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アイディアを殺す気で挑む、ゲームをブラッシュアップするための思考法

とある会社での私の仕事に「ゲームデザインのレビュー」というのがあります。例えばキャラの仕様書を見て、色々とアドバイスしたりするわけです。

●仕様書にはデメリットがないように書かれているけど、〇〇のこと考慮するとヤバくね?
●このコンセプトなら、この方法の他に△△の方法が考えられるけど、そっちは考えた?

とか。レビューをするとだいたい考慮漏れがあったりして修正が入りますし、そもそもの方向性ごと変わる時もあります。  

こういう突っ込みが入る時、私は「思考が浅い」と表現してたりするんですが。ならば思考を深くする、つまり

●考慮漏れが起きないようにアイディアを考える
●思いついた方法以外のやり方を考えた上で、ベストな選択をする

をするためにはどうすれば良いのか…というのを今回は書いていこうかなーと思います。


あ、ちなみにタイトルは嘘つきました。いや嘘じゃないけど。今回お話しする思考法、要は

物事を客観的に見て、一番良い方法を探り出すための思考法

なので、ゲームをブラッシュアップするためにも使えるんですが、応用すればゲームを企画する段階から使えますし、ゲーム制作以外のあらゆる事に対しても使えるものだと思ってます。

とりあえず説明していきましょ。


◆思考を深くするために何をすればいいの?

考慮漏れが起きず、最善の方法を選択するためにどうすれば良いのか。なんか書いてて大仰だなぁと思ったりしているんですが、まぁそんな特別なことはしないです。だいたい以下の3ステップ。

①現在の状況を整理する
②整理した状況を疑い、検証する。
③他の方法をリストアップしてアイディアを再検討する

はい、たったコレだけ。簡単簡単。慣れてくると他人のアイディアを聞いた瞬間に①~③を頭の中で、瞬時にできるようになってきます。簡単簡単。

あとはこれを、アホみたいに高い精度でやるだけです。簡単簡単。

……はい。これ、低い精度でやっても役に立たんのですよ。考えた気になって、でもほとんど役に立たなくて、無駄な時間を過ごして終わりです。

なので、「どうやったら①~③を高い精度で実行できるか」をこれから解説していきます。基本的な考え方とかを説明してから、架空の例を混ぜながら話していきます。


◆考え方・心構え:疑う心が鍵になる

この思考法は「本当にこのアイディアで大丈夫なの?」と疑問を投げかけることが基本になります。そのためにも、まず最初にいくつか認識しておいて欲しいことがあってですね。人間ってのはそんな合理的には出来てません。

特に以下の2点。

Ⅰ. 人は思いついた方法に固執して縋る
Ⅱ. 
必ず、思いついた方法よりも良い方法は存在する

思いついた方法に固執してしまうので、もっと良い方法を考えなかったり、狭い視野から抜け出せなかったりします。なのでこうした「主観的な見方」から抜け出して「客観的、俯瞰的な見方」に頭を切り替えることが重要になります。

まぁこういう話をすると

それができりゃ苦労しねーよ

と思われるかもしれませんが、それをするための方法がですね。「疑問を投げかける」なんです。「本当に大丈夫なのか?」と疑問をなげかけ、それを検証することで「客観的、俯瞰的な見方」ができるようになってきます。

ちなみに、この考え方は私が大学で研究をしていた時に叩き込まれた「クリティカルシンキング」という思考法がベースになっています。ちょっと興味のある方はこの辺とか読んでみると良いかも。

さて、具体的な方法論を語る前にですね。ちょっと心構えを語ります。

心のどこかで「今思いついた方法が最高で最善だぜ!」なーんて思いながら疑問を投げかけたところで、意味はありません。「今の形が最高だ」という前提で考えても結果は分かり切ってます。

「疑問を投げかけようね」くらいだと甘く考える人が多いので、この話をする時はちょっと過激に表現するくらいがいいのかな、と思ってます。

というわけで、そのアイディアを殺す気で挑みましょう。数多の疑問を投げかけ、殺すのです。疑問にさらされていないアイディアなど温室育ちの甘ちゃんのようなもの。井の中の蛙アイディア。

