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自己プロデュースで高まる能力はどれくらいか【ザ キラー】映画♯110




ザ・キラー  2023年/アメリカ、イギリス



【ストーリー】


殺し屋の男が標的を狙っている。その為に入念に準備をする。ハンバーガーを食べる、ヨガをする、スミスを聴く。ルーティーン通りに任務を遂行するがミスを犯してしまう。そこから窮地に立たされた男。男はある場所へ向かう。



【解説というか、レヴューというか、】

章立てで進行する映画。特に序章はスタイリッシュでクールな印象。タイトルが「ザ・キラー」ならばさぞ一流かと思いきや、まさかのまさか。隙があってはならない男の隙はやけにリアリティーがある。ミスって漂う緊張感。セルフでフォローしてるけど慌ててる感じを見ていると、あら、なんだ結構普通のおじさんなんだと思っちゃう。何だかがっかりな気分になるのは、ついついステレオタイプな殺し屋を追い求めてしまう自分がいるからだ。実際の殺し屋ってこんなものなのかもしれない。そうだよ、ジョンウィックみたいな殺し屋が本当にいる訳ないのに。

殺し屋の食事といえばハンバーガー


この映画が面白いのは、誰よりも主人公が映画的な殺し屋になりきっているところ。そんな男が愛聴するのはザ・スミス。自分のテンションをあげる為に使っている作業用BGMだ。殺し屋が聴くにしては随分ポップじゃないか。洒落た若者だった過去が伺える。そんなスミスの歌詞には“僕は人間だから、みんなと同じように愛情を必要としてる”とある。だからやっぱり、現実にいる殺し屋は皆んなが思っているより結構普通で皆と同じように死ぬのが怖いのだ。

だから詩をよむみたいに、暗殺までの所業をモノローグで語っている。そうやって映画風の殺し屋になる為に、自分に暗示をかけているのだ。この普通のおじさんは、例え失敗しても虎視眈々と仕事をきっちり完結させる。まるで職人みたいな姿だ。演出でもって自分を作り上げていく様はザ・キラーそのもの。映画作品として問題は完結はさせるけど、殺し屋として完璧には終わらない人間味を出す結末には驚き。なのだが、これがこの作品のミソなんだよね。

殺し屋を演じている殺し屋だ


レビューサイトでは評価が今ひとつらしいですが、私はこの映画を気に入っている。こういう実験的な映画は時間をかけて、ジワジワと評価を上げていくものなのだろう。監督のフィンチャーはドラマチック過ぎる既存のノワール作に飽きて、新しいタイプの闇社会作品ネオノワールでも作ろうとしたのかもしれない。


【シネマメモ】

解説で挙げた曲は「How Soon Is Now?」です。
よく映画作品で使われるスミスの名曲はこれ
「There Is The Light That Never Goes Out」歌詞が特にいい。


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