嫌なゲームになったりもします。最近のゲームではさすがにあまりないですけど。

対戦ゲームなんかだと「負ける」ことを大きな嫌子にしない方が良いです。負けが続くと嫌になってやめちゃいますからね。特にボードゲームなんかが顕著になりそうですが、勝てそうにない状態でずっとゲームするのはけっこうなストレスです。逆に「負けたけど楽しかった」と思わせることができれば、それほど大きな嫌子にはなりません。

画像28

プレイヤーに勝利を目指してほしいなら、負けた時のペナルティを増やして弱化を起こすよりも、勝った時の報酬を増やして強化をした方が健全で人も減りにくいかもしれませんね。

・負の弱化(好子消失の弱化)
⇒行動すると『良いことがなくなるのでその行動が減る

こっちについては…正直……あまり思いついていないんですが………。

萎えさせるようなことはしない方が良い」っていう話になるかなーとは思っています。例えば永久離脱する仲間に貴重な装備を持たせていたら、永遠にその装備が失われるとか。

なんか思いつく人がいたらこっそり教えてください(丸投げ)

------

強化に関して「好子がどれくらいの強さで機能しているか」というのを評価すると良い……と話しましたが、弱化についてもそうですね。ゲームをプレイしていて「弱化」になり得る要素がないか、評価すると良いかもしれません。


実践編⑤:なぜ高難易度のゲームが遊ばれるのか

高難易度だけど人気のゲームってありますよね。ボス敵なんかに何度も負けながらも挑んで、やっと勝てた……っていうのを繰り返しながら進むゲーム。有名なのだとダークソウルとか、最近だとSEKIROでしょうか。

画像13

皆、なんであんなに挑むんですかね?勝てないかもしれないのに。ストーリーを見ようと思っても高い壁に阻まれて見れないし、消去や嫌子出現の弱化とかおきそうじゃないですか。ふんだりけったり。

画像14

皆マゾなんですかね…というのは行動分析学の考えではありません。実際に人気ですし、私も高難易度のゲームはやるのも作るのも好きです。科学は常に現実が優先されます。現実に人気なら、そうなるだけの行動随伴性があるはずです。

行動が減らずに維持されているという事は、敗北しても何かしらの形で強化が行われているか、強い消去抵抗があるかです。結論から言うと両方あるんですけど。

-----

まず、敗北した時の強化から。適当に難しいゲームのボス戦を思い出してたら、大抵アレがありました。ボス敵のHPバー。

画像15

これ、意外と重要な役割を果たしています。難しいゲームって最初は手も足も出ないけど、だんだんやっていくうちに上手くなってきます。その上達具合を分かりやすく呈示しているのがこのHPバーです。何度も敗北する中でも「前よりもHPを減らせた」「上手くなってきている」というのが目に見えているので、自身の成長具合が分かりやすく呈示されて好子となります。皆HPバーは見ますからね。

画像16

つまり何度も挑戦しなおすようなゲームの場合は、「敗北した時に前よりも上手くなった、前に進めた」と感じさせることが大事になります。こうした成長感が好子となることで、例え敗北したとしても行動が強化されるわけです。だから何度も負けても諦めずに戦える。

ちなみにHPバーを表示しなきゃいけない…っていう話ではありませんよ。どれくらい進んでいるかが分かれば良いので、敵が傷ついて見た目が変わるとか、敵のセリフが変わるとか、進捗状態を実感できれば良いです。

アンダーテールのサンズ戦なんかはHP表示は無いけどターン数に応じてセリフが変化していくので上手く作ってありますね。鬼畜難易度のボス戦ですが、他にもプレイヤーにリトライさせる仕組みが大量に詰め込まれていて凄いです。勉強になります。

-----

次に強い消去抵抗について。強い消去抵抗があるということは、部分強化がされているわけです。好子となりうるのは達成感ですかね。毎回勝てるわけじゃないけど、何度もトライして勝った時の達成感が強い好子として働く。とか。あ、一応言っておくと、「達成感」は考えられる好子の一例ですよ。

達成感

はい。プレイヤーに達成感を味あわせる。とっても聞こえが良いですね。HAHAHA。

ゲームデザイナーがやることに言い換えると、如何に部分強化を行ってプレイヤーを訓練するのか、という話になってきます。プレイヤーが「大変だけどできそう」と感じるラインを読み取り、苦労して勝利する喜びを味あわせて、プレイヤーを訓練するわけですね。敗北にへこたれないタフなプレイヤーをゲームデザイナーが作り出すのです。

じゃーどうやってプレイヤー訓練するのか、という話になりますけれども。トークンエコノミー法とよく併用して使われる技法に、シェイピングというのがあります。ざっくり説明するとこう。

◆シェイピング
まずは難易度の低い課題から行って行動を強化し、だんだんと難易度を上げていく手法

プレイヤーには難しいゲームに何度も挑戦する「強化レベル」があると思ってください。レベルが高い人ほど、過去に難しいゲームを遊んでたりして、「達成感」の味を知っています。

さて、強化レベルが低い人に対していきなり高難易度の敵をぶつけるとですね。心が折れます。ボッキリいきます。なので、まずは比較的難易度の低い敵をぶつけて、プレイヤー自身の強化レベルを上げる必要があります。図にするとこう。