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なんか面白いアイディアを思いついたときなんかは心がハイになりますよね。これ以上のものはちょっと考えられないなー、とか思っちゃいますよね。最高のアイディア。うんうん。

それ幻想です。思いついた方法に固執して、縋っているだけです。なので疑問を投げかけてブチ殺しましょう。温室育ちの甘ちゃんがイキッたところで、独りよがりのゲームにしかなりません。クソ雑魚。縛りプレイでもしているんですかってな弱さ。

なので甘ちゃんを戦場に放り込むのです。数多の疑問を投げかけ、その疑問を潜り抜けて生き抜いたアイディアこそが、信頼できるアイディアになるのです。まさに歴戦の勇者のごとく。

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はい、言いたいこと言ったので落ち着きます。

ちなみに、こんなこと言ってると

そんなにアイディアを否定しにかかって悲しくならない?
アンタ、ゲーム作ってて面白いのかよ?

とか思われるかもしれませんが、勘違いしてほしくないことが1点。これはあくまで「より良いアイディアを作り出す」ためにやることです。「アイディアを否定する」のは目的ではありません

検討した結果、最初のアイディアが1番良かったならそれでも良いですし。それに、これが上手くできるようになると明確な根拠を持って

へへへ、こいつぁ面白くなるぜ……!

ということが言えるので、自信も持てるし作ってて楽しいです。ウヒョー!


◆考え方・心構え②:何のためのアイディアか、目的を常に意識する

もう1つ主張しておきたいのは、

 「論理的に正しい=ベストなアイディア」ではない

ということ。論理的に正しいのは最低条件の話で、当たり前のことです。論理的に正しい複数のアイディアからベストなアイディアを選択する必要があります。

私が「思考が浅い」と表現する時、皆なにも考えていないわけではないんですよ。むしろ、「〇〇という理由で、××という仕様にしました」というのはちゃんと持ってくるので、論理的には正しい事を言っているのがほとんどです。そうするのが正しいようにすら聞こえます。

でも「なぜこの仕様が良いのか」って話は、後からいくらでもこじつけられるんです。特にそのアイディアに固執していると、あらゆる手を使って皆こじつけます。そしてだんだんと矛盾点が出てくるので、指摘すると空中分解が起こったりします。どかーん。

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なので、そのアイディアを採用する理由を考えるよりも、「目的(そもそも何を達成したいのか、コンセプト)と目的を達成するための条件」をベースで考えていった方が、アイディアの確度は上がります。

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アイディアが先行してある場合も、そのアイディアを基に目的や条件を洗いなおしてブラッシュアップしていった方が、良いものができます。この辺りはコンセプトとかその辺の話とかぶりますね。

詳しくはこっちの記事で解説してます。

さて、考え方や心構えについてはこれまで。長い前置きもようやく終わりです。


◆疑問の投げかけ方

まずこの思考法の基本として「疑問を投げかける」というのを挙げたのですが……こうは言ってもですね。大体の人は、

これまで疑問に思うこともなかったし、いきなり言われても…どうやって?

ってなると思うんですよ。なので、いくつか抑えておいた方が良いポイントを紹介しておきます。

まず、疑問を投げる対象は大きく分けて2つ。「前提情報への疑問」と「アイディアへの疑問」です。まずは「前提情報への疑問」から。

【前提情報】
考えるために必要な情報。ここが間違っていると、方法をどんなに考えてもどんでん返しが発生して考え直しになってしまう。
例:目的(コンセプト)、問題の原因、仮説、前提条件、事前の想定

前提情報はフワッと考えて終わらしがちなんですが、正確に把握しておかないと「こんなはずじゃなかった」みたいな状況になりがちです。

詳しくは後で架空の例を出しながら説明していきますが、これらに対して、

・曖昧なところはない?
・その仮説、本当にあっているの?
・この件と関連した所に、同じような問題は無い?

