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世界はこんなに広いのに異常に狭い私たちの関心領域【映画】♯111


関心領域

  2024年/アメリカ、イギリス、ポーランド

【ストーリー】


1940年から強制収容所の所長を務めたルドルフとその一家の話し。ヒトラー崇拝とユダヤ人蔑視をしているルドルフは、非常に仕事熱心で自分の信念に従って動く人。義務感に囚われた普通のパパは家庭的な人間でありながら、いかに非国民を黙らせるか、ヒムラーが進めるユダヤ人大量虐殺を実行していく。

ほのぼのした日常


【解説というか、レヴューというか、】 


妻や子供を愛し、豪邸で平和に生活する一家。その家の塀の「向こう側」では今まさにホロコーストが行われている。この映画は一切、塀の向こう側を見せない。

塀の中の一家にホロコーストは関係ない。恐ろしいのはルドルフやナチ党員だけじゃない。主にその妻にある。毎日繰り返される殺戮は、塀によって見えはしないものの、音で何が起きているのか理解するのは容易い。



渇いた銃声の音、叫び声うめき声が毎日鳴り響いている。だけどルドルフとその妻に殺戮の音は聞こえていない。聞こえているはずの不快な音が、豪華で贅沢な暮らしで聞こえなくなっている。映画は虐殺の場面を見せないで、無関心の残酷さを伝えています。塀は私たちの生活の中で例えるなら何だろう。距離ではないかと思う。

報道などで何が起こっているのか分かっていながら、遠いから実感がなく
自分たちの目の前にある生活しか見ようとしない。罪の意識を感じなかったら、塀内で起きている事しか認識できない想像力が欠けたルドルフの妻と同じなのだ。聴こえているのに盲目だ。映像と音のギャップで、慣れや無関心の狂気、さらには負の歴史を忘れていく私たちをとがめている、そういう作品だと思う。



【シネマメモ】


ナチス党員にはルドルフ=ヘスという人物が二人いる。一人はナチ副総統、もう一人がアウシュビッツ収容所長。階段を降りながら、暗闇へと嘔吐している描写は、アウシュビッツで絞首刑に処されたルドルフの最後を現しているんだろう。


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