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家のない眼 第三話

土曜日の夜10時ごろ、新開満は良くも悪くもつるんできた高校時代の仲間たちと、
例の家に向かっていた。
仲間は、公務員の大谷保、大工見習の八橋望、サラリーマンの水戸孝、保育士の道本唯の連中だ。
五人はかなり遠くの公園に車を止めて、免許取ったばっかりの大谷は恐る恐る運転してここまでやってきた。
道本はその名前からしてよくからかわれた。
「男でも女でもその名前にしたんだろ?両親は、おまえが武骨なガタイでよかったよ。じゃなかったら俺は好きになってたかもしれん。」
大工見習の八橋は学生時代からからかう。
「こら、そろそろつくぞ、静かにしろ。」
リーダー格の水戸は皆をまとめる。
「うーん、ひょっとしたら・・・。」
大谷は何かを気にしている。周囲は静かで物音なし、時折クシャミとか席の音とか、地域猫の喧嘩とかが聴こえる位。

その家の前についた。
充の家だ。
大谷が小声で言う。
「撮影ダメね、ここは、あの家入家だから。帰ろう。」
家入家に納得した五人は帰ろうとする。それだけ家の名前が重いのだ。
だが、大分まいっていた充は彼らに気付いた。
「こら、そこの五人。よく見たら保君じゃないか。仲間か。」
窓を開けて、酒を飲みながら充は五人に話しかけた、イヤホンをして、AVを見ていたらしい、物音に気付いて、外を見たのだ。
「せっかく来たんだから待ちなさい。ほら、体温計。」
五人はマスクをしていたが充の迫力に負けて体温計で測った。全員正常体温。
五人は充に招かれて家に入った。
家の中は奇麗だった。コロナ禍で充は徹底的に家の掃除をしているのだ。彼の血液型は A型である。
運転手が保つと知り、残りの四人に酒を出す充。
「人と会えなくてねえ、まあ一時間でいいから付き合って。」
あの、家入家の人間には逆らえないと思い従う五人。
それから、男六人結局エロ話で三時間話した。
大谷と八橋は童貞を卒業していたが、水戸と道本、満は童貞である。
充はコロナ禍でもやらせてくれるお水のお嬢を紹介してくれた。充も男、コミュ障でもないし、コロナ前はそれなりに街にのみに行ってたのである。
水戸ら三人は童貞卒業への道が開き、希望を抱いた。

帰り際、それほど酔ってなかったが満は、
「充さん、時々、来ていいですか?俺、寂しくて。こんなこと、初めてあった人に言うべきじゃないのかな?でも、充さんいい人だ。」
それを聞いて充は嬉しそうに、
「来たらいい、家の固定電話からいつでもかけたらいい、うちらは同じ土地の仲間なんだからね。コロナなんて気にするな、あんなのはしかやインフルよりはるかにましさ。この19歳たちは、これを経験して必ず強くなるさ。
いつでも電話しなさい。」
充もそれほど回ってなかったが満の言葉が嬉しかったのだ、つい声が嬉しそうになる。
五人は礼を言って、帰宅した。
帰り際、車の中で唯一飲んでなかった大谷が、
「充さんって名家なのにいい人だなあ。俺誤解してた、あの人家入家の金庫番だけどやはり、本当の格式ってあるんだと思う。さあ、家に帰ろう。」

飲んでいる四人は半分寝ていた。いかんせん社会人の五人、一人暮らしをしているものは一人もいなかったがそれぞれの家に帰った。鍵を開けて。

充は、彼らが帰った後にさらに飲み続けた。
「あの五人は見えなかった。分からない、何なんだ。でも、よかった。」

だが、真夜中にたまたま通りかかった現場帰りの人が見えたために、叫んだ。充には平穏な日々とは縁遠かった。すぐに救急車を呼んで、急性心筋梗塞だったが、43歳の妻帯者は命を取り留めた。

もう、陽が空ける。日曜日、特に予定はない。充は深酒で寝た。
「何とかしてくれよ、助けて。」
少し涙ぐんで眠りについた。

新開満たちはいい情報をもらってコロナ禍であっても充の人柄に触れられて嬉しそうに家で寝ていた。若さは無謀さもある、でも、未知数だ。

#創作大賞2024

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