みたいな疑問を投げると良い感じに詰めることができます。図にすると↓みたいな感じ。

疑問を投げる_前提

まぁ、詳しいことは後で。

次に「アイディアへの疑問」です。

【アイディア】
前提情報を踏まえたうえで、実際に何をするのか。方法。

さて、「俺様の考えた最高のアイディア」を殺しにかかるわけですが……やっといた方がよい質問は以下の3つです。

・このアイディアの良い所と悪い所は?
・このアイディア、コンセプトにどのくらいあってる?
・このアイディア以外に、別の方法は無いの?

まず、最高だ!と思っている時点で「悪い所」が見えていない状態になっている可能性が高いです。恋は盲目と言いますか、そのアイディアのデメリットが見えていないので、総合的に見て微妙な案でも素晴らしいアイディアだと信じてしまう。なので、意識して悪い所をピックアップしましょう。「このアイディアの悪い所はどこ?」みたいな。

目的やコンセプトをちゃんと立てている場合は、コンセプトへの適合率も確認した方が良いです。少しだけコンセプトに沿っている…程度のアイディアなら、没にしてしまった方が良い。ここの詳しい説明は他の記事でやってます。

最後に、可能であればアイディアはコンペ形式にして決めると、別の方法を探りやすくなります。アイディアを1つだけ考えてうんうん唸るよりも、コンセプトに合わせてアイディアを複数考えてどれが最善かなーと考えた方が、視野が広がるわけです。ゲームシステムとかをアイディア先行で考える場合もそうで、最初に考えたアイディアからコンセプトを抽出して、他の案を考える。

コンセプトベース_コンペ形式

全て良いアイディアを出さなきゃいけないというわけでもないので、とにかくアイディアの数を出す癖をつけると良いですね。ちなみに他の記事で「コンセプトって大事だよ」と言ってるのは「コンセプトがないとコンペ形式の判断基準がないし、他のアイディアを考えるのも難しい」ということでもあります。あとぶっちゃけた話、常に1案を考える人よりも、3案くらい考えた上でもってくる人の方が成長もするし周りからも信頼されます。

ちょっと脱線しましたが、「アイディアへの疑問」を図にするとこうです。

疑問を投げる_方法

ちなみに、疑問の例として6つを挙げましたが、これはあくまで例です。慣れてきたら、自分の状況に応じて「どんな疑問をぶつければ良さそうなのか」を考えてみてください。

ということで。以上を踏まえて、最初の方に話した以下の3ステップを実践していきます。

①現在の状況を整理する
②整理した状況を疑い、検証する。
③他の方法をリストアップしてアイディアを再検討する


◆①現在の状況を整理する

先ほど「疑問を投げかける」ことの解説をしましたが、これをするには状況を正確に把握している必要があります。なので、まず最初に状況を整理すると良いです。

ここからは例がないとよく分からないと思うので、架空の例を交えて説明していきましょうか。例えとしてゲームバランスの調整を1例に挙げましょう。こういうの。

【問題】
RPGのゲーム中盤で、剣士タイプのキャラAが出すダメージが想定よりも高く、敵が簡単に倒せてしまう。
【調整方法】
キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題なので、キャラA自身の攻撃力を下げて調整する。

一見妥当なこの調整、場合によってはクソ調整になります。ゴミクズです。試しに疑問を投げてブチ殺しに行ってみましょう(過激)。


まずはより的確にブチ殺していくために項目を分けて状況を整理します。例えばこう。

------------------前提情報------------------
【問題】

・敵が簡単に倒せてしまう
【原因・仮説】
・RPGのゲーム中盤でキャラAの出すダメージが想定よりも高い
 →キャラAの攻撃力が高すぎるせいで、想定よりもダメージが大きい
【前提】
・本来想定していたダメージは適切
【目的、達成したいこと】
・簡単に敵が倒れないようにして、ゲームバランスを整えたい

------------------アイディア------------------
【調整方法】
・キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題。
 →キャラA自身の攻撃力を下げて敵が簡単に倒れないように調整する。