強化レベル

いきなりボスEみたいのをぶつけて耐えられるのは、そうとう高難易度のゲームが好きな人です。だいぶニッチなゲームになります。

なのでまずはボスAくらいの難易度からだんだんと難易度を上げ、ボスB、ボスCなどの敵を倒した時に達成感を味あわせます。そしてプレイヤーが訓練されたころにボスEを出せば、最初は強化レベル1くらいのプレイヤーでもその頃には強化レベルが5まで育っているため、遊んでくれるわけです。達成感の味を知っていますから。

ちなみにこの話は高難易度の敵に限った話ではないです。簡単な強化から初めて味を覚えさせ、徐々に難しくしていくのは何かしらの行動を増やしたい時には有効な手段なので、汎用的に使えると思います。


まとめ

とりあえずはここまで。いつもの記事の10倍くらい書くのが大変だった気がします。ちなみに実際の文字数は5倍近く……。

ちょっと内容をまとめましょうか。

知識編
①行動の原因は「行動の後」にある
②その人に取ってのごほうびが「好子」
③ペナルティになる嫌なものが「嫌子」
④行動の後に、好子や嫌子が出たり無くなったりすることで行動が変わる
⑤その行動をした後、行動が増える⇒「強化」
⑥その行動をした後、行動が減る⇒「弱化」
⑦強化や弱化は永遠ではない ⇒ 「消去」「復帰」
⑧毎回好子が貰える連続強化よりも、ランダムで好子が貰える部分強化の方が消去抵抗が大きい
⑨好子や嫌子はなるべく早く出す。60秒以内には出した方が良い。
実践編
①いかに強化をし、弱化を防ぐかを考える
②好子を作るには、「目標」と「目標を達成するのに必要な物」を用意するのが手っ取り早い
③大きな目標に対して複数の小目標をぶら下げると、色んなシステムが機能しやすい
④連続強化と部分強化を組み合わせて考えるのも可能
⑤弱化を引き起こすような無駄なストレス成分は排除
⑥負けても楽しいのが理想
⑦高難易度では敗北の中に好子を仕込む
⑧再挑戦して前よりも進んでいるか、進捗が分かるのが大事
⑨難しい物に挑戦させる前に、クリアすることへの味を覚えさせた方が良い
番外編
①自分のゲームの1つ1つの機能に対して、ちゃんと強化が機能しているか、ランク付けしてみると、何が足りないかが浮き彫りになる
②弱化が発生するようなものがないかも、同時にランク付けしてみると良い
①序盤~中盤で機能していた好子が終盤で機能しなくなると、「終盤まで進めたけどやる気なくなっちゃた」減少が生じるので注意。
②好子をいかにゲームクリアまで切らさないか、も大事。

……多っ。ここまで読んでくれている人いるんですかね。不安になってきた。

実践編で書いているのは、「私が行動分析学の知識を応用するとしたらこんな感じかなー」というところなので、たぶん生かそうとすれば他にも生かせるはず……です。なんか応用して良い感じのゲームデザインができそうだったらこっそり教えてください。

ではでは。参考になっていたら嬉しいです。まとめ終わり。あとは蛇足です。

参考文献

ここで紹介しているのはあくまで行動分析学の基礎知識の部分なので、行動分析学に興味が出てきた方は自分で勉強してみると良いです。知識があれば、あとは使う人次第ですし。

ちなみにこの記事を書くにあたって読んだ本がこちら。

行動分析学入門 ――ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)
行動分析学の入門書としてはうってつけ。基礎知識がわかりやすく解説されています。

メリットの法則 行動分析学・実践編 (集英社新書)
上記の「行動分析学入門」よりもちょっと進んだ内容。臨床事例からの紹介も多いです。

例えば部分強化には、どんなタイミングで好子を出せば良いのか、タイミングの違いで性質が変わるのか……という「強化スケジュール」の研究があったりします。興味があれば調べてると良いかもしれません。


最後にちょっとした問題(茶番)

さて、まとめも終わりましたし、1つ問題を出しましょうか。私がゲームデザイン論を書く上で、何が好子となっているのか。わかりますか?

わ か り ま す よ ね ?

そう!良い記事がかけてゲームデザイナーの役に立てた……というのが形になって現れる「いいね(スキ)」や「リツイート」です。もちろん直接的な感想も小一時間小躍りできるくらいには好子として機能します。

承認欲求

ちなみに「いいね」より「リツイート」の方がインプレッション数が稼げるので、好子としては「リツイート」の方が強かったりしますね。いや、これはただの解説で、他意はないですよ?HAHAHA。

……アレ?奇遇ダナー。こんな所にこの記事の関連ツイートがアルゾー。


宣伝

こういった知識を使いながらゲーム作ってます。


サポート(投げ銭、金銭支援)歓迎です。 頂いたお金はゲームの開発費に使用させていただきます。  ↓ 支援が多いと私のゲームのイラスト枚数が増えたりオリジナルの曲が組み込まれたりします。美味しいお肉を食べに行ったりはしません。