サクッとやっちゃう元カノ【後編】
【前編・中編はこちら↓】
操作ミス?
一瞬そう思いましたが、それは違います。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダは、マシンガンの発砲音です。
それまで彼女が装備していたのは、小ぶりなハンドガン。
彼女は、わざわざ攻撃力倍増のマシンガンに持ち替え、ダダダダダダダダダダダダダダダダダダと己の意思でブチのめしたのです。
茫然自失の僕に、彼女は言いました。
「先に殺らなイカれる思て 笑」
"シャバNG"の眼をしていました。
パッキパキでした。
極限状態におかれ、彼女の中に眠る悪魔が覚醒したようです。
ゾンビ犬に牙をむかれて身体が震えていたのは、恐怖からではなく武者震いだったのでしょうか。
悪魔は、既に絶命したゾンビ犬を横切る際、ダダ・ダダ・ダダと1匹につき2発ずつ銃弾のおかわりを喰らわしていました。
鬼畜の所業であります。
「メッチャごめん...」と、倒れたゾンビに謝る彼女はどこへ行っちまったのでしょうか。
「キャー!」
「こわい!」
人間が魂を統べていた頃の彼女が、走馬灯のように駆け巡ります。
もしも「ぬるない?」にブチぎれて喧嘩を売っていたら、今頃の僕はどうなっていたことでしょう。
弾切れの喜び
マシンガンをブッ放す快感を覚えた悪魔。
所構わず、ゾンビがいる・いないにかかわらず、四方八方に弾丸を撒き散らします。
(ヤバイ…弾がなくなってしまう)
(止めなければ)
しかし、もはや僕がどうこうできる相手ではありません。
生まれて初めて、殺気というものを感じました。
予想通りマシンガンは弾切れに。
悪魔は素早くハンドガンに持ち替え、発砲を再開します。
このままではハンドガンの弾が切れるのも時間の問題です。
せっかくここまでゲームを進めてきたのに、無念...。
悔しい反面、少し安堵しました。
ゲームを止めればホモサピエンスに戻ってくれるのではと思ったからです。
(早く弾切れしろ)
(GAME OVERになれ)
僕の思考は、そんな風に変化しました。
期待通り、着々と弾丸をムダにする悪魔。
(いいぞ、いいぞ…)
めでたくハンドガンも弾切れとなりました。
(やったー!)
ヌカヨロコビ
悪魔は、めくるめくスピードでハンドガン → ナイフに持ち替え、ゾンビの喉元をサクッとやっちゃってました。
200時間以上プレイした僕にもできない、クイックネスな動きでサクッとやっちゃってました。
どの攻略本にも載っていないステップワークを駆使してサクサクやっちゃってました。
ナイフは、ゲーム開始時から所持するアイテムの1つ。
銃とは比べ物にならないほど攻撃力が弱く、間合いゼロの至近距離でゾンビと戦わなければなりません。
そのため、バイオハザードを極めし達人クラスですら普通は使用しません。
そんな最弱アイテムでサクッとやっちゃうわけです。
弘法筆を選ばず。
良工は材を選ばず。
悪魔は手段を選ばず。
気付いたらファンになっちゃってました。
可愛くて好きで仕方がなかった彼女から、悪魔に豹変した姿に戦慄し、最後は憧れに変わる。
さまざまな感情が渦巻き、なんとも言いがたい心境でした。
「違法アップロードの動画に広告なんか付けんなや!」と思う反面、「そもそも違法アップロードを視聴する自分の倫理観もどないやねん」と考えが及んだときぐらい、なんとも言いがたい心境でした。
どうぶつ奇想天外!
「メッチャお腹すいてんけど」と、コントローラーを手放したレジェンド。
僕は食欲がありませ…
もとい。
下僕は食欲がありませんでした。
レジェンドが「ピザ食べたい」とおっしゃられたので、Mサイズ(クリスピー生地)とチキンとコーラを注文させていただきました。
注文時に「コーラはキンキンに冷えたやつをお願いします!!」と念を押しました。
届いたピザをむさぼるレジェンド。
クリスピー生地が奏でる"サクッ"という音を聞くたび、背中に汗が滲みます。
そんな下僕をよそに、レジェンドは片膝を立ててバラエティ番組をご覧になっていました。
大御所芸人のマシンガントークにハハハハハハハハハハハハハハハハと大笑いしていました。
下僕は、レジェンドの空いたグラスにコーラを注がせていただく大役を仰せつかりました。
CM中、動物系番組の予告が流れました。
おじいちゃんと共に暮らす、16歳の老犬を特集したドキュメントのようです。
「この子とどっちが長生きできるか勝負しとるんよ」と、おじいちゃん。
「ゔっ…ゔっ…」と、レジェンド。
レジェンドは、ピザの油まみれの手で涙を拭いながら嗚咽を漏らしていました。
こいつマジで狂い散らかしてるやんけ過ぎて、今でも鮮明に覚えている記憶です。
(おしまい)
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