はい、まだクソ整理です。まだまだ甘い。

整理をする時には曖昧な要素をできるだけ排除する事が重要です。曖昧なまま把握していると、勘違いが発生したり、目指すべきものがブレたりするので。疑問を投げかけて曖昧さを消します。例えばこう。

【問題】
・敵が簡単に倒せてしまう
 →簡単に倒せてしまうって何?
 →具体的には想定とどのくらい差があるの?
  ↓
敵はキャラAの攻撃に1発は耐えて欲しいが、耐えきれずに死んでしまう
【原因・仮説】
・RPGのゲーム中盤でキャラAの出すダメージが想定よりも高い
 →キャラAの攻撃力が高すぎるせいで、想定よりもダメージが大きい
 →そもそも想定していたダメージっていくつ?
  ↓
この段階でのキャラAでは想定として100ダメージを与えるはずだったが、実際は150ダメージと1.5倍ものダメージが出ていた。
【前提】
・本来想定していたダメージは適切
 →なぜ適切だと言える?
 →敵のHPは120で、キャラAの攻撃に1発は耐える予定だった。
 →なので本来想定していたダメージ(100)は適切

このように、具体的な数字や状況を明確化すると、何をするべきかが見えやすくなります。

また、目的(コンセプト)の部分がフワフワにフワってるのは最悪です。目指すべき方向性がよく分からないと、何がしたいのかよく分からないアイディアしか出てこないです。なんとなくは分かるけど具体的なゲームシーンが思い浮かばないようなのはより具体的にしましょう。

【目的、達成したいこと】
・簡単に敵が倒れないようにして、ゲームバランスを整えたい
 → ゲームバランスって何?わかるようでわからない。
 → ゲームバランスを整えることによって何がしたいの?
 → プレイヤーに何を楽しんでほしいの?どう感じて欲しいの?
 → それをするためには、どういう状態になっていれば望ましいの?
   ↓
プレイヤーに歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい。
そのために、少なくとも1回は攻撃に耐えて、反撃してくるようなバランスにしたい。

基本的には「何が楽しい」「そのためにはどういう状態になっているのが望ましい」が挙げられてるとイメージしやすくなると思います。

以上を踏まえ修正するとこう。

------------------前提情報------------------
【問題】

・敵が簡単に倒せてしまう。
 キャラAの攻撃を1発まで耐えて欲しいが、耐えきれずに死んでしまう。
【原因・仮説】
・ゲーム中盤でキャラAの出すダメージが想定よりも大きい。
 →想定(100)の1.5倍(150)ダメージが出ている
 →仮説:キャラAの攻撃力が高すぎるせい
【前提】
・敵のHPは120でキャラAの攻撃を1発耐える予定だった。
 →なので本来想定していたダメージ(100)は適切
【目的、達成したいこと】
・プレイヤーに歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい。
 少なくとも1回は攻撃に耐えて反撃してくるようなバランスにしたい。

 ------------------アイディア------------------
【調整方法】

・キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題。
 →キャラA自身の攻撃力を下げて敵が簡単に倒れないように調整する。

まぁまだ甘いんですが、収拾がつかなくなるのでとりあえずはこれくらいに。この現在の状況の整理は、②や③をやっている時も必要に応じて行っていきます。

さて、状況も整理したので今度は検証に移ります。


◆②整理した状況を疑い、検証する

前提情報がちゃんと機能しているかを確かめます。ここが機能していないと大変なことになるので、「本当にそうなの?」と問い直しましょう。

まずはさっきやった目的の部分。

【目的、達成したいこと】
・プレイヤーに歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい。
 少なくとも1回は攻撃に耐えて反撃してくるようなバランスにしたい。
 →本当にその方向性で大丈夫?ゲームのコンセプトに合う?
 →その方向性で行く場合、攻撃に耐えるのは1回で大丈夫?

