草むしり

散歩の延長線上にあるような、鬱で五感が死んでいるが元々ADHDの私が満たされるための要素が揃っている仕事をしている。

謎のクレームが入ったので、今日は残業をして草むしりをやった。

日中だと熱中症になるし、普通にいつもの作業がある。なので日中はやるひまがなかった。ちょうど他の人がやるひとつの作業が終わらないと俺のやることがないという状況になったので、なんとなくやりはじめたら楽しくてやってしまった。夕方から夜にかけてならそんなに暑くもないしまぁええか〜となんだかんだ2時間くらいやっていた。




ウチの会社は、かなり敷地が広い(家賃もかなり高い)。かなり太い会社らしい。

見栄えを良くするためなのか、会社の敷地の外側に直角定規みたいなカタチの花壇みたいなのがある。

あまりにも手入れをせずにいるため草がボーボーになって、もはや木のような茎の謎の植物が人の背丈よりも高く生え盛る始末である。

それが裏道の道路を通る時に邪魔だということで、その付近の会社からクレームが入ったのである。




とりあえず、木のように茎が太くなったものから大きい鎌で刈っていく。

とても楽しい。

いつもと違う体の動きをするのが楽しい。いつもと違う作業をしていつもと違う頭の使い方をするのが楽しい。

いろんな虫が出てくるのが楽しい。赤くてケツがデカいアリみたいな虫、クソデカショウリョウバッタ、なんか変な羽の虫。いろいろいた。




クレームの原因になっている部分だけとりあえず終わらせたところ、その方がちょうど通りがかって「どうもありがとうございます」とあいさつをしてくれた。

「あ、こんにちは。すいませんでした。とりあえず、飛び出してる部分だけ取り除いたんですけど、これでひとまずは大丈夫そうですかね?」「はい、ありがとうございます」「いえいえ、お手数をおかけしてすいませんでした」

そんな会話をした。




全体的にすべての雑草を排除せよとのご命令なので、小さい草をむしりはじめる。

よく見てみると、大量の小さいアリがいる。ダンゴムシがいる。小さいショウリョウバッタがいる。

それらをみていくうちにどんどん悲しい気持ちになってきた。

俺はひとつの世界を破壊しているんだなと思った。




よく考えてみればひどい話だ。

元々はおそらく土があり草むらがあったところを、モルタルやらなんやらで埋め立てて、生き物が住めないようにする。

でも、見栄えのためにとお気持ち程度に土を入れるスペースをあけて土を入れて植物を植える。

大して手入れもしないままボーボーになった草木の中には、生命が育つ。虫やミミズ、なんかしらの微生物もいるんだろう。

そうやって人間の都合で破壊した自然の中に、また人間の都合で不自然な自然をつくる。そして、また人間の都合でその不自然な自然を破壊する。

これは神が世界を破壊するようなもんでもあり、テロリストが巨大なビルに突っ込むようなもんでもある。除草剤も撒くらしいから、原爆を落とすようなものでもあるのかもしれない。




俺は会社のために、金のために、自分の快楽性のために(草むしりが楽しいので)、ひとつの世界、ひとつの構造を破壊したのである。

悲しい気持ちになりながら作業をつづける。

奪った場所に毎日住みつづけて、奪った場所を通り会社にいったり遊びに街へ行ったりしている。命を奪い肉を食っている。当たり前に自分が毎日のようにしていることなのに、いまさらその現実を突きつけられる。




これから先、ヴィーガンになるつもりはない。過激な環境保護活動をするつもりもない。

人間が自然豊かな場所を奪ったことで、奪われずに済んだ命もあったのだ。生まれずに済んだ命があった。生まれなかったから殺されずに済んだ命があった。

結局、腹が減ったとか、暇つぶしに殺してみるやら、なんか歩いてたら潰しちゃったやら、そんな理由で虫は死ぬ。動物もそう。

俺が殺さなくても殺されていた命。それを俺は大量に奪った。それだけのことに過ぎない。




それでも、やっぱり俺は虫が好きだ。死んで欲しくない。ダンゴムシやらハエトリグモやらわりと毎日のようにいろんな虫を会社の敷地内から逃している。対して意味はないんだろうが、その場で死んで欲しくないので。

まぁアリとかハエとかゴキブリとかはめんどくさいので放置するので、虫が好きというわけでもないのかもしれない。非常に差別的だな。愛を分け与えられる対象には限りがあるから仕方がないけれど。




「俺はひとつの世界を壊したのだ」という想いがぬぐえない。テロリストとなんら変わらないことをしたのだ。エゴのために、大義名分のために。それが人間なんだろうけど、やっぱり痛いし、悲しい。

生きるということは罪深いな。罪を犯しつづけていくしかない。苦しみ老いて死ぬことが罰なのかもしれない。

草むしりとはテロである。俺はテロリストである。草むしりをした俺たちはもれなく世界を破壊するテロリストなのである。

そして、こんなに草むしりを味わっている俺はたぶん草むしり検定1級に相当する草むしラーです。

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