まず、このゲーム本来のコンセプトとマッチしているかを比べます。高難易度のゲームだったら「歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい」という部分は問題なさそうです。次に目安となる「1回は攻撃に耐える」という部分を再検討します。ここが変わったら、前提としている想定ダメージも大きく変わることになります。

ただし、シナリオメインでサクサク進んでほしいゲームであるなら、「歯ごたえのある戦闘」は邪魔になる可能性があります。場合によっては「なんか問題として挙げられたけど、実はこんくらいで良かったんじゃね?」としてこのまま行った方が良いかもしれません。そうなると、「攻撃力を下げて対応しよう!」というのは的外れな対応になって死にます

コンセプトの一致

まぁ今回は面倒なので、「目的部分は問題なかった」として進めます。


次は前提としている、想定ダメージに疑問を投げます。

【前提】
・敵のHPは120でキャラAの攻撃を1発耐える予定だった。
 →なので本来想定していたダメージ(100)は適切
 →想定ダメージってキャラと敵の関係でのみ決まるもの?
 →キャラA自体のコンセプトに問題は無い?
 →味方のキャラ間でのダメージ感に問題は無い?

いや、想定って大前提のところだし、想定自体がダメならもう何を信じて良いんだよコノヤローって感じなんですけど。残念ながら、想定自体がダメになるパターンというのはちょこちょこあります。例えば、他の調整をしていてその影響を受けてしまったパターン。または、考慮すべき他の項目を考慮してなかったパターンとか。

怖いのは「色んな目的が絡み合って矛盾が生じ、崩壊する」みたいなやつです。

例えば、RPGなんで仲間とか他のプレイアブルキャラがいるとしましょうか。キャラB、キャラC、キャラDみたいな。そうなるとキャラ間の差別化をするために特徴を持たせたりするわけです。そしてキャラAのコンセプトが「他のキャラよりも、大きなダメージが出るのが気持ちの良いキャラ」だとすると、想定ダメージはキャラAのコンセプトも考慮しなければいけません。

そしてキャラAのコンセプトに関して、調整をして

気持ちよくなるくらい大きなダメージってどのくらいかな?
 ↓
色々試した結果、他キャラ(80ダメ)よりも倍近く出ると気持ち良い!

となっていた場合、矛盾が生じて崩壊が始まります。

図にするとこんな感じ。

想定ダメージの崩壊

ここを考慮しないで元の想定ダメージ(100)に合わせると、キャラAの魅力が消えます。ゲームバランスは保たれるかもしれませんが、キャラの面白みがないゲームになります。要注意。

こうなっちゃうと、「攻撃力を下げて対応しよう!」というのは的外れな対応になって死にます。攻撃力を下げるよりも、敵のHPを上げた方が良いかもしれません。

そういった意味では最初の整理の時に

【守っておきたい項目】
・キャラAのコンセプト(大きなダメージが気持ち良いキャラ)
 →他キャラの倍近くのダメージが出るようにしておく

みたいな項目を追加しておくと、考慮漏れが起きにくいです。

ゲームのアイディアは1度考えたら終わりではなく、実際に試して調整したり、新しいアイディアを閃いてブラッシュアップしていきます。その際に「修正したらそのせいで別の問題が発生した」みたいなことが起きたら本末転倒なので、手を入れる場所と関連する所はチェックしておきましょう。


これも面倒なので大丈夫だったってことにして次の原因・仮説に行きます。

【原因・仮説】
・ゲーム中盤でキャラAの出すダメージが想定よりも大きい。
 →想定(100)の1.5倍(150)ダメージが出ている
 →仮説:キャラAの攻撃力が高すぎるせい
  ↓ 
 →本当に、悪さをしているのが攻撃力の高さなのか?
 →どういう状況で想定よりも大きなダメージが出ている?
 →そもそも、ダメージに影響を及ぼすのは何がある?

仮説を立てるのは良いんですが、ちょっと確認すればわかることを確認しないで「たぶんこの仮説はあってるぞ!」とか思っちゃうのは危険です。レビューとかしてると、このパターンけっこう多いです。

「ダメージが高い原因は、攻撃力が高いせいだ」というのは非常に分かりやすい理論です。そして人は「悪さしてそうな分かりやすい原因」があると飛びつきたくなり、尤もらしい理由がつけられると分かりやすい仮説に縋りたくなるものです。ただ現実は非情であり、真実は常に1つです。検証してみると仮説が間違っているとこも多々あります。

検証するために、まずは状況を特定しましょう。

【状況例】
・どんなプレイをしてもなる
・強いバフがかかっている時のみ
・特定の装備やスキル(パッシブ含む)の組み合わせの時のみ

攻撃力ってかなり汎用性の高いステータスなので、一歩間違えると「正常だったバランスが崩れてしまう」みたいなことになりかねません。なので「常にキャラAは攻撃力が高いのか」「特定の状況でのみ攻撃力が高いのか」を判別します。

「常に攻撃力が高い」のなら、攻撃力は下げた方が良いのかもしれません。しかし、「特定の状況でのみ攻撃力が高い」のであれば、無暗に攻撃力を下げるとその状況でないときに攻撃力不足に陥る可能性が高いです。こうなっちゃうと、「攻撃力を下げて対応しよう!」というのは的外れな対応になって死にます

状況を特定したうえで、次に「ダメージへ影響しそうなもの」を挙げていきます。

【ダメージに影響しそうなもの】
・キャラの攻撃力
・キャラの装備の攻撃力
・キャラのスキル威力
・キャラのパッシブスキル
・攻撃する時の属性
・敵の防御力

適当に挙げただけでもそれなりに出ます。RPG自体が複雑になりやすいジャンルっていうのもありますけど。

大事なのは「いろんな要素があるのに、なんで攻撃力が高いのが原因って言えるの?」ってとこです。分かりやすい原因に飛びついている場合、そもそもこの「いろんな要素」自体を考慮に入れてなかったりしてます。なので考慮不足が起きる。

試しになんでもない通常攻撃をやらせてダメージを見るだけでも、「攻撃力がヤバいのか」「スキルの威力がヤバいのか」みたいな切り分けは出来るので、仮説の根拠になる軽~い検証くらいはしてもバチはあたらないかと。思いますね。

試してみて、例えば特定のスキル威力がヤバいだけなら…やっぱり「攻撃力を下げて対応しよう!」というのは的外れな対応になって死にます


◆③他の方法をリストアップしてアイディアを再検討する

さて、前提情報の検証が終わったので次にアイディアの再検討…なのですが。

【調整方法】
・キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題。
 →キャラA自身の攻撃力を下げて敵が簡単に倒れないように調整する。
【やった方が良い質問】
・このアイディアの良い所と悪い所は?
・このアイディア、コンセプトにどのくらいあってる?
・このアイディア以外に、別の方法は無いの?

今回の例だと、前提情報の検証をする時にけっこう似たようなことをやってたりします。前提を見る時にコンセプトを確認したり、仮説の検証をするのに他の方法を探したり。既にやっているところはスルーしても良いですし、念のためにもう一度疑問を投げかけても良いと思います。

今回の例みたいな「悪い所があって直す」だと「仮説の検証=方法の決定」みたいな感じになりますけど、ゲームシステムを考える時なんかはこっちで使う質問になりやすいですね。

なのでちょっと、仮説を抜きにした方法の決定を考えてみます。若干さっきやってたこととかぶりますが、まずは状況のおさらいから。

【問題】
・敵が簡単に倒せてしまう。
 キャラAの攻撃を1発まで耐えて欲しいが、耐えきれずに死んでしまう。
【前提】
・敵のHPは120でキャラAの攻撃を1発耐える予定だった。
 →なので本来想定していたダメージ(100)は適切
【目的、達成したいこと】
・プレイヤーに歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい。
 少なくとも1回は攻撃に耐えて反撃してくるようなバランスにしたい。
【守っておきたい項目】
・キャラAのコンセプト(大きなダメージが気持ち良いキャラ)
 →他キャラの倍近くのダメージが出るようにしておく
【調整方法】
・キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題。
 →キャラA自身の攻撃力を下げて敵が簡単に倒れないように調整する。

と、いうわけで今考えている調整方法を疑ってみましょう。「攻撃力を下げて対応する」ことの、良い所と悪い所はどこでしょうか?

実際の所はゲームによって変わってきますが、1例として架空のRPGに対して想像で書くとこんな感じです。

【調整方法】
・キャラAの出すダメージが高すぎるのが問題。
 →キャラA自身の攻撃力を下げて敵が簡単に倒れないように調整する。
 →このアイディアの良い所と悪い所は?
   ↓
【良い所(メリット)】
そのキャラが出す色々な攻撃のダメージをまとめて下げることができる。安定して、分かりやすく手っ取り早い対処法。
【悪い所(デメリット)】
下げたくない攻撃の威力も下がってしまう可能性がある。

仮説の検証の所でもちらっと話しましたが、良い所を鑑みると「キャラAの攻撃が全体的に強すぎる」なら攻撃力を下げるのはアリです。ただし「キャラAの一部の攻撃だけが強すぎる」なら、悪い所の影響をモロに受けるので止めておいた方が良いかもしれません。

また、目的やコンセプトについても合致するかも検討します。

【目的、達成したいこと】
・プレイヤーに歯ごたえのある戦闘を楽しんでほしい。
 少なくとも1回は攻撃に耐えて反撃してくるようなバランスにしたい。
【守っておきたい項目】
・キャラAのコンセプト(大きなダメージが気持ち良いキャラ)
 →他キャラの倍近くのダメージが出るようにしておく
  ↓
攻撃力を下げるアイディアって、コンセプトにどのくらいあってる?
  ↓
攻撃力が下がることで与えるダメージを下げることができるので、目的を達成する事はできる
ただし、これによって他キャラの倍近くのダメージが出なくなった……という状態になるのであれば、キャラAのコンセプトが達成できなくなる

あっちを立てればこっちが立たずみたいな状況ですね。攻撃力を下げても倍くらいのダメージが出せれば良いんですが、出せなかった時がちょっとまずい。

ここでは「攻撃力を下げたら敵がちゃんと耐えるようになったけど、キャラAのコンセプトが達成できなくなった」として進めていきます。

別の方法を探してみましょう。ダメージに関係ありそうなものを何でも良いのでリストアップしてみます。考慮漏れを防ぐために、「これは採用しないだろー」っていうのも含めて思いつたらリストアップです。

【問題や目的に影響しそうなもの(キャラ側)】
・キャラの攻撃力
・キャラのスキル威力
・キャラのパッシブスキル

【問題や目的に影響しそうなもの(敵側)】
・敵のHP
・敵の防御力
・敵の属性耐性

これらに関して良い所と悪い所を挙げて評価していくんですが、そろそろコレを書くのにも疲れてきたので簡潔に済ませます。点数はだいたいで大丈夫です。

-----問題や目的に影響しそうなもの(キャラ側)-----
【キャラの攻撃力を下げる:50点】
攻撃全般が強すぎる場合は有効だが、ちょうど良い塩梅にするとキャラ自体のコンセプトが達成できない。
キャラのスキル威力を下げる:60点
特定のスキルが悪さをしている場合は有効。ただし、そのスキルのコンセプトに反しないように注意する必要がある。
キャラのパッシブスキルを下げる:40点
攻撃力+50%とか、ダメージを底上げするようなパッシブがかかっている場合は有効。ただし、単純な底上げ系パッシブの場合は攻撃力を下げたりスキルの威力を下げたりするのと最終的な結果は変わらない。

-----問題や目的に影響しそうなもの(敵側)-----
敵のHPを上げる:75点
HPを上げて耐えるようにしてしまえば、キャラAのコンセプトを保ったまま目的が達成できる。
ただし、想定していたよりもダメージのインフレが大きいという事にもなるので、将来的にダメージがカンストしたりしないように注意する必要がある。
敵の防御力を上げる:90点
HPと同様、キャラAのコンセプトを保ったまま目的が達成できる。
防御力の影響で他のキャラのダメージが弱くなりすぎたりしないように注意を払う必要。ただし、そもそもとしてキャラAのダメージが出すぎていたというのもあるので、問題ないレベルであればダメージが下がるのは良い。
敵の属性耐性:0点
対キャラA用に耐性をつければダメージは下がるが、全ての敵に対してやるわけにもいかなし、キャラAのダメージを下げるとそもそもコンセプトが達成できない。他のキャラも巻き添えを食う可能性も。

状況としては

攻撃力を下げたら敵がちゃんと耐えるようになったけど、キャラAのコンセプトが達成できなくなった

という状態なので、キャラAのみダメージを下げる方法だと良い結果はあまり得られそうにありません。敵のHPや防御力を上げる方向で調整した方が良い結果が得られそうです。特に問題が起きないようであれば、得点が高いと判断した「敵の防御力を上げる」方向で調整すれば良いでしょう。

では、防御力のほうでも他キャラのダメージが低くなりすぎたりして問題が起きた場合はどうでしょうか。HPを上げる……という方法もベターですが、もう1つ方法があります。方法の掛け算をしてみましょう。

例えば、以下の2つの方法。

・キャラAの攻撃力を下げる
 →問題:キャラAの個性が消える
・敵の防御力を上げる
 →問題:他キャラのダメージが低くなりすぎる

両方とも単体でやりすぎると問題を起こしますが、これらは別々の問題で、競合しません。なので

キャラAの攻撃力をちょっと下げて、敵の防御力をちょっと上げる

みたいなこともできます。それぞれをちょっと下げるくらいなら問題が起きない場合、想定外のダメージインフレを許容するHP上昇よりも安全なので、こちらの方が得点は高くなります。

ちなみに

「これは採用しないだろー」っていうのも含めて思いつたらリストアップです。

と書いたのは、方法の掛け算をやりやすくするためでもあります。単体で使えない案でも掛け算に使える可能性があるので、リストアップしたものを眺めながら考えるとアイディアを思いつきやすかったりします。


◆まとめ

今回の話をまとめると、↓ですかね。長いんでスルーしてもOK。

【考え方】
①考慮漏れがおきないように、広い視野をもってゲームの仕様を考えよう。
②それをするには客観的・俯瞰的な視点で見る必要がある。
③客観的な視点に頭を切り替えるために、疑問を投げよう。
④前提となる情報や、アイディアに対して懐疑的に対して疑問を投げる。
⑤アイディアを殺す気でいくぐらいがちょうど良い。
⑥自分のアイディアを正当化する理由を探し始めると危険。
⑦だいたいやることは以下の3ステップ
 1.現在の状況を整理する。
 2.整理した状況を疑い、検証する。
 3.他の方法をリストアップしてアイディアを再検討する。
⑧↑を高精度でやる。低い精度でやっても意味がない。

【前提情報を疑う】
⑨前提が崩れると全て崩れるので、まずは前提を疑って固める。
⑩状況を整理する時は、曖昧な表現は徹底的に排除する。
⑪やろうとしていることがコンセプトから反れないように気を付ける。
⑫直接は関係ないけど、関連して考える必要があるものも把握すること。
⑬ここに影響が出たらやべーよ、ってのも事前に把握しておく。
⑭仮説を立てたら、軽くでいいので検証をする。縋るな。

【方法を疑う】
⑮本当に今考えているアイディアがベストか疑う。幻想に縋るな。
⑯アイディアの悪い所もしっかり見た上で、何を採用するか決める。
⑯方法を考える時は、アイディアをとにかくリストアップすると良い。
⑰方法の掛け算で新しいアイディアを考えることも有効。
 そのためにもリストアップ。

正直、初めてやろうとするとけっこう時間かかるとは思います。慣れな部分もあるので。

ちょっと大変すぎるなーと思ったら、ストレスに感じない範囲でやって、徐々に精度を上げていくことをお勧めしますね。最終的には頭の中でちゃっちゃか組み立てられるようになるのが理想です。

私のやり方が万人に向くやり方とも思っていないので、これをたたき台に自分のやり方を探ってみると良いかと思います。あとなんか良い感じの方法が思いついたらこそっと教えて頂けるとですね。ごにょごにょ。

以上!おわり